エネルギー資源と持続可能性― 日本のエネルギー史ともに

この記事は約12分で読めます。

はじめに

私たちが毎日使っている電気、ガソリン、ガス。スイッチを押せば明かりがつき、エアコンが動き、車が走る。あまりにも当たり前の日常です。しかし、その裏側には資源、技術、環境、政治、そして未来世代への影響が複雑に絡み合った一つの巨大なシステムが存在しています。

この記事では、エネルギー問題を「どれが良い・悪い」という単純な二元論ではなく、構造・流れ・制御というシステム科学の視点から理解していきます。エネルギーは技術の問題であり、社会設計の問題であり、そして私たち自身の問題でもあるのです。

システム科学の視点でエネルギーを捉える

エネルギー問題を理解するためには、まず全体をシステムとして捉える必要があります。私たちが科学とは何かで学んだように、複雑な現象を要素に分解し、それらの相互作用と全体の挙動を見ることが科学的思考の基本です。

エネルギーシステムを構成する要素には、資源、発電所、送電網、消費者、そして環境があります。これらは採掘、燃焼、発電、排出、規制といった相互作用を通じて結びつき、経済成長、温暖化、資源枯渇、エネルギー安全保障といった全体挙動を生み出しています。

日本のエネルギー開発史 ― 戦前から現代まで

現代のエネルギー問題を理解するには、歴史的な文脈を知ることが不可欠です。日本は資源に乏しい国として、常にエネルギー確保に苦心してきました。

明治時代、日本の近代化は石炭によって支えられました。九州の筑豊炭田、北海道の夕張炭田などから採掘された石炭が、製鉄所や紡績工場を動かし、蒸気機関車を走らせました。1920年代には国内石炭生産量は年間3000万トンを超え、日本のエネルギーの大部分を賄っていました。

しかし、第二次世界大戦前夜、状況は大きく変わります。石油という新しいエネルギー源の重要性が増したのです。戦艦や航空機は石油なしには動きません。資源のない日本は、東南アジアの石油資源を求めて南方進出を図りました。この「エネルギーの確保」という要因が、戦争の一因となったことは、エネルギーが単なる技術問題ではなく、国家の命運を左右する政治問題であることを如実に示しています。

戦後の高度経済成長期、日本は中東からの安価な石油に依存する構造を構築しました。1960年代から70年代にかけて「エネルギー革命」が起こり、主要エネルギー源は石炭から石油へと移行しました。しかし、1973年の第一次石油危機は、その脆弱性を露呈させました。原油価格の高騰は日本経済に深刻な打撃を与え、エネルギー源の多様化と省エネルギー技術の開発が国家的課題となったのです。

化石燃料と再生可能エネルギーの本質的な違い

なぜ今、再生可能エネルギーが重視されるのでしょうか。この問いに答えるには、化石燃料と再生可能エネルギーの本質的な違いを理解する必要があります。

石油、石炭、天然ガスといった化石燃料は、実は太古の生物が蓄えた太陽エネルギーです。古生代から中生代にかけて繁栄した植物や微生物が光合成で取り込んだ太陽エネルギーが、地中で数億年かけて濃縮され、高密度のエネルギー源となりました。私たちは、この数億年分の「貯金」を、わずか200年ほどで使い果たそうとしているのです。

化石燃料の最大の利点は、高いエネルギー密度と安定供給です。石油1リットルには約10キロワット時のエネルギーが詰まっており、必要な時に必要なだけ取り出せます。しかし、これらは有限であり、燃焼時に二酸化炭素を大量に排出します。また、採掘から精製、輸送に至るまで環境への負荷も大きいのです。

一方、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスといった再生可能エネルギーは、現在進行形で地球に降り注ぐエネルギーを活用します。地球システムで学んだように、地球は太陽から毎日膨大なエネルギーを受け取り、大気や海洋を循環させています。再生可能エネルギーとは、この自然な流れに「蛇口」を取り付ける技術なのです。

枯渇しにくく、温室効果ガスの排出が少ないという利点がありますが、課題もあります。太陽光は夜間や曇天時には発電できず、風力は風が吹かなければ止まります。この「不安定性」をどう克服するかが、再生可能エネルギー普及の鍵となっています。

