地球システム― 46億年の動的平衡と私たちの立ち位置 ―S1-5-

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地震も台風も異常気象も、自然の気まぐれではない。この章では、地球を相互に影響し合う統合されたシステムとして理解し、地震のメカニズム、気象現象の原理、そして私たちがどう備えるべきかを、科学的な視点から捉え直す。

はじめに:

地震が起きる。台風が来る。火山が噴火する。気温が上がる。これらは一見、無関係な現象に見える。しかし、すべては地球という一つの巨大なシステムの中で起きている、相互に連関した出来事だ。

地球は静止した舞台ではない。プレートは動き、マントルは対流し、大気は循環する。海は熱を運び、水は形を変えながら地表を巡る。そして、これらすべてが相互に影響を及ぼし合いながら、46億年にわたって動的な平衡を保ち続けてきた。

この章では、地球を「部分の寄せ集め」ではなく、構造・流れ・制御という三つの視点から統合的に理解する。力学が物体の運動を扱い、化学が物質の変換を扱うように、地球科学は物質とエネルギーの大規模な循環システムを扱う学問である。


天体運動と地球の相対性――測量が明かした世界像

1. 地球は動く:天動説から地動説への転換

私たちが地面に立つとき、地球は動かず、空が動いているように感じる。太陽が東から昇り西に沈む。星が夜空を巡る。こうした日常的な経験は、「天が動き、地が静止している」という直感を生む。

しかし科学は、観測者である地球自身も運動しているという前提に立つことで、世界をより正確に記述できるようになった。地動説は単なる哲学的転換ではなく、観測事実の積み重ねから導かれた結論だった。

惑星の逆行運動、金星の満ち欠け、惑星の明るさの変化――これらはすべて、地球が太陽の周りを公転していると考えれば自然に説明できる。ティコ・ブラーエの精密観測をケプラーが数学的に整理し、ニュートンが万有引力の法則で統一的に説明した。こうして、地球は宇宙の中心ではなく、太陽の周りを巡る一惑星であることが確定した。

この「相対的に考える」という姿勢こそが、天文学・測量学・地球科学を貫く基本原理である。


2. 天体が決めた座標系:緯度と経度

緯度と経度は、人為的に決めた線ではなく、天体の位置から定義された座標系である。

緯度は、赤道からの距離ではなく角度で定義される。北極星の高度を測れば、それがそのまま観測地点の緯度になる。あるいは、太陽の南中高度の季節変化から、観測地点の緯度を逆算できる。つまり、緯度とは距離ではなく、三角形の角度関係から導かれた量である。

経度の測定はより困難だった。地球は24時間で360度回転するため、1時間の時差は経度15度に相当する。つまり、正確な時刻差を測れば、経度が分かる。しかし、大航海時代の船には正確な時計がなかった。18世紀にジョン・ハリソンが高精度の航海用クロノメーターを開発し、初めて経度の正確な測定が可能になった。この時計の発明が、世界地図を精密化し、近代的な測量の基盤を築いた。

時間とは、地球の回転を刻む角度である。位置とは、天体との角度関係で決まる。こうして、天文学は地上の測量と不可分に結びついてきた。


4. 地軸の傾きが季節を生む

地球の自転軸は、公転面に対して約23.4度傾いている。この傾きがあるため、太陽高度が季節で変わり、日照時間が変化し、緯度によって気温差が生じる。

よくある誤解は、「夏は太陽に近づくから暑い」というものだが、これは誤りである。地球と太陽の距離差は季節による気温変化を説明できない。実際、地球が太陽に最も近づくのは1月(近日点)であり、北半球では冬である。南半球と北半球で季節が逆であることが、地軸傾斜が原因であることを明確に示している。

地軸の傾きは、農業、気候帯、生態系の分布、エネルギー収支のすべてを決定する基本パラメータである。もし地軸が直立していれば、季節はなく、赤道付近は灼熱、極地は永久凍土となっただろう。


