この章のねらい
水、空気、金属、プラスチック。私たちの身の回りは、すべて「物質」でできています。
しかし、私たちが直接目にしている色や硬さ、重さや匂いは、物質そのものの正体ではありません。それらはすべて、目に見えない原子や分子の構造と、その相互作用の結果として現れている性質です。
システム科学のフレームで見る「物質」
物質科学は、典型的なシステム科学の対象です。
- 要素(Elements)
原子、分子、電子、結晶構造 - 相互作用(Interactions)
化学結合、分子間力、電磁気的相互作用 - 全体挙動(Behavior)
固体・液体・気体、反応性、物性(強度・導電性・溶解性など)
この三層を行き来できるようになると、
「なぜ壊れるのか」「なぜ溶けないのか」「なぜ危険なのか」が説明できるようになります。
第1部|物質を構成する最小単位 ― 原子・分子・元素
原子・元素・分子とは何か
物質をどこまでも細かく分けていくと、最終的に「原子」という粒に行き着きます。
原子は、中心の原子核と、その周囲を取り巻く電子からなる構造を持っています。
- 元素とは、原子の「種類」のことです。水素、酸素、鉄など、現在118種類が確認されています。
- 分子とは、複数の原子が結びつき、その物質としての性質を示す最小単位です。
重要なのは、性質は原子の種類だけでなく、組み合わさり方で決まるという点です。
周期表は「性質の地図」である
周期表は単なる暗記表ではありません。
縦(族)に並ぶ元素は、最外殻電子の数が同じで、化学的性質が似ています。
このため周期表は、
- 代替材料の検討
- 生体影響や毒性の類推
- 資源リスクの評価
といった実務判断に直接使える「地図」になります。
第2部|物質はどう変わるか ― 化学式と化学反応
化学式・反応式の本質
化学式とは、物質の「設計図」です。
どの元素が、いくつ、どう組み合わさっているかを示します。
化学反応式は、原子の組み替えの記録であり、反応の前後で原子の種類と数は変わりません。
これが質量保存の法則です。
モルと化学量論
原子や分子は小さすぎるため、私たちは「個数」ではなくモルという単位で扱います。
この考え方があるからこそ、
- 原料量の計算
- 収率の評価
- 廃棄物量の見積もり
が可能になります。
社会人にとって重要なのは、式を解けることよりも、
「どこが無駄になりやすいか」「どこがボトルネックか」を読む力です。
第3部|状態とエネルギー ― 固体・液体・気体
三態変化は「分子の動き」の違い
物質の状態は、分子の並び方と動き方で決まります。
- 固体:規則正しく並び、振動する
- 液体:互いに近いが、位置は流動的
- 気体:自由に飛び回る
状態が変わっても、分子そのものは変わりません。
変わるのは、エネルギーと配置です。
相図・臨界点・超臨界
産業では、温度と圧力を制御することで物質の状態を使い分けます。
超臨界流体のように、液体と気体の性質を併せ持つ状態は、洗浄や抽出などで重要な役割を果たしています。
第4部|物質の性質を決める ― 化学結合
結合の違いが性質を分ける
原子同士が結びつく仕組みには、大きく3種類があります。
- イオン結合:硬いが脆い、溶液で電気を通す
- 共有結合:分子の形が性質を左右する
- 金属結合:自由電子が電気・熱・加工性を生む
材料の強度、融点、導電性は、すべてこの違いから説明できます。
第5部|量として物質を扱う ― 密度・濃度・純度
密度は「物質の指紋」
密度は物質ごとにほぼ一定であり、正体不明の物体を見分ける重要な手がかりになります。
軽量化設計や材料比較では、比強度・比剛性といった指標が使われます。
濃度と溶解の考え方
ppmや%といった単位は、環境・医療・品質管理で不可欠です。
「危険かどうか」は、物質名だけでなく濃度で決まります。
第6部|酸・塩基・pH ― 水溶液のルール
酸と塩基は、水溶液中での粒子のふるまいとして定義されます。
pHは対数尺度であり、1の違いは10倍の差を意味します。
この理解があると、
- 排水管理
- 腐食防止
- 医薬・食品の安定性
といった判断が「感覚」ではなく「根拠」に基づいて行えるようになります。
第7部|材料・分析・社会への接続
物質理解は、材料科学・品質管理・環境対策へと直結します。
- 材料選定は「構造と性質」の問題
- 分析技術は「見えない粒を見る道具」
- リスク管理は「量と反応性」の評価
この章の核心メッセージ
世界は連続して見えますが、
実際にはすべてが「粒のルール」に従って動いています。
そのルールを理解することは、。

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