発電の仕組み ― すべては「回す」ことから始まる

興味深いことに、ほぼすべての発電方式に共通する原理があります。それは「タービンを回す」ということです。

火力発電では、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を燃やして水を沸騰させ、高温高圧の蒸気を作ります。この蒸気がタービンを回し、タービンに接続された発電機が電気を生み出します。現代の火力発電所では、コンバインドサイクル方式という高効率な技術が使われており、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせることで、熱効率60%を超える発電も可能になっています。

原子力発電も基本原理は火力と同じです。違いは熱源だけです。ウラン235の核分裂反応で生じる莫大な熱で水を沸騰させ、蒸気でタービンを回します。燃料1グラムあたりのエネルギー量は石油の数百万倍に達し、運転中の二酸化炭素排出はほぼゼロです。しかし、福島第一原発事故が示したように、事故時のリスクと放射性廃棄物の処理という重大な課題を抱えています。

水力発電は、ダムに貯めた水の位置エネルギーを利用します。高い場所から低い場所へ水が落ちる際に水車を回し、発電します。日本では明治時代から活用されてきた最も古い発電方式の一つで、技術的に成熟しており、出力調整も容易です。ただし、大規模ダムの建設は環境への影響が大きく、新規開発の余地は限られています。

風力発電は、風の運動エネルギーで風車を回します。近年は洋上風力発電が注目されており、陸上より安定した強い風を得られます。地熱発電は、地下のマグマの熱で地下水を沸騰させ、その蒸気でタービンを回す方式です。日本は火山国であり、地熱資源は豊富ですが、国立公園内に資源が多く、開発には環境保全との調整が必要です。

例外は太陽光発電です。これは光のエネルギーを直接電気に変換します。物質の構造と性質で学んだ半導体の性質を利用し、光が当たると電子が移動する「光電効果」を活用しています。可動部分がないため故障が少なく、小規模から大規模まで柔軟に設置できますが、変換効率は20%前後と、まだ改善の余地があります。

ここで重要なのは、発電方式の良し悪しは単体では決まらないということです。それぞれの方式には特性があり、社会のニーズ、地理的条件、技術水準、経済性などを総合的に考慮して選択する必要があります。

バイオ燃料 ― 現代の生物に作らせるエネルギー

化石燃料が「古代の生物が蓄えたエネルギー」なら、現代の生物に新たにエネルギーを作らせることはできないでしょうか。この発想から生まれたのがバイオ燃料です。

第一世代のバイオ燃料は、トウモロコシやサトウキビからエタノールを、菜種や大豆から軽油代替燃料を生産するものでした。ブラジルではサトウキビから作られるエタノールが自動車燃料として広く使われています。しかし、食料と競合するという深刻な問題が浮上しました。バイオ燃料の需要増加が穀物価格の高騰を招き、途上国の食糧不安を悪化させたのです。

この反省から、第二世代、第三世代のバイオ燃料開発が進んでいます。木質バイオマス、稲わら、廃棄物など、食料と競合しない原料を使う技術です。さらに注目されているのが藻類バイオ燃料です。藻類は光合成効率が高く、陸上植物の数十倍の速度で増殖します。特定の藻類は細胞内に油脂を蓄積するため、これを抽出して燃料にできます。

バイオ燃料の本質は、太陽光を化学エネルギーとして貯蔵することです。再生可能エネルギーの最大の弱点である「貯蔵の難しさ」を、生物の力で克服しようという試みなのです。

水素エネルギー ― 究極のクリーンエネルギーか

水素は「究極のクリーンエネルギー」と呼ばれることがあります。燃焼しても水しか生成しないため、利用段階での環境負荷はゼロです。しかし、この表現には重要な留保が必要です。

水素は自然界にそのままの形では存在しません。水や炭化水素から取り出す必要があり、そのプロセスにエネルギーが必要です。現在、世界で生産される水素の大部分は「グレー水素」と呼ばれ、天然ガスから製造されます。この過程で二酸化炭素が排出されるため、トータルで見ればクリーンとは言えません。

次に「ブルー水素」があります。これはグレー水素の製造時に発生する二酸化炭素を回収・貯留(CCS)するものです。しかし、回収には追加のエネルギーが必要で、コストも高くなります。