5. 天体と気候の長期的関係:ミランコビッチ・サイクル

地球の公転軌道の形、地軸の傾き、歳差運動は、それぞれ周期的に変化する。これらが太陽からの受熱量を変化させ、氷期と間氷期の繰り返しを引き起こすという理論がミランコビッチ・サイクルである。

離心率の変化(約10万年周期)、地軸の傾きの変化(約4.1万年周期)、歳差運動(約2.6万年周期)が重なり合い、過去200万年間、約10万年ごとに氷期と間氷期が繰り返されてきた。現在は約1万年前に始まった間氷期(完新世)にあり、自然のサイクルでは数千年後に次の氷期が来ると予測される。


第2部:地球46億年の歴史――大陸移動と気候変動の物語

7. 地球の誕生と分化:層構造の形成

約46億年前、太陽系が形成される過程で、無数の微惑星が衝突を繰り返し、やがて地球という惑星が生まれた。初期地球は、衝突エネルギーによって表面が溶融した「マグマオーシャン」の状態だった。

この高温状態の中で、重力による分化が起きた。重い金属(鉄、ニッケル)は中心に沈み、軽い岩石成分は表面に浮かんだ。こうして、地球は中心から核(コア)、マントル、地殻という層構造を持つようになった。この構造が、今日の地震、火山、磁場、プレート運動のすべての基盤となっている。

内核は固体の鉄・ニッケルで、温度は約5,000〜6,000℃、圧力によって固化している。外核は液体の鉄・ニッケルで、温度は約4,000〜5,000℃、その対流が地球磁場を発生させる。マントルは固体だが長期的には流動する岩石で、対流によってプレート運動を駆動する。地殻は大陸地殻(厚さ30〜70km)と海洋地殻(厚さ5〜10km)に分かれ、マントル対流に乗って移動する。

地球磁場は、太陽風から大気を守る盾である。火星は磁場を失ったために大気が剥ぎ取られ、現在の乾燥した惑星になったと考えられている。地球の層構造は、私たちが生きていける条件そのものを作り出している。


13. 地震波が教えてくれる地球内部

私たちは地球内部を直接見ることができない。人類が掘削した最も深い穴(ロシアのコラ半島超深度掘削孔)でも、わずか12kmである。地球の半径6,370kmから見れば、ほんの傷に過ぎない。

それでも、地球内部の構造を知ることができる。地震波を使った「地球の透視」によってだ。

地震が発生すると、震源から二種類の波が伝わる。P波(縦波)は固体・液体・気体すべてを伝わり、速度は約5〜7km/秒。S波(横波)は固体のみを伝わり、速度は約3〜4km/秒。この二つの波が地球内部を通過する際、物質の密度や状態によって速度が変わる。

世界中の地震計のデータを集めて解析すると、マントルではP波・S波ともに伝わるが速度が上がる(固体で密度が増している)、外核ではP波は伝わるがS波は伝わらない(液体である)、内核では再びS波が伝わる(固体である)ことが分かった。

つまり、地震という災害現象を利用して、人類は地球内部の構造を解明したのだ。これは、自然現象を観測・分析・モデル化するという科学的手法の好例である。


14. マントル対流:地球内部の「流れ」

マントルは固体である。しかし、長期的には流体のように振る舞うという、一見矛盾した性質を持つ。これは、マントルの温度が岩石の融点に近いため、数百万年という時間スケールでゆっくりと変形・対流するからだ。

マントル対流の駆動力は温度差である。地球内部の核は高温で、地表は相対的に低温。この温度差が、対流というエネルギーの流れを生み出す。高温のマントル物質は密度が低く上昇する。地表付近で冷やされると密度が増し沈降する。この循環が、地球表面のプレートを動かしている。

プレートテクトニクスは、地球内部の熱対流が地表に現れた現象なのだ。マントル対流の速度は年間数cm(プレート移動速度に相当)で、一周するのに約2億年かかる。この途方もなく遅い動きが、大陸を動かし、山を作り、地震を起こし、火山を噴火させる。地球は止まった岩の塊ではなく、内部でエネルギーが循環する動的システムである。


15. 火山のメカニズム:プレート沈み込みと部分溶融

火山は、地下深くのマグマが地表に噴出する現象だ。マグマはプレート沈み込み帯で生成される。海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む際、プレートには海水や堆積物が含まれている。深さ100〜150kmで高温・高圧にさらされ、含水鉱物から水が放出される。水がマントル岩石の融点を下げ(水は融点降下剤として働く)、部分溶融が起きてマグマが発生する。マグマは周囲より軽いため上昇し、火山として噴出する。

日本の火山帯は、東北から九州にかけて太平洋側に沿って連なっている。これは太平洋プレート・フィリピン海プレートの沈み込みによる。火山は災害をもたらすが、同時に温泉、地熱発電、肥沃な火山灰土壌(黒ボク土)という恵みも与える。温泉街や酒造文化の多くは火山地帯にある。


16. 地震のメカニズム:ひずみの蓄積と解放

地震は、地下の岩盤が急激にずれ動くことで発生する。プレート境界型地震(海溝型地震)では、海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む際、摩擦で大陸プレート側を引きずり込み、ひずみ(弾性エネルギー)が蓄積する。ひずみが岩盤の強度を超えると、一気に元に戻り(断層が滑り)、その瞬間、蓄積されたエネルギーが地震波として放出される。

2011年東日本大震災(M9.0)は太平洋プレートの沈み込みによる。想定南海トラフ地震はフィリピン海プレートの沈み込みによる。活断層型地震(直下型地震)は、プレート内部や境界付近に過去の地殻変動で形成された断層が、現在のプレート運動によって限界を超えて突然滑る現象だ。震源が浅く、都市直下で起きると被害甚大である。1995年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災、M7.3)は野島断層、2016年熊本地震(M7.3)は布田川断層帯による。

地震はひずみの蓄積と解放という物理過程である。プレートは常に動き続けているため、地震は必ず繰り返し起きる。いつ起きるかは予測困難だが、どこで起きやすいかは過去の履歴や地質構造から推定できる。


17. 緊急地震速報と長期評価:異なる時間スケールの予測

地震に対する備えは、二つの時間スケールで考える必要がある。

短期(数秒〜数十秒)では緊急地震速報がある。P波を検知し、S波到達前に警報を発する仕組みだ。震源から100km離れていれば約15〜20秒の猶予があり、机の下に潜る、火を止める、ドアを開けて避難路を確保できる。ただし、震源直上ではP波とS波がほぼ同時に到達し、警報が間に合わない。

長期(数十年)では地震の長期評価がある。過去の地震発生間隔から、将来の発生確率を統計的に推定する。南海トラフ地震は30年以内にM8〜9クラスが70〜80%(2024年時点)、首都直下地震は30年以内にM7クラスが70%。これは予知ではなく統計的予測であり、明日起きるかもしれないし30年後かもしれない。

糸魚川-静岡構造線断層帯は30年以内に最大14%だが、2016年熊本地震の震源となった布田川断層の事前評価は最大0.9%だった。確率が低くても地震は起きる。過信は禁物である。

地震対策は、短期の即座の身の守り方と、長期のリスクの把握と備えの両輪が必要だ。確率論的評価を理解しつつ、いつ起きても対応できる備えをすることが合理的なリスク管理である。


18. 液状化と土砂災害:地盤という見えない構造

地震や豪雨による被害は、単に揺れや雨量の大きさだけで決まらない。地盤の性質が大きく関わってくる。

液状化は、水を多く含んだ砂質地盤で発生する。地震の揺れで砂粒子の噛み合わせが崩れ、粒子間の水が圧力を受け、地盤全体が液体のように振る舞い、建物が傾き、マンホールが浮き上がる。液状化しやすい場所は、埋立地(東京湾岸、大阪湾岸)、旧河道(昔川が流れていた場所)、地下水位が高い砂質地盤である。2011年東日本大震災では千葉県浦安市で大規模液状化が、1964年新潟地震ではアパートがそのまま横倒しになった。

