「波はなぜ伝わるのか」―波動で読み解く音と光の世界ーS-1-4-

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はじめに

音楽が耳に届く。光が目に見える。電波がスマホに情報を運ぶ。レントゲンが体を透視する。

これらはすべてという、エネルギーと情報を空間に伝える仕組みで説明できます。

力学が「物体の運動」、熱が「分子の運動」、電気が「電荷の流れ」だったのに対し、波は「媒質や場の振動が伝わる現象」という、より抽象的で普遍的なエネルギー伝達形態です。

第1幕:「波」―波長・振幅・周波数

日常の疑問

低音と高音は何が違う? 明るい光と暗い光は? 波が「速い」「遅い」とはどういう意味?

仕組みの説明

要素(Elements)

  • 波長(λ:ラムダ):波の「山から山」または「谷から谷」の距離(単位:m)
  • 振幅(A):波の「揺れの大きさ」、中心から山(または谷)までの距離
  • 周波数(f):1秒間に何回振動するか(単位:Hz = 回/秒)
  • 波の速さ(v):波が進む速度(単位:m/s)

システム的視点:波は「時間的周期性」と「空間的周期性」を同時に持つ現象です。

全体挙動(Behavior)

波は周波数で性質が決まり、振幅でエネルギーが決まるという二元的な構造を持ちます。周波数が高いほど波長は短く、「細かい」情報を運べます。振幅が大きいほどエネルギーが大きく、「強い」作用を及ぼします。

社会とのつながり

  • 通信技術:高周波(短波長)ほど大量のデータを運べる(5G > 4G)
  • 音響設計:低音は波長が長い → 壁を回り込む、高音は直進的
  • 医療:超音波(高周波)は精密な画像、低周波は深部まで到達
  • 地震:P波(速い、縦波)とS波(遅い、横波)の到達時差で震源を特定

第2幕:「音の世界」―反射・共鳴・聴覚

日常の疑問

山彦(やまびこ)はなぜ遅れて聞こえる? なぜ特定の音でグラスが割れる? コンサートホールの音響設計は何が違う?

仕組みの説明

  • 音波:空気(または他の媒質)の疎密波(縦波)
  • 反射:音が障害物で跳ね返る
  • 吸収:音のエネルギーが媒質に吸収される
  • 共鳴(共振):特定の周波数で振動が増幅される現象
  • 音圧レベル:音の強さ(単位:dB デシベル)
【音の伝播】
音源(振動)→ 空気分子の圧縮・膨張 → 隣接分子へ伝播
              → 縦波として伝わる

【反射の法則】
入射角 = 反射角(光と同じ)
硬い壁 → よく反射
柔らかい壁(カーテン等)→ 吸収

【共鳴の条件】
物体の固有振動数 = 入射音の周波数
→ 振動が増幅(共鳴)
→ 大きな振幅に成長

システム的視点:音は「空気分子の連鎖的な押し合い」であり、物体は「特定の周波数で共鳴するフィルター」です。

全体挙動(Behavior)

音は空間の反射・吸収・共鳴の相互作用で形を変えます。硬い壁は音を跳ね返し、柔らかい材料は吸収し、物体は特定の周波数に選択的に応答します。この性質を制御することで、私たちは音響空間をデザインします。

社会とのつながり

  • 建築音響:オペラハウスは残響2.0秒、会議室は0.5秒が理想
  • 騒音対策:高速道路の遮音壁、住宅の二重窓
  • 超音波技術:魚群探知機、胎児の超音波診断(20kHz以上)
  • 音楽制作:イコライザーで周波数ごとに音量を調整

第3幕:「光の本性」―屈折・色・波長

日常の疑問

なぜ水の中では物が曲がって見える? 虹はなぜ7色? プリズムで光が分かれるのはなぜ?

仕組みの説明

  • :電磁波の一種、波長380〜780nm(可視光)
  • 屈折:光が異なる媒質に入る際、進行方向が変わる現象
  • 屈折率:媒質中の光速の遅さを表す指標(真空=1.0)
  • 分散:波長によって屈折率が異なる現象
  • :光の波長(または周波数)が目に与える感覚
【屈折の法則(スネルの法則)】
光が媒質1から媒質2へ入る際:
n₁ × sin θ₁ = n₂ × sin θ₂

n:屈折率、θ:入射角/屈折角

屈折率が大きい媒質ほど光速が遅い
→ 入射時に進路が曲がる

【分散の原理】
同じ物質でも波長で屈折率が微妙に変わる
→ 短波長(青)ほど強く曲がる
→ 長波長(赤)ほど弱く曲がる
→ プリズムで虹色に分離

システム的視点:光は「波長ごとに異なる振る舞い」をする電磁波であり、その性質を利用して情報を抽出します。

全体挙動(Behavior)

光は波長という「指紋」を持つ電磁波であり、物質との相互作用(屈折・吸収・反射)によって波長ごとに異なる運命をたどります。この波長依存性が「色」という感覚を生み、分光技術の基礎となります。

社会とのつながり

  • 光ファイバー通信:全反射で光を閉じ込めて長距離伝送
  • 分光分析:物質が吸収・放出する光の波長で組成を特定
  • カラー写真:RGB三層フィルターで色情報を記録
  • 気象現象:朝焼け・夕焼け(青が散乱、赤が残る)

第4幕:「視覚の仕組み」―レンズ・目・カメラ

日常の疑問

なぜ遠くのものはピントが合わない? 老眼とは何? カメラのF値とは?

仕組みの説明

  • 凸レンズ:中央が厚い、光を収束させる
  • 凹レンズ:中央が薄い、光を発散させる
  • 焦点距離:レンズから焦点までの距離
  • 結像:光が一点に集まって像を作る
  • 瞳孔:光量を調整する絞り
  • 網膜:光を電気信号に変換するセンサー
【レンズの結像】
物体 → レンズで屈折 → 焦点面に実像が形成

レンズ方程式:
1/f = 1/a + 1/b
f:焦点距離、a:物体距離、b:像距離

【目の構造】
光 → 角膜(屈折)→ 瞳孔(光量調整)→ 水晶体(焦点調整)
   → 硝子体 → 網膜(像形成)→ 視神経 → 脳

【ピント調整】
遠くを見る:水晶体を薄く(焦点距離を長く)
近くを見る:水晶体を厚く(焦点距離を短く)

視覚は光学的な結像生物学的な信号変換神経学的な解釈の三段階プロセスです。レンズが像を作り、網膜が光を電気に変え、脳が意味を与える――この連鎖が「見る」という体験を生み出します。

社会とのつながり

  • 眼鏡・コンタクトレンズ:屈折異常を補正
  • カメラ技術:スマホの多眼カメラ、望遠・広角・マクロ
  • 医療:白内障手術(水晶体を人工レンズに交換)
  • VR/AR:目の焦点調節を利用した立体視

第5幕:「見えない光」―電磁波スペクトル

日常の疑問

電波と光は何が違う? 赤外線カメラはなぜ暗闇で見える? 紫外線はなぜ危険? X線はなぜ体を透視できる?

仕組みの説明

要素(Elements)

  • 電磁波:電場と磁場の振動が空間を伝わる波
  • 波長:数km(長波)から10⁻¹²m(ガンマ線)まで
  • 周波数:波長の逆数に比例(c = λf)
  • 光子エネルギー:E = hf(h:プランク定数)、周波数に比例

相互作用(Interactions)

電磁波スペクトル(波長の順):

長波長 ←─────────────────→ 短波長
低周波                        高周波
低エネルギー                  高エネルギー

電波 → 赤外線 → 可視光 → 紫外線 → X線 → γ線

システム的視点:すべての電磁波は本質的に同じ現象であり、波長(またはエネルギー)だけが異なる連続体です。

赤色光(λ=700nm): E = (6.63×10⁻³⁴ × 3×10⁸) / (700×10⁻⁹) ≈ 2.8×10⁻¹⁹ J = 1.8 eV

X線(λ=0.1nm): E ≈ 12,400 eV(可視光の約7000倍!)


#### 全体挙動(Behavior)
電磁波は**波長という一つのパラメータで無限の多様性**を持ちます。波長が変わればエネルギーが変わり、物質との相互作用が変わり、用途が変わる。この連続的なスペクトルを理解することで、目に見えない光の世界が見えてきます。

### 社会とのつながり
- **通信革命**:5G(ミリ波)は高速だが到達距離短い → 基地局密度が鍵
- **天文学**:可視光だけでなく、電波・赤外線・X線で宇宙を観測
- **セキュリティ**:空港のボディスキャナー(ミリ波)は衣服を透過
- **環境**:オゾン層がUV-Cを吸収 → 地上の生命を保護

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## 第6幕:「電磁波と健康」―強度・距離・時間

### 日常の疑問
携帯電話の電磁波は危険? 電子レンジの前に立っても大丈夫? なぜ日焼けは危険だが、照明は安全?

### 仕組みの説明

#### 要素(Elements)
- **電磁波強度**:単位面積あたりのエネルギー(W/m²)
- **電離放射線**:原子から電子を叩き出すエネルギー(UV-C以上)
- **非電離放射線**:電離しないエネルギー(電波〜UV-A)
- **距離の逆二乗則**:距離が2倍 → 強度は1/4
- **曝露時間**:総エネルギー = 強度 × 時間

#### 相互作用(Interactions)

【電磁波の生体への影響】

高エネルギー(X線・γ線): → 電離作用 → DNA損傷 → がんリスク

中エネルギー(UV): → 化学結合の切断 → 日焼け、皮膚がん

低エネルギー(可視光・赤外線): → 熱作用(分子振動)→ 温度上昇

極低エネルギー(電波): → 熱作用のみ(強度が十分に低ければ影響なし)

【安全性の基準】 強度 × 時間 × 波長(エネルギー)= 総リスク


**システム的視点**:電磁波の危険性は「エネルギー」と「強度」と「時間」の三要素で決まります。

1. **電離 vs 非電離**

【電離放射線】(紫外線UV-C以上) 光子エネルギー > 約10 eV → 原子から電子を叩き出せる → DNA損傷、細胞死、がん化

【非電離放射線】(電波〜UV-A) 光子エネルギー < 約10 eV → 電離できない → 主に熱作用(分子を振動させる)


2. **距離の逆二乗則**

電磁波強度 ∝ 1 / 距離²

例:携帯電話から

  • 1cm:強度 I
  • 2cm:強度 I/4
  • 10cm:強度 I/100

→ 頭から少し離すだけで曝露は激減


3. **具体的な安全性評価**

【携帯電話(約2GHz)】

  • 非電離放射線
  • 出力:最大2W(通常は0.1〜0.5W)
  • WHOの評価:「現在のところ健康への悪影響は確認されていない」
  • 念のための対策:イヤホン使用で頭から遠ざける

【Wi-Fi(2.4 / 5GHz)】

  • 携帯電話より低出力(0.1W程度)
  • 距離が離れている(1m以上)
  • 強度は携帯電話の1/100以下

【電子レンジ(2.45GHz)】

  • 内部:1000W(非常に高出力)
  • 金属シールド + 扉の遮蔽
  • 漏洩基準:5cm離れて5 mW/cm²以下
  • 扉を閉めれば安全

【紫外線(日光)】

  • UV-A/B:非電離だが化学作用あり
  • 長時間曝露:日焼け → 皮膚がんリスク
  • 対策:日焼け止め、帽子、長袖

【X線撮影】

  • 電離放射線
  • 1回の撮影:約0.1 mSv(年間自然被曝の約1/20)
  • リスク:極めて低いが、不要な検査は避ける

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