真にクリーンなのは「グリーン水素」です。再生可能エネルギーで発電した電気を使い、水を電気分解して水素を製造します。太陽光や風力の余剰電力を水素に変換して貯蔵すれば、再生可能エネルギーの不安定性という弱点を補えます。しかし、現状ではコストが高く、効率も低いという課題があります。

日本政府は水素社会の実現を目指し、燃料電池自動車の普及や水素発電所の建設を推進しています。しかし、水素はエネルギー源というより「エネルギーキャリア(運び手)」であり、どのように水素を製造するかが環境性能を決定づけるという点を忘れてはなりません。

核融合 ― 太陽を地上に再現する挑戦

原子力発電が原子核の「分裂」を利用するのに対し、核融合は原子核の「融合」を利用します。太陽が輝き続けているのは、水素原子核が融合してヘリウムになる核融合反応が起きているからです。この太陽のエネルギー源を地上で再現しようというのが核融合発電です。

核融合の燃料は重水素と三重水素です。重水素は海水中に豊富に存在し、ほぼ無尽蔵といえます。核融合反応では放射性廃棄物の発生が極めて少なく、暴走のリスクもありません。理論上、核融合は究極のエネルギー源となり得ます。

しかし、実現への道のりは険しいものです。核融合反応を起こすには、プラズマを1億度以上の超高温に加熱し、磁場で閉じ込める必要があります。1950年代から研究が続いていますが、「投入エネルギーより多くのエネルギーを取り出す」という発電の基本条件をクリアするのに70年以上かかっています。

2022年、アメリカのローレンス・リバモア国立研究所が、核融合反応で投入エネルギーを上回るエネルギーを初めて取り出すことに成功しました。これは画期的な成果ですが、実験装置と実用的な発電所との間にはまだ大きな隔たりがあります。

日本を含む35カ国が参加する国際熱核融合実験炉(ITER)プロジェクトでは、2025年に最初のプラズマ生成を目指しています。しかし、商用炉の実現は早くても2050年代以降と見られています。核融合は「30年後には実現する」と50年前から言われ続けてきた技術です。しかし、気候変動への対応が待ったなしの状況の中、この挑戦を続ける価値はあるのです。

省エネルギー技術の本質

エネルギー問題を考える上で、しばしば見落とされがちな重要な視点があります。それは「使わずに済んだエネルギー」が最もクリーンなエネルギーだという事実です。

省エネルギー技術の本質は、同じ快適さや生産性を、より少ないエネルギーで実現することにあります。建物の断熱性能を高めれば、冷暖房に必要なエネルギーは大幅に減ります。日本の住宅は欧米に比べて断熱性能が低いと言われており、改善の余地は大きいのです。

照明のLED化は省エネの代表例です。従来の白熱電球と比べて、LEDは同じ明るさを約8分の1の電力で実現します。日本全体で照明をすべてLEDに置き換えれば、原発数基分の電力消費を削減できると試算されています。

エアコンのインバータ制御のように、必要な分だけ運転する制御技術も重要です。従来のエアコンは「全力運転」と「停止」を繰り返していましたが、インバータ式は運転速度を細かく調整し、常に最適な状態を保ちます。この技術により、エアコンの消費電力は過去30年で半分以下になりました。

産業分野では、コジェネレーション(熱電併給)システムが注目されています。発電時に生じる排熱を暖房や給湯に利用することで、エネルギーの総合効率を80%以上に高められます。従来の火力発電所では排熱の多くが捨てられており、総合効率は40%程度にとどまっていました。

技術の進歩とは、単に新しいものを作ることではありません。既にあるものをより効率的に使えるようにすることも、立派な技術革新なのです。

カーボンニュートラルという社会設計

「カーボンニュートラル」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。しかし、これは二酸化炭素の排出をゼロにすることではありません。排出と吸収を差し引きしてゼロにする、つまり大気中の二酸化炭素濃度を増やさないという考え方です。

日本政府は2050年までにカーボンニュートラルを実現すると宣言しています。EUや中国も同様の目標を掲げており、これは単なる環境政策ではなく、次世代の産業競争力を左右する戦略的な取り組みとなっています。