土砂災害は、豪雨で斜面の土壌が水を含むと粒子間の摩擦力が低下し、がけ崩れ、地すべり、土石流が発生する。自治体が公開する液状化ハザードマップ、土砂災害ハザードマップで確認できる。土砂災害警戒区域(イエローゾーン)、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)が設定されている。不動産購入時は、ハザードマップの確認が義務化されている(2020年〜)。

地盤は見えない構造だが、災害リスクを大きく左右する。科学的なリスク評価を活用し、住む場所を選ぶ、あるいは適切な地盤改良を施すことが、命を守る第一歩となる。


第4部:大気・海洋と気象システム

19. 大気の構造:層状システムとその役割

私たちを取り巻く大気は、高度によって異なる性質を持つ層状構造をしている。対流圏(地表〜高度約11km)では天気現象(雲、雨、雪、台風)が起こり、高度が上がると気温が低下する(約-6.5℃/km)。大気の質量の約80%がここに集中している。

成層圏(高度約11〜50km)では気温が高度とともに上昇する逆転層で、オゾン層が紫外線を吸収し地表の生命を守る。ジェット旅客機が飛行する高度である。中間圏(高度約50〜80km)では再び気温が低下し約-90℃まで下がる(地球上で最も冷たい場所)。熱圏(高度約80km〜)では太陽からの高エネルギー粒子を吸収し高温(数百〜1,000℃以上)になる。国際宇宙ステーションが周回する高度(約400km)である。

大気は単なる透明な空間ではなく、構造を持ち機能を持つシステムである。温室効果で地表を保温し、紫外線を吸収し生命を保護し、酸素を供給し、隕石を燃やし地表への衝突を防ぐ。


20. 気圧と風:大気の流れを駆動するもの

気圧とは、空気の重さが地表に及ぼす圧力である。あなたの頭上には約10トンの空気が乗っている。これが1気圧=1013hPa(ヘクトパスカル)だ。

高気圧では空気が下降し雲が消散し晴天となる。低気圧では空気が上昇し水蒸気が凝結して雲が形成され雨となる。風は気圧の高い場所から低い場所へ空気が流れる現象だが、地球の自転(コリオリ力)により風は右(北半球)にずれる。このため、低気圧の周りでは反時計回りに風が吹き込む。

気圧配置と季節には明確なパターンがある。冬型では西高東低(大陸に高気圧、太平洋に低気圧)で日本海側で雪が降る。梅雨ではオホーツク海高気圧と太平洋高気圧の間に前線ができ長雨となる。夏型では太平洋高気圧が張り出し晴天・猛暑となる。秋では移動性高気圧と低気圧が交互に通過し天気が周期的に変化する。

天気予報で「日本の南に低気圧があって北上」と聞けば雨が予想でき、「高気圧に覆われて」と聞けば晴天が続くと分かる。気圧配置を読めば、天気の変化が予測できる。


21. 前線:異なる空気の衝突

天気が日々変化するのは、性質の異なる空気の塊がぶつかり合い混ざり合うからだ。暖かく湿った空気と冷たく乾いた空気の境界が前線である。

温暖前線では暖気が寒気の上に乗り上げ、前線の前方(500〜1000km)に層状の雲(乱層雲)が広がり、しとしとと雨が長く降る。前線通過後は気温が上昇する。

寒冷前線では寒気が暖気を押し上げ、前線付近に積乱雲が発達し、短時間の強い雨、雷、突風が起きる。前線通過後は気温が低下し北寄りの風に変わる。

停滞前線(梅雨前線、秋雨前線)では同じ場所で長期間雨が続き、線状降水帯が発生しやすい。

天気図で前線の位置と低気圧の動きを見れば、明日の天気を自分で予想できる。前線が西から近づいていれば数時間後に雨、寒冷前線通過後は急に気温が下がるので服装に注意が必要だ。日本付近の低気圧は偏西風に乗って東へ時速30〜50km(新幹線並み)で進む。東京の西500kmに低気圧があれば10〜15時間後に到達する。


22. 台風のメカニズム:海洋が生むエネルギー

台風は熱帯低気圧が発達したもので、最大風速17.2m/s以上を台風と呼ぶ。台風の原動力は海面から蒸発する水蒸気である。水蒸気が上昇して凝結する際、潜熱が放出され上昇気流を強める。この自己増幅プロセスが台風を巨大化させる。

台風の発生条件は、海水温26.5℃以上、コリオリ力が働く緯度(赤道から5度以上)、上空の風が弱い(風のシアが小さい)ことである。

台風の強度は、強い(最大風速33〜44m/s、電柱が倒れる)、非常に強い(44〜54m/s、木造家屋が倒壊)、猛烈な(54m/s以上、鉄塔が曲がる)に分類される。

近年、海水温の上昇により台風の強度が増している。1980年代の平均海面水温は約28℃(台風発生域)だったが、2020年代は約29℃以上で、中心気圧900hPa未満のスーパー台風が増加傾向にある。

台風接近時、気象庁は暴風警報、大雨警報、波浪警報、高潮警報を発表する。特に高潮は、台風の低気圧で海面が吸い上げられ、強風で海水が吹き寄せられることで発生し、満潮と重なると沿岸部が浸水する。1959年伊勢湾台風では死者・行方不明者5,098人、高潮で名古屋市南部が水没し、以後防潮堤・水門の整備が進んだ。


23. 線状降水帯と豪雨:バックビルディング現象

線状降水帯は、積乱雲が帯状に次々と発生し、同じ場所で数時間にわたって強い雨を降らせる現象である。幅20〜50km、長さ50〜300km程度で、積乱雲の寿命は30分〜1時間程度だが、次々と新しい雲が発生し続ける。

発生メカニズムはバックビルディングと呼ばれる。暖かく湿った空気が流入し(下層ジェット)、地形や前線で持ち上げられ積乱雲が発生する。積乱雲が風下に流される一方、風上で次々と新しい積乱雲が発生し、同じ場所で連続して雨雲が通過する。

気象庁は2021年から線状降水帯発生の可能性を半日前に予測する情報を発表しているが、精度は限定的で発生しやすい状況を伝えるものである。線状降水帯が予測されたら早めの避難準備が必要だ。過去の災害では短時間で河川が氾濫し避難が間に合わなかったケースが多数ある。


24. 津波:海底地殻変動が生む巨大波

津波は地震や海底火山、海底地すべりによって海底地盤が変動し、海水全体が持ち上げられる現象である。

波浪(風浪)との違いは明確だ。波浪は波長が数m〜数百m、周期が数秒〜十数秒、速度が時速数十km、エネルギーが海面付近のみである。津波は波長が数km〜数百km、周期が数分〜数十分、速度が時速500〜800km(ジェット機並み)、エネルギーが海底から海面まで全体に及ぶ。

津波の高さと被害の関係は、50cmで海中の人は流され、1mで陸上の大人も流され、3mで木造家屋が全壊し、10m以上で鉄筋コンクリートも破壊される。

気象庁の津波警報は、大津波警報(特別警報、予想高さ3m超、直ちに避難)、津波警報(予想高さ1〜3m、直ちに避難)、津波注意報(予想高さ0.2〜1m、海から上がる)に分類される。

地震直後は正確な地震の規模が分からないことがあり、その場合は予想高さを数値で示すのではなく「巨大」「高い」という定性的表現で直ちに避難を呼びかける。海岸近くで強い揺れを感じたら津波警報を待たずに高台へ避難する。「津波てんでんこ(各自がばらばらでも、とにかく高台へ)」の教えを実践する。

津波は沖合(水深4,000m)では時速約720km(新幹線並み)だが、沿岸(水深10m)では時速約36km(自転車並み)に減速する。しかし波の高さは増す。


25. 温室効果とCO₂:バランスが崩れたシステム

地球が生命に適した温度を保っているのは、大気中の温室効果ガスのおかげだ。太陽からの可視光線は地表を温めるが、地表から放射される赤外線(熱)を二酸化炭素や水蒸気が吸収し、再び地表に戻す。この仕組みがなければ地球の平均気温は-18℃になる(現在は+15℃)。温室効果そのものは生命を支える重要な仕組みである。

問題はバランスの崩れである。産業革命以降、化石燃料の燃焼で大気中のCO₂濃度が急上昇した。産業革命前(1750年頃)は約280ppm、2024年は約420ppm(50%増加)である。過去80万年は180〜300ppmの範囲で変動していたが、現在の濃度は過去80万年で最高である。

気温上昇は産業革命以降約1.2℃(世界平均)、日本は約1.3℃(都市化の影響も含む)である。あなたが車に乗る、エアコンを使う、電気を使う、それらの多くは化石燃料を燃やしてエネルギーを得ている。一人ひとりの行動が地球全体の気候に影響を与えている。


26. 水循環と水資源:閉じた系の中の流れ

水は蒸発、凝結、降水、流出という循環を繰り返している。海や湖、河川から蒸発した水蒸気は雲となり、雨や雪として地表に戻る。その水は河川を通じて再び海へと流れ込む。この循環は生態系とエネルギー輸送の両面で地球システムを支えている。

人間社会はこの循環に深く依存している。ダムは水を貯え農業用水や飲料水を供給する。都市化は地表の透水性を低下させ地下水の涵養を妨げる。過剰な地下水の汲み上げは地盤沈下や塩水化を引き起こす。

水はあるかないかという単純な問題ではない。循環をどう維持し持続可能な形で利用するかという、システム全体の管理が求められている。水資源の枯渇は局所的な問題ではなく、地球規模の水循環の変化と結びついている。

台風と水資源の関係も重要だ。日本の年間平均降水量は約1,700mm(世界平均の約2倍)で、このうち台風や台風起源の低気圧がもたらす雨が約20〜30%を占める。台風が来ないと夏から秋にかけて雨が少なく、ダムの貯水率が低下し水不足に陥る。1994年渇水では台風の接近が少なく西日本で深刻な水不足となり、福岡市では給水制限が287日間続いた。台風は災害をもたらすが、同時に水資源を供給する重要な役割も果たしている。


31. 地質の基礎:災害を生む物質の履歴

地球表層を構成する岩石は大きく三分類される。火成岩は火山岩(急冷:玄武岩など)と深成岩(徐冷:花崗岩など)に分かれる。堆積岩は砂岩・泥岩であり、津波堆積物(イベント層)も含まれる。変成岩は圧力・温度による再結晶で、プレート境界深部の証拠となる。

石灰岩(サンゴ・貝)、珪藻土などの生物由来の岩石は、過去の海環境・水深・気候を示す指標であり、津波や海進・海退の復元にも使われる。

岩石は単なる物質ではなく、地球の歴史を記録した文書である。津波堆積物は過去の津波の高さと範囲を示し、火山灰層は噴火の年代を示す。地層を読むことは、地球の記憶を読むことである。


第6部:実践的な備えと気象警報の読み解き

32. ハザードマップの見方

ハザードマップは自然災害のリスクが高い地域を地図上に示したもので、自治体が作成し各家庭に配布、またはウェブサイトで公開している。

洪水ハザードマップは河川が氾濫した場合の浸水想定区域、浸水深さ(0.5m未満、0.5〜3m、3〜5m、5m以上など)、避難場所、避難経路を示す。

土砂災害ハザードマップは土砂災害警戒区域(イエローゾーン、土砂災害の恐れがある区域)と土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン、建物が損壊し住民に危害が生じる恐れがある区域)を示す。

津波ハザードマップは津波浸水想定区域、津波避難ビル、避難経路を示す。火山ハザードマップは噴火時の溶岩流、火砕流、火山灰の到達範囲を示す。

あなたの自宅・職場・学校がどのリスク地域にあるか確認する必要がある。ハザードマップは国土交通省「ハザードマップポータルサイト」で全国分を閲覧できる。不動産購入時はハザードマップで浸水想定区域・土砂災害警戒区域を確認することが2020年から宅建業法で義務化された。


33. 大雨警報の段階的基準:三つの指数

気象庁は単に雨量だけでなく、土壌の状態や河川の状況を考慮して警報を発表する。

土壌雨量指数(土砂災害の危険度)は、降った雨が土壌にどれだけ染み込んでいるかを数値化し、過去数日間の雨も考慮する。基準値を超えると土砂災害警戒情報が出る。

表面雨量指数(浸水の危険度)は、降った雨が地表面にどれだけ溜まっているかを数値化する。都市部のアスファルト舗装では雨水が地下に染み込まずすぐに冠水する。基準値を超えると浸水警報が出る。

流域雨量指数(洪水の危険度)は、降った雨が河川にどれだけ流れ込むかを流域全体で計算し、上流の雨も考慮する。基準値を超えると洪水警報が出る。

気象庁のキキクル(危険度分布)では、土砂災害・浸水・洪水の危険度を5段階の色で地図表示する。白(今後の情報に留意)、黄(注意)、赤(警戒)、紫(非常に危険)、黒(極めて危険)である。大雨の時はキキクルをこまめに確認し、自分の住む場所が赤や紫になったら避難を検討する。特に土砂災害は一気に発生するため、紫になる前に避難することが重要だ。


34. 特別警報:最大級の警戒

特別警報は警報の発表基準をはるかに超える、数十年に一度の重大な災害が起こる恐れがある場合に発表される。これは最大級の警戒を呼びかけるものである。

大雨特別警報、大雪特別警報、暴風特別警報、波浪特別警報、高潮特別警報、暴風雪特別警報、大津波警報(津波の特別警報)がある。

「数十年に一度」とはその地域で過去数十年に経験したことがないレベルの現象を意味する。2018年西日本豪雨では広島県で48時間雨量400mm超を記録し大雨特別警報が発表された。

特別警報が出る頃にはすでに災害が発生している、または切迫している状況である。つまり「特別警報が出たら避難」では遅い場合がある。避難は大雨警報や避難指示の段階で開始するべきだ。特別警報は最後の呼びかけと考え、もし避難していなければ直ちに命を守る行動(垂直避難:建物の2階以上、崖から離れた部屋など)を取る。


35. 噴火警戒レベル:火山活動の段階的評価

噴火警戒レベルは気象庁が火山活動の状況に応じて5段階で発表する。

レベル1(活火山であることに留意)は通常の火山活動で、登山可能である。レベル2(火口周辺規制)は火口周辺に影響を及ぼす噴火の可能性で、火口周辺立入規制される。レベル3(入山規制)は居住地域の近くまで影響を及ぼす噴火の可能性で、登山禁止、入山規制される。レベル4(避難準備)は居住地域に重大な被害を及ぼす噴火の可能性で、警戒が必要な居住地域での避難準備、要配慮者避難が必要である。レベル5(避難)は居住地域に重大な被害を及ぼす噴火が発生、あるいは切迫している状態で、危険な居住地域からの避難が必要である。

火山の近くに住む人、登山する人は、気象庁の「火山登山者向けの情報提供ページ」で現在のレベルを確認する必要がある。レベル3以上は絶対に登山禁止である。

火山監視では火山性地震(マグマや熱水の移動による地震)、火山性微動(連続的な地面の振動、マグマや火山ガスの動きを示す)、火山ガス(SO₂、H₂S、濃度の増加は活動活発化のサイン)、地殻変動(GPSや傾斜計で山体の膨張・収縮を監視)が行われている。


まとめ:地球システムを理解し、災害と共に生きる

地震、台風、豪雨、火山噴火。これらはすべて、地球というシステムが物理法則に従って動いた結果である。プレートの沈み込み、大気の循環、海水温の上昇。地球科学は物質とエネルギーの大規模な循環システムを扱う学問である。

私たちは地球というシステムの一部である。私たちが呼吸する酸素、飲む水、食べる食料、使うエネルギー――これらすべては地球システムが供給しているものだ。私たちは自然の外にいるのではなく、その内部で生きている。

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