カーボンニュートラルを実現する手段は大きく三つあります。第一は、排出そのものを削減することです。再生可能エネルギーへの転換、省エネルギー技術の導入、電気自動車の普及などがこれに当たります。第二は、森林などによる自然吸収を増やすことです。森林は光合成により二酸化炭素を吸収し、木材として固定します。第三は、二酸化炭素回収・貯留(CCS)や直接空気回収(DAC)のような技術的手段です。

しかし、カーボンニュートラルは魔法の解決策ではありません。社会全体の構造をどう設計するかという、極めて複雑な問題なのです。産業構造の転換、都市計画の見直し、消費行動の変化、国際協調など、あらゆる側面での取り組みが必要です。

ライフサイクル評価 ― 全体を見る目

「使うときはクリーン」という言葉に惑わされてはいけません。製品や技術を評価する際には、その全ライフサイクルを見る必要があります。

たとえば電気自動車は、走行中は排気ガスを出しません。しかし、製造時、特にリチウムイオン電池の生産過程では多くのエネルギーが消費され、二酸化炭素が排出されます。リチウムやコバルトなどのレアメタルの採掘には環境破壊も伴います。また、充電する電気がどのように発電されたかも重要です。石炭火力発電の電気で充電するのでは、トータルでの環境負荷はガソリン車とあまり変わらない可能性すらあります。

太陽光パネルも同様です。製造には高純度シリコンの精製が必要で、これには大量の電力を消費します。パネルの寿命は25〜30年程度で、その後のリサイクルや廃棄も課題です。しかし、使用期間中に発電する電力量は製造時の投入エネルギーを大きく上回るため、ライフサイクル全体で見れば環境負荷は小さいと評価されています。

資源の採掘から製造、運用、そして最終的な廃棄まで、すべての段階を通して評価する。これがライフサイクル評価(LCA)の考え方です。生活の化学で学んだように、私たちの身の回りの製品はすべて、複雑な化学プロセスと物質の流れの上に成り立っています。その全体像を見ることが、真に持続可能な選択をするための第一歩なのです。

エネルギーと政治 ― 個人の選択が持つ意味

エネルギー問題は技術の問題であると同時に、政治の問題でもあります。中東の政情不安は石油価格に直結し、世界経済を揺るがします。ロシアのウクライナ侵攻は欧州のエネルギー危機を招きました。エネルギーの輸入依存は国家の脆弱性となり、エネルギー安全保障は外交・安全保障政策の中核となっています。

日本はエネルギー自給率が約12%と、主要先進国の中で最も低い水準です。東日本大震災後の原発停止により、化石燃料の輸入が急増し、貿易収支が悪化しました。この経験は、エネルギー政策が経済の根幹に関わることを改めて認識させました。

では、私たち個人にできることは何でしょうか。それは、自分の消費行動の意味を理解し、構造的に判断することです。感情的な反応や単純な善悪の二元論ではなく、批判的思考と情報リテラシーで学んだように、証拠に基づいて冷静に考える力が求められています。

省エネ製品を選ぶ、不要な電力消費を減らす、再生可能エネルギーを選択する。これらは小さな行動に見えますが、社会全体の需要構造を変え、技術開発の方向性に影響を与えます。企業は消費者の選択に敏感です。私たちの選択は、市場を通じて社会を動かす力を持っているのです。

この記事の核心メッセージ

エネルギー問題は、技術の問題であり、社会設計の問題であり、私たち自身の問題です。簡単に答えが出ないのは、それが本質的に複雑な問題だからです。しかし、だからこそ、システムとして理解し、全体像を見る力が必要なのです。

化石燃料は有限であり、気候変動という深刻な問題を引き起こしています。再生可能エネルギーは不安定性という課題を抱えています。原子力は高リスクです。水素は製造方法が鍵です。核融合は未来の希望ですが、実現はまだ先です。どれか一つが「正解」ではなく、それぞれの特性を理解し、組み合わせて使うことが求められています。

この記事を読んだあなたは、ニュースで報じられるエネルギー問題の背景が見えるようになったはずです。そして、他の人にその構造を説明できる知識と視点を手に入れたはずです。

エネルギー問題の理解は、医療は不確実性の中で失敗を減らす技術生態系と環境といった他の社会的課題とも密接につながっています。すべては一つのシステムの中で動いているのです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました