食べることは、体を運営することだ ― 食と健康をシステムで考えるーS5-2-

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私たちは毎日「食べて」いますが、その行為がどんな仕組みで健康を支え、どこで破綻するのかを体系的に学ぶ機会は多くありません。本記事では、食品ロスからアレルギー、栄養バランス、疑似科学までを一つの「食と健康のシステム」として捉え直します。知識を点ではなく構造として理解することで、判断力が変わることを目指します


私たちは一日に三度、時にはそれ以上「食べる」という行為を繰り返します。しかし、その行為がどのような仕組みで健康を支え、どこでシステムが破綻するのか、体系的に理解している人は多くありません。

「体にいいものを食べましょう」というアドバイスは、実は何も教えてくれません。何が、どのように、なぜ体に影響するのか。その構造を知らなければ、私たちは健康情報の波に翻弄され続けることになります。

本記事では、食品ロスからアレルギー、栄養バランス、疑似科学まで、一見バラバラに見える話題を「食と健康のシステム」として統合的に捉え直します。知識を点ではなく構造として理解することで、あなたの判断力が変わることを目指します。


食と健康は「システム」でできている

システム科学では、物事を次の三つの視点で捉えます。

  • 要素(Elements):何が関わっているか
  • 相互作用(Interactions):それらがどう影響し合うか
  • 全体挙動(Behavior):結果として何が起きるか

たとえば、自動車というシステムを考えてみましょう。エンジン、タイヤ、ハンドル、ブレーキという要素があり、それらが相互作用することで「移動する」という全体挙動が生まれます。しかし、どれか一つでも故障すれば、システム全体が機能不全に陥ります。

食と健康も同じです。それは単なる栄養素の足し算ではなく、生産→流通→摂取→消化・吸収→代謝→健康影響→社会・環境へのフィードバックという巨大なシステムの一部なのです。

このシステムの各要素を理解せずに「○○を食べれば健康になる」と信じることは、エンジンだけ交換すれば車が速くなると考えるようなものです。


1. 食品ロスと持続可能性―余る食と、足りない健康

システムの要素

  • 食品生産量と生産技術
  • 流通システムと消費者行動
  • 廃棄プロセスと環境負荷
  • 栄養摂取の偏り

相互作用のメカニズム

日本では年間約570万トン(2021年度推計)の食品が廃棄されています。これは国民一人当たり毎日お茶碗一杯分のご飯を捨てているのと同じ量です。

大量生産・大量廃棄のシステムは、食品価格を下げ、利便性を高めました。コンビニエンスストアで24時間いつでも食品が買える社会は、わずか50年前には考えられなかった豊かさです。しかし、この便利さの裏には深刻な構造的問題が隠れています。

**第一に、環境負荷の増大です。**食品廃棄物の焼却処理には膨大なエネルギーが必要であり、温室効果ガスを排出します。さらに、廃棄される食品を生産するために使われた水、肥料、農薬、輸送燃料も無駄になります。国連食糧農業機関(FAO)の推計では、世界の食品ロスが排出する温室効果ガスは全体の約8%を占めるとされています。

**第二に、栄養構造の歪みです。**長期保存を可能にするため、加工食品は脂質・糖質・塩分が多く、食物繊維やビタミン、ミネラルが少なくなる傾向があります。たとえば、生の野菜と比べて冷凍食品やレトルト食品では、水溶性ビタミン(ビタミンCやB群)が減少します。便利さと引き換えに、私たちは知らず知らずのうちに栄養バランスの偏った食事を摂取しているのです。


アレルギーは、本来体を守るべき免疫システムが特定の食品を「危険な侵入者」と誤認することで起こります。しかし、なぜこのような誤作動が起きるのでしょうか。

通常、私たちの腸管免疫システムは食品由来のタンパク質に対して「寛容」を示すように訓練されています。これを「経口免疫寛容」と呼びます。しかし、何らかの理由でこの寛容が成立せず、IgE抗体が産生されると、アレルギーが発症します。

初回の曝露で体が「敵」として記憶し(感作)、二回目以降の曝露で激しい反応を起こす(発症)という二段階プロセスが特徴です。たとえば、ピーナッツアレルギーの場合、初めて食べたときは何も起きなくても、二回目に突然じんま疹や呼吸困難が起こることがあります。

最も重要なのは、アレルギー反応の重症度は摂取量に比例しないことがあるという点です。わずか数ミリグラムのアレルゲンでアナフィラキシーショックが起こることもあります。これをシステム科学では非線形性と呼びます。

全体挙動

軽い蕁麻疹から、血圧低下、呼吸困難を伴う命に関わるアナフィラキシーまで、症状の幅は広範です。日本では食物アレルギーによる死亡例も報告されており、特に学校給食での事故防止が重要な社会的課題となっています。

これは体の防御システムが過剰反応する制御失敗であり、「少量でも危険」という特徴は、単純な量反応関係が成り立たないシステムの典型例です。


3. 食品添加物の科学的安全性―ゼロリスク神話の罠

システムの要素

  • 食品添加物(保存料、着色料、甘味料など約1,500品目)
  • 摂取量と頻度
  • 毒性評価データ(動物実験、疫学研究)
  • 規制基準(ADI: 一日摂取許容量)

相互作用のメカニズム

「添加物は体に悪い」という漠然とした不安を抱く人は多いでしょう。しかし、毒性学の基本原則は「すべての物質は毒であり、毒でないものはない。用量が毒と薬を分ける」というパラケルススの格言に集約されます。

たとえば、食塩(塩化ナトリウム)は生命維持に不可欠なミネラルですが、一度に50グラム以上摂取すると致死量に達します。逆に、一般に「危険」とされる物質でも、ごく微量であれば何の影響もありません。

食品添加物の安全性評価では、動物実験で「無毒性量(NOAEL)」を求め、それを安全係数(通常100分の1)で割った値をADI(一日摂取許容量)として設定します。この安全係数には、動物とヒトの違い(10倍)、ヒト個体間の差異(10倍)が考慮されています。

たとえば、人工甘味料アスパルテームのADIは体重1kgあたり40mgです。体重60kgの成人なら一日2,400mgまで安全とされます。これはダイエット炭酸飲料約20本分に相当し、現実的な摂取量をはるかに超えています。

全体挙動

適切な基準内では健康被害は起こりませんが、「化学物質=危険」という認知バイアスが恐怖を増幅させます。ここで重要なのは、科学的安全性と心理的安心は別のシステムだという点です。

科学は「この量では統計的に有意な害が認められない」と言いますが、人々が求めるのは「絶対に安全」という保証です。しかし、ゼロリスクは存在しません。水ですら、一度に大量に飲めば水中毒を起こします。

リスクを正しく理解するには、相対的な比較が必要です。たとえば、食品添加物による健康リスクよりも、添加物を使わないことで食中毒が増えるリスクの方がはるかに高いという現実があります。



5. 栄養バランスの計算―体は帳尻を合わせるが、限界がある

システムの要素

  • 三大栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質)
  • 微量栄養素(ビタミン13種類、ミネラル約16種類)
  • エネルギー収支(摂取カロリーと消費カロリー)
  • 体内調整機構(ホメオスタシス)

相互作用のメカニズム

人体は驚くべき調整能力を持っています。たとえば、糖質を多く摂れば血糖値が上がりますが、インスリンが分泌されて細胞に取り込まれ、血糖値は元に戻ります。これを**ホメオスタシス(恒常性維持)**と呼びます。

しかし、このシステムには限界があります。毎日過剰な糖質を摂り続ければ、インスリンに対する細胞の反応が鈍くなり(インスリン抵抗性)、やがて2型糖尿病を発症します。

栄養バランスは、短期では問題が顕在化しないという特徴があります。「今日はサラダを食べたから大丈夫」と思っても、一食の野菜で一日の食物繊維やビタミンが補えるわけではありません。逆に、一日だけ栄養が偏っても、すぐに病気になるわけではありません。

ここで重要なのは時間スケールです。栄養の問題は、数日から数週間では見えませんが、数ヶ月から数年のスケールで蓄積し、生活習慣病として表面化します。

全体挙動

短期では体の調整機能が働き、問題は見えません。しかし、長期にわたる不均衡は、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症、さらには心疾患や脳卒中といった重大な疾患につながります。

「今日はいいや」が積み重なった結果が、10年後の健康状態を決めるのです。これはシステムの遅延効果と呼ばれる現象で、原因と結果の間に時間的ギャップがあるため、因果関係が見えにくくなります。


すべての要素は互いに影響し合い、単純な「良い・悪い」の二分法では捉えきれない複雑さを持っています。



結び

食べることは、単なる嗜好や我慢の問題ではありません。

朝食のパン一枚にも、小麦の生産地、流通の仕組み、添加物の規制、あなたの血糖値、そして廃棄されるパンの耳までが関わっています。

システムとして理解したとき、「なぜそうなるのか」が見え、判断は静かで強いものになります。

科学的な思考は、恐怖を減らし、自由を増やします。それは、あなたが自分の体と人生を、より良くコントロールするための道具なのです。


付録:食品中の化学物質一覧表

以下のページに、主要な化学物質を分類ごとに整理した表を掲載します。

表1:食品添加物

分類物質名主な用途ADI健康上の懸念アレルギー関連備考
保存料
ソルビン酸Kかまぼこ、チーズ、漬物25mg/kg/日低毒性。亜硝酸塩との併用で微量変異原性物質生成の可能性なし体内で脂肪酸として代謝
安息香酸Na清涼飲料、シロップ5mg/kg/日一部でじんま疹偽アレルギー反応pH4.5以下で有効
プロピオン酸Caパン、洋菓子設定なし極めて低毒性なしチーズに天然含有
亜硝酸Naハム、ソーセージ0.07mg/kg/日ニトロソアミン生成の可能性なしビタミンC併用で低減。ボツリヌス菌防止に重要
パラオキシ安息香酸エステル清涼飲料、醤油10mg/kg/日内分泌かく乱の懸念(弱い)まれに接触性皮膚炎化粧品でも使用
甘味料
アスパルテームダイエット飲料、ガム40mg/kg/日フェニルケトン尿症患者は禁忌なし砂糖の200倍の甘さ
アセスルファムK清涼飲料、菓子15mg/kg/日なしなし体内で吸収されず排泄
スクラロース清涼飲料、菓子15mg/kg/日なしなし砂糖の600倍の甘さ
サッカリンNa清涼飲料、漬物5mg/kg/日過去に発がん性の疑い(現在は否定)なし使用減少傾向
ステビア清涼飲料、菓子4mg/kg/日(配糖体として)なしなし天然甘味料
着色料(合成)
赤色2号菓子、飲料0.5mg/kg/日米国では使用禁止一部でじんま疹アマランス
赤色3号さくらんぼ缶詰2.5mg/kg/日甲状腺への影響(高用量)なしエリスロシン
赤色40号菓子、飲料7mg/kg/日子どもの多動性(議論あり)一部でじんま疹米国で広く使用
黄色4号菓子、飲料、漬物7.5mg/kg/日子どもの多動性(議論あり)アスピリン過敏症で反応タートラジン
黄色5号菓子、飲料4mg/kg/日子どもの多動性(議論あり)まれにじんま疹サンセットイエロー
青色1号菓子、かき氷12.5mg/kg/日なしなしブリリアントブルー
青色2号和菓子、飲料5mg/kg/日なしなしインジゴカルミン
着色料(天然)
カロテノイド飲料、菓子設定なしなしなし抗酸化作用あり
アントシアニン飲料、菓子設定なしなしなし抗酸化作用あり
クチナシ色素栗きんとん、漬物設定なしなしなし
カルミン(コチニール)菓子、飲料5mg/kg/日なしまれにアナフィラキシーカイガラムシ由来
調味料
グルタミン酸Na加工食品全般設定なしなし(中華料理店症候群は否定)なし昆布のうま味成分
イノシン酸Na加工食品全般設定なしなしなしかつお節のうま味
グアニル酸Na加工食品全般設定なしなしなし椎茸のうま味
酸化防止剤
ビタミンC加工食品全般設定なしなしなし栄養素でもある
ビタミンE油脂、加工食品設定なしなしなし栄養素でもある
BHA油脂、バター0.5mg/kg/日発がん性の懸念(高用量)なし使用減少傾向
BHT油脂、加工食品0.3mg/kg/日発がん性の懸念(高用量)なし使用減少傾向
増粘剤
カラギナンアイス、ゼリー設定なし分解物で懸念(食用は安全)なし海藻由来
ペクチンジャム、ゼリー設定なしなしなし果物由来、食物繊維
キサンタンガムドレッシング、ソース設定なしなしなし微生物由来
乳化剤
レシチンチョコ、マヨネーズ設定なしなし大豆・卵アレルギーで注意天然成分
グリセリン脂肪酸エステルパン、アイス設定なしなしなし体内で脂質として代謝
漂白剤
亜硫酸塩類ワイン、ドライフルーツ0.7mg/kg/日喘息患者の5-10%が反応偽アレルギー二酸化硫黄として表

はじめに:私たちが毎日摂取している化学物質

私たちが口にする食品には、天然由来のものから人工的に添加されたものまで、数千種類の化学物質が含まれています。「化学物質」と聞くと危険なイメージを持つかもしれませんが、実は水もタンパク質も化学物質です。重要なのは、どんな物質が、どのような量で、どのような影響を与えるのかを正しく理解することです。

厚生労働省によれば、日本人が年間に摂取する食品添加物の量は約4kgとも言われています。また、食物アレルギー患者は増加傾向にあり、全人口の1〜2%、乳幼児では約10%が何らかの食物アレルギーを持つとされています。

この記事では、食品に含まれる化学物質を網羅的に解説し、それらとアレルギーとの関係、そして私たちの健康への影響について科学的に掘り下げます。

第1章:食品添加物の全体像

食品添加物とは何か

食品添加物とは、食品の製造過程または保存の目的で食品に添加、混和、浸潤などの方法で使用するもので、日本では食品衛生法で定義されています。

分類の2つの軸

起源による分類

  • 天然添加物:既存添加物(天然香料を含む約600品目)
  • 合成添加物:指定添加物(約470品目)

用途による分類

  • 保存料・防腐剤:食品の腐敗や変質を防ぐ
  • 酸化防止剤:油脂の酸化を防ぐ
  • 着色料:食品に色をつける
  • 発色剤:肉製品の色を保つ
  • 甘味料:甘みを付与する
  • 調味料:味を整える
  • 増粘剤・安定剤:食感を調整する
  • 乳化剤:水と油を混ざりやすくする
  • pH調整剤:酸性度を調整する
  • 漂白剤:色を白くする
  • 膨張剤:生地を膨らませる

食品添加物の安全性評価システム

すべての食品添加物は、使用が認められる前に厳格な安全性評価を受けます。

ADI(一日摂取許容量)の設定 動物実験で毒性が現れない最大量(無毒性量)を求め、それを通常100分の1にした値をADIとします。これは人が一生涯、毎日摂取し続けても健康に悪影響がないと推定される量です。

マーケットバスケット方式 実際に市場で売られている食品を購入し、日本人の平均的な食生活での添加物摂取量を調査します。この実測値がADIを超えないよう管理されています。

再評価制度 新しい科学的知見が得られた場合、既に認可されている添加物でも再評価され、必要に応じて使用基準が見直されたり、指定が取り消されたりします。

第2章:主要な食品添加物の詳細

保存料・防腐剤

ソルビン酸・ソルビン酸カリウム カビ、酵母、好気性菌の増殖を抑制します。かまぼこ、チーズ、ジャム、漬物などに広く使用されています。

毒性は低く、体内では脂肪酸として代謝されます。ADIは25mg/kg体重/日で、通常の食生活では問題ありません。ただし、亜硝酸塩と同時に加熱すると、ごく微量の変異原性物質が生成される可能性が指摘されています。

安息香酸・安息香酸ナトリウム 清涼飲料水、シロップ、マーガリンなどに使用されます。酸性条件下で効果を発揮するため、pH4.5以下の食品に限定されています。

体内では速やかに馬尿酸に変換され、尿中に排泄されます。ただし、一部の人にじんま疹や喘息様症状を引き起こすことがあります。これは真のアレルギーではなく、ヒスタミン遊離による偽アレルギー反応です。

プロピオン酸・プロピオン酸カルシウム パン、洋菓子のカビ防止に使用されます。プロピオン酸は自然界にも存在し、チーズの熟成過程でも生成されます。毒性は極めて低く、体内では短鎖脂肪酸として代謝されます。

発色剤・色調安定剤

亜硝酸ナトリウム ハム、ソーセージ、ベーコンなどの食肉製品に使用される、最も議論の多い添加物の一つです。

重要な役割

  • 食肉特有の赤色(ニトロソミオグロビン)の発色
  • ボツリヌス菌の増殖抑制(食中毒防止)
  • 脂質の酸化防止
  • 風味の向上

懸念点 高温調理時にアミン類と反応してニトロソアミン類(発がん性物質)を生成する可能性があります。このため、日本では使用量が厳格に制限されており(0.070g/kg以下)、さらにビタミンC(アスコルビン酸)の同時添加が義務付けられています。ビタミンCは亜硝酸の還元剤として働き、ニトロソアミンの生成を抑制します。

リスクとベネフィットのバランス 完全に亜硝酸塩を禁止すると、ボツリヌス中毒のリスクが高まります。実際、1970年代のアメリカで亜硝酸塩の使用制限が議論された際、ボツリヌス中毒の発生が増加しました。現在の科学的コンセンサスは、適切に管理された使用であれば、そのベネフィット(食中毒防止)がリスクを上回るというものです。

甘味料

合成甘味料

アスパルテーム 砂糖の約200倍の甘さを持つジペプチド(アスパラギン酸とフェニルアラニンの結合体)です。清涼飲料水、ガム、デザートなどに広く使用されています。

体内ではアミノ酸に分解されるため、カロリーはほぼゼロです。ADIは40mg/kg体重/日です。

重要な注意点:フェニルケトン尿症 フェニルケトン尿症(PKU)という先天性代謝異常症の患者は、フェニルアラニンを代謝できないため、アスパルテームを避ける必要があります。このため、アスパルテームを含む製品には「L-フェニルアラニン化合物」という表示が義務付けられています。

アセスルファムK(アセスルファムカリウム) 砂糖の約200倍の甘さを持ち、体内では吸収されずにそのまま排泄されます。熱に強いため、加熱調理にも使用できます。

スクラロース 砂糖の約600倍の甘さを持つ、砂糖の塩素化誘導体です。体内ではほとんど吸収されず、そのまま排泄されます。

これらの合成甘味料は、数十年にわたる研究で安全性が確認されていますが、一部で「人工的だから危険」という誤解が根強く残っています。しかし、砂糖の過剰摂取による肥満・糖尿病のリスクと比較すると、適量使用の合成甘味料のリスクは極めて低いというのが科学的コンセンサスです。

天然甘味料

ステビア キク科植物ステビアの葉から抽出される配糖体で、砂糖の約200〜300倍の甘さがあります。南米では古くから使用されており、近年は「天然」という点が評価され使用が増えています。

着色料

着色料は食品を視覚的に魅力的にし、食欲を増進させる役割があります。

天然着色料

カロテノイド系 β-カロテン、リコピン、アスタキサンチンなど、野菜や果物に含まれる色素です。抗酸化作用があり、むしろ健康に良いとされています。

アントシアニン系 紫色の色素で、ブドウ、ブルーベリーなどに含まれます。ポリフェノールの一種で、抗酸化作用があります。

クチナシ色素 クチナシの果実から抽出される黄色色素です。栗きんとん、たくあんなどに使用されます。

ベニコウジ色素 紅麹菌で米を発酵させて得られる赤色色素です。かまぼこ、ハム、ソーセージなどに使用されます。

合成着色料(タール色素)

日本で使用が認められているタール色素は12品目です。

赤色2号(アマランス) 清涼飲料水、菓子、かまぼこなどに使用されます。アメリカでは1976年に使用禁止になりましたが、これは当時の動物実験で催奇形性の疑いが出たためです。その後の再評価で安全性は確認されましたが、アメリカでは禁止のままです。日本では現在も使用が認められています。

赤色3号(エリスロシン) さくらんぼの缶詰、菓子などに使用されます。

赤色40号、赤色102号、赤色104号、赤色105号、赤色106号 それぞれ異なる食品に使用されます。

黄色4号(タートラジン) 最も広く使用されている黄色色素の一つで、菓子、清涼飲料水、漬物などに使用されます。

アレルギー様反応 ごく一部の人(特にアスピリン過敏症の人)にじんま疹や喘息様症状を引き起こすことがあります。これは真のアレルギーではなく、化学物質による直接的なヒスタミン遊離です。

黄色5号(サンセットイエローFCF) 菓子、清涼飲料水などに使用されます。

緑色3号(ファストグリーンFCF) 菓子、清涼飲料水などに使用されますが、使用量は少なめです。

青色1号(ブリリアントブルーFCF) 菓子、清涼飲料水、かき氷のシロップなどに使用されます。

青色2号(インジゴカルミン) 和菓子、清涼飲料水などに使用されます。

論争:タール色素と子どもの行動 2007年、英国食品基準庁(FSA)が資金提供した研究(サウサンプトン研究)で、特定のタール色素と安息香酸ナトリウムの組み合わせが、一部の子どもの多動性を増加させる可能性が示されました。この結果を受けて、EUでは該当する着色料を含む食品に警告表示が義務付けられました。

ただし、この研究結果は再現性に議論があり、日本の食品安全委員会は「日本人の摂取量では問題ない」と評価しています。

調味料・うま味成分

グルタミン酸ナトリウム(MSG) 昆布のうま味成分と同じアミノ酸です。1908年に池田菊苗博士が昆布から抽出し、翌年には工業的製造法が確立されました。

イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム それぞれかつお節、干し椎茸のうま味成分です。グルタミン酸と組み合わせると相乗効果で強いうま味を生み出します。

酸化防止剤

油脂の酸化を防ぎ、風味の劣化や有害な過酸化物の生成を抑制します。

ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンE(トコフェロール) 天然の酸化防止剤として広く使用されます。栄養素としても重要です。

BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン) 合成酸化防止剤で、油脂、バター、魚介乾製品などに使用されます。

1980年代に発がん性が疑われ、使用が制限されました。現在では使用基準が厳格に定められており、その範囲内では安全とされていますが、消費者の懸念から使用は減少傾向にあります。

増粘剤・安定剤・ゲル化剤

天然多糖類 カラギナン、ペクチン、キサンタンガム、グァーガム、アルギン酸など、植物や海藻、微生物由来の多糖類です。

これらは食物繊維の一種であり、体内ではほとんど消化吸収されません。毒性は極めて低く、むしろ整腸作用などの健康効果が期待されることもあります。

カラギナンの議論 一部の動物実験で大腸の炎症や腫瘍が報告され、議論になりましたが、これは食品に使用される「食用カラギナン」ではなく、分解された「ポリゲナン」という別の物質によるものでした。食用カラギナンの安全性は確認されています。

乳化剤

レシチン 大豆や卵黄に含まれる天然の乳化剤です。チョコレート、マヨネーズ、マーガリンなどに使用されます。細胞膜の構成成分でもあり、安全性は極めて高いです。

グリセリン脂肪酸エステル グリセリンと脂肪酸から合成される乳化剤です。パン、アイスクリーム、ホイップクリームなどに使用されます。体内では脂肪酸とグリセリンに分解され、通常の脂質として代謝されます。

第3章:農薬と残留農薬

農薬の分類と用途

殺虫剤

  • 有機リン系:マラチオン、ダイアジノンなど
  • カーバメート系:カルバリル、プロポキスルなど
  • ピレスロイド系:ペルメトリン、シペルメトリンなど
  • ネオニコチノイド系:イミダクロプリド、クロチアニジンなど

殺菌剤

  • 銅剤:ボルドー液など
  • 有機硫黄剤:マンゼブなど
  • トリアゾール系:テブコナゾールなど

除草剤

  • グリホサート
  • パラコート
  • 2,4-D

残留農薬基準と安全性

ポジティブリスト制度 2006年から日本で導入された制度で、基準が設定されていない農薬が一定量以上検出された食品は販売禁止となります。これにより、規制の網をかいくぐる抜け道がなくなりました。

基準値の設定方法

  1. ADI(一日摂取許容量)を設定
  2. 日本人の平均的な食品摂取量を考慮
  3. ADIの80%以下になるよう各食品の残留基準を設定
  4. 実際の残留量は基準値よりさらに低いことが多い

特に議論の多い農薬

グリホサート 世界で最も広く使用されている除草剤「ラウンドアップ」の主成分です。

議論の焦点 2015年、WHOの外部組織である国際がん研究機関(IARC)が、グリホサートを「おそらく発がん性がある(グループ2A)」に分類しました。しかし、同じWHO内の別組織(JMPR)や、米国EPA、欧州食品安全機関(EFSA)、日本の食品安全委員会は「発がん性の証拠は不十分」としています。

この評価の違いは、IARCが「ハザード(潜在的な危険性)」を評価するのに対し、他の機関は「リスク(実際の曝露量での危険性)」を評価するという、評価の枠組みの違いによるものです。

実際のリスク 日本での残留基準は厳格に設定されており、実際の検出量は基準値を大きく下回ることがほとんどです。通常の食生活で健康被害が出る可能性は極めて低いとされています。

ネオニコチノイド系農薬 ミツバチの大量死との関連が指摘され、EUでは屋外使用が原則禁止されました。

人への影響 神経発達への影響が懸念されており、特に胎児や乳幼児への影響について研究が進められています。日本では使用が認められていますが、残留基準の見直しが議論されています。

有機リン系農薬 神経伝達物質アセチルコリンを分解する酵素(コリンエステラーゼ)を阻害し、神経系に作用します。

急性毒性は比較的高いですが、環境中で速やかに分解されます。適切に使用され、残留基準を守っていれば、健康リスクは低いとされています。

農薬曝露を減らす実践的方法

  1. 流水でよく洗う:30秒以上の流水洗浄で、表面の残留農薬の大部分を除去できます
  2. 皮をむく:残留農薬の多くは表面に集中しています
  3. 多様な産地・種類の野菜を食べる:特定の農薬への曝露を分散できます
  4. 旬のものを選ぶ:旬の作物は病害虫が少なく、農薬使用量が少ない傾向があります
  5. 有機栽培を検討する:特に妊婦、乳幼児、子どもには選択肢の一つです

第4章:環境汚染物質

食品中には、環境汚染に由来する望ましくない化学物質が含まれることがあります。

重金属

水銀(メチル水銀) 主に魚介類、特に大型魚(マグロ、カジキ、サメなど)に蓄積します。食物連鎖で生物濃縮されるため、食物連鎖の上位にいる魚ほど濃度が高くなります。

健康影響 胎児の脳神経系の発達に影響を与える可能性があります。このため、妊婦は大型魚の摂取を週1回程度に制限することが推奨されています。

一方で、魚には EPA、DHAなどの有益な栄養素も豊富です。バランスを考え、小型魚(サバ、イワシ、サンマなど)を中心に、多様な魚を食べることが推奨されます。

カドミウム 主に米、野菜、内臓肉に含まれます。かつて「イタイイタイ病」という公害病の原因となりました。

現在では環境対策が進み、食品中の濃度は大幅に低下しています。日本人の平均的な摂取量は、WHOの耐容週間摂取量を下回っています。

缶詰の溶接部分、古い水道管などから溶出することがあります。子どもの神経発達に影響を与える可能性があるため、特に注意が必要です。

現在では、缶詰の製造法が改良され、水道管も交換が進んでいるため、曝露量は減少しています。

ヒ素(無機ヒ素) 主に米、海藻、魚介類に含まれます。特にヒジキには高濃度の無機ヒ素が含まれることがわかり、2004年に英国食品基準庁が摂取を控えるよう勧告しました。

日本の食品安全委員会は「日本の伝統的な調理法(水戻し・ゆでこぼし)で無機ヒ素を減らせる」とし、バランスの取れた食生活であれば問題ないとしています。

ダイオキシン類とPCB

ダイオキシン類 ごみ焼却や金属精錬の過程で非意図的に生成される物質です。環境中に長期間残留し、食物連鎖で濃縮されます。

主な曝露源は魚介類、肉、乳製品などの動物性食品です。体内に蓄積しやすく、発がん性、免疫毒性、生殖毒性が懸念されています。

日本では1999年にダイオキシン類対策特別措置法が制定され、環境中の濃度は大幅に減少しました。現在の日本人の平均的な摂取量は、耐容一日摂取量を下回っています。

PCB(ポリ塩化ビフェニル) かつて電気機器の絶縁油などに使用されていましたが、1968年のカネミ油症事件を受けて、1972年に製造・使用が禁止されました。

環境中に残留したPCBは、現在も魚介類から検出されることがあります。ダイオキシン類と同様、脂溶性で体内に蓄積しやすく、内分泌かく乱作用が懸念されています。

アクリルアミド

炭水化物を多く含む食品を高温(120℃以上)で加熱調理すると生成される物質です。

主な含有食品

  • ポテトチップス
  • フライドポテト
  • ビスケット、クッキー
  • 朝食用シリアル
  • コーヒー(焙煎過程で生成)

健康影響 動物実験では発がん性と神経毒性が確認されていますが、人での影響は明確ではありません。ただし、「できるだけ低減すべき物質」とされています。

低減方法

  • 揚げ物は170℃以下で調理
  • じゃがいもは冷蔵保存を避ける(還元糖が増えてアクリルアミド生成が増える)
  • きつね色程度に留め、焦がさない

トランス脂肪酸

生成メカニズム

  • 工業的水素添加:液体の植物油を固形化する過程で生成(マーガリン、ショートニング)
  • 高温調理:油脂の繰り返し加熱で微量生成
  • 反芻動物の体内:牛や羊の胃の中で微生物により生成(乳製品、牛肉に天然に含まれる)

健康影響 LDL(悪玉)コレステロールを増加させ、HDL(善玉)コレステロールを減少させるため、心血管疾患のリスクを高めます。

WHOは総エネルギー摂取量の1%未満に抑えることを推奨しています。アメリカでは2018年に工業的トランス脂肪酸の使用が原則禁止されました。

日本では表示義務はありませんが、業界の自主的な取り組みで含有量は減少しています。日本人の平均摂取量はWHO目標を下回っていますが、菓子パンやスナック菓子を多く食べる人は注意が必要です。

第5章:食物アレルギーとアレルゲン

食物アレルギーの基本

食物アレルギーは、本来無害な食品タンパク質に対して免疫システムが過剰反応する状態です。

日本での有病率

  • 乳児:約10%
  • 幼児:約5%
  • 学童期以降:約1.5〜2%
  • 成人:約1〜2%

多くの子どもは成長とともに耐性を獲得し、アレルギーが治ります。特に卵、牛乳、小麦、大豆は耐性獲得率が高いです。一方、ピーナッツ、木の実、甲殻類、魚類は耐性獲得が難しい傾向があります。

主要アレルゲン食品

日本では食品表示法により、特定原材料8品目の表示が義務付けられています。

特定原材料(表示義務)8品目

  1. :日本で最も多い食物アレルゲン。主要アレルゲンはオボアルブミン、オボムコイド
  2. :カゼイン、β-ラクトグロブリンなど
  3. 小麦:グルテン(グリアジン、グルテニン)
  4. そば:重篤なアナフィラキシーを起こしやすい
  5. ピーナッツ:耐性獲得が難しく、微量で反応することも
  6. えび:トロポミオシンが主要アレルゲン
  7. かに:えびと交差反応性が高い
  8. くるみ:2025年に新たに追加。木の実アレルギーの中で最も多い

特定原材料に準ずるもの(表示推奨)20品目 アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン

アレルゲンタンパク質の特性

熱安定性

  • 熱に強い:卵(オボムコイド)、ピーナッツ、甲殻類、魚類
  • 熱に弱い:牛乳(β-ラクトグロブリン)、果物(一部)

熱に強いアレルゲンは、加熱調理してもアレルギーを起こします。一方、熱に弱いアレルゲンは、加熱により変性してアレルギー性が低下することがあります。

消化酵素への抵抗性 胃酸や消化酵素で分解されにくいタンパク質ほど、アレルゲンになりやすい傾向があります。これらは腸まで到達して免疫系に認識されやすいためです。

分子量 一般に、分子量10,000〜70,000の範囲のタンパク質がアレルゲンになりやすいとされています。

交差反応性

あるアレルゲンに感作された人が、構造の似た別の物質にも反応する現象です。

主な交差反応の組み合わせ

  • ラテックス-フルーツ症候群:ゴムアレルギーの人がバナナ、アボカド、キウイ、栗などに反応
  • 花粉-食物アレルギー症候群(PFAS):花粉症の人が、構造の似た果物や野菜に反応
    • シラカバ花粉→リンゴ、桃、さくらんぼ、セロリ
    • スギ花粉→トマト
    • イネ科花粉→メロン、スイカ、トマト
    • ブタクサ花粉→メロン、スイカ、バナナ
  • 甲殻類の交差反応:えび、かに、ロブスター、ザリガニなど
  • 木の実類:くるみ、カシューナッツ、アーモンド、ピスタチオなど

第6章:その他の食品由来化学物質

天然毒素

自然界の食品にも有害な化学物質が含まれています。

ソラニン・チャコニン(じゃがいも) 芽や緑化した部分に含まれる配糖体アルカロイドです。神経系に作用し、吐き気、下痢、腹痛などを引き起こします。重症例では意識障害や呼吸困難も。

予防法:芽を完全に取り除く、緑化した部分は厚くむく、小さく緑化したじゃがいもは使わない

シアン化合物(青梅、ビワの種など) アミグダリンなどの青酸配糖体が、体内で分解されて有毒な青酸(シアン化水素)を生成します。

予防法:未熟な梅は使わない、ビワの種を粉末にして大量摂取しない

ヒスタミン(鮮度低下した魚) マグロ、カツオ、サバなどの赤身魚に多く含まれるヒスチジン(アミノ酸)が、細菌によってヒスタミンに変換されます。

症状:じんま疹、頭痛、発熱、吐き気(アレルギー様食中毒)

予防法:新鮮な魚を選ぶ、低温保存を徹底する

フグ毒(テトロドトキシン) フグの卵巣、肝臓などに含まれる猛毒です。致死量はわずか1〜2mg。神経を麻痺させ、呼吸停止を引き起こします。

貝毒

  • 麻痺性貝毒(PSP):アサリ、ホタテなど
  • 下痢性貝毒(DSP):ムール貝、ホタテなど

これらは貝自身が作るのではなく、貝が餌として食べた有毒プランクトンが体内に蓄積したものです。

その他

  • タケノコのシアン配糖体
  • キノコ毒(アマトキシン、ムスカリンなど)
  • 銀杏の4-O-メチルピリドキシン(ビタミンB6拮抗物質)

食品中の発がん性物質

ヘテロサイクリックアミン類(HCAs) 肉や魚を高温で調理(焼く、揚げる)すると、アミノ酸、糖、クレアチニンが反応して生成されます。

主な物質:PhIP、MeIQx、IQなど

動物実験では発がん性が確認されていますが、人での影響は明確ではありません。

低減方法:

  • 調理温度を下げる
  • 調理時間を短くする
  • 焦げた部分は取り除く
  • マリネ(漬け込み)する(抗酸化物質が生成を抑制)

多環芳香族炭化水素(PAHs) 炭火焼き、燻製などで有機物が不完全燃焼すると生成されます。

代表例:ベンゾ[a]ピレン

発がん性があるため、摂取量を減らすことが推奨されます。

ニトロソアミン類 肉製品の亜硝酸塩とアミン類が高温で反応して生成されます。(第2章参照)

アフラトキシン ナッツ類、穀類、スパイスなどにカビ(アスペルギルス属)が生えると産生されるカビ毒です。強力な肝臓がんの原因物質です。

日本では輸入食品の検査で監視されており、基準値を超えたものは流通しません。適切に保存し、カビの生えた食品は食べないことが重要です。

内分泌かく乱物質(環境ホルモン)

ホルモンの働きを撹乱し、生殖機能や発達に影響を与える可能性のある化学物質です。

ビスフェノールA(BPA) ポリカーボネート製プラスチック(哺乳瓶、食器)、缶詰の内面塗装(エポキシ樹脂)に使用されてきました。

エストロゲン様作用があり、特に胎児や乳幼児への影響が懸念されています。

現状:

  • 日本、EU、アメリカなどで哺乳瓶への使用が禁止
  • 缶詰メーカーは代替物質への切り替えを進行中
  • 日本人の平均的な曝露量は安全域内とされているが、予防的観点から低減が推奨される

フタル酸エステル類 プラスチックを柔らかくする可塑剤として使用されます。食品包装、ラップフィルム、容器などから食品に移行する可能性があります。

抗アンドロゲン作用(男性ホルモン阻害)が懸念されています。

対策:

  • 油分の多い食品を長時間プラスチック容器に保存しない
  • 電子レンジ加熱時は「レンジ対応」表示のある容器を使用
  • ラップは食品に直接触れないようにする

第7章:食品化学物質の総合的なリスク評価

リスクとハザードの違い

ハザード(危険性) その物質が持つ潜在的な有害性です。「大量に摂取したら有害」というレベルの情報です。

リスク(危険度) 実際の曝露量を考慮した、現実的な健康被害の可能性です。

重要なのは、「ハザードがある=危険」ではないということです。水も塩も大量に摂取すれば有害ですが、通常の摂取量では安全です。

用量-反応関係

16世紀の医師パラケルススの言葉「すべてのものは毒である。毒でないものは存在しない。量が毒と薬を区別する」は、毒性学の基本原則です。

どんな物質も:

  • 低用量では無害
  • 中用量で効果(または軽微な毒性)
  • 高用量で毒性

が現れます。食品添加物や農薬の安全性評価は、この原則に基づいています。

累積的リスクと複合曝露

私たちは単一の化学物質にだけ曝露されるわけではありません。複数の化学物質に同時に、長期的に曝露されています。

カクテル効果(複合影響) 個々の化学物質は安全域内でも、複数の物質が相互作用して予想外の影響を及ぼす可能性が理論的に考えられます。

現在の科学では、すべての組み合わせを評価することは不可能ですが、以下のアプローチで対応しています:

  • 類似の作用メカニズムを持つ物質群でのリスク評価
  • 安全係数を大きく取る(動物実験の無毒性量の1/100をADIとする)
  • 実際の食事での曝露調査(マーケットバスケット方式)

脆弱な集団への配慮

妊婦・胎児

  • 胎盤を通過する化学物質がある
  • 胎児は解毒能力が未発達
  • 神経系、内分泌系の発達期は特に影響を受けやすい

乳幼児・子ども

  • 体重あたりの摂取量が成人より多い
  • 解毒酵素の活性が低い
  • 成長・発達期で細胞分裂が盛ん

高齢者

  • 腎機能、肝機能の低下により排泄能力が低下
  • 薬との相互作用の可能性

これらの集団に対しては、より慎重なリスク評価と、追加的な安全対策が必要です。

第8章:実践的なリスク低減戦略

基本原則:多様性とバランス

多様な食品を食べる 特定の食品に偏らないことで:

  • 特定の化学物質への曝露が集中するのを防ぐ
  • 栄養バランスが改善される
  • 様々な有益成分(抗酸化物質、食物繊維など)を摂取できる

調理・保存の工夫

農薬残留を減らす

  1. 流水で30秒以上洗う(スポンジやブラシを使うとより効果的)
  2. 皮をむく
  3. ゆでる(水溶性の農薬が減少)
  4. 外葉を捨てる(キャベツ、レタスなど)

有害物質の生成を抑える調理法

  1. 低温・短時間調理を心がける
  2. 焦げた部分は取り除く
  3. 蒸す、煮るなど水を使った調理を増やす
  4. マリネや下味で抗酸化物質を補給

適切な保存

  1. 冷蔵・冷凍保存を徹底(細菌増殖、ヒスタミン生成を防ぐ)
  2. 密閉容器を使用(酸化を防ぐ)
  3. 直射日光を避ける
  4. 開封後は早めに消費

食品選択の工夫

表示をチェックする習慣

  • アレルギー表示(特定原材料)
  • 添加物の種類と量
  • 原産地
  • 消費期限・賞味期限

加工度の低い食品を選ぶ 加工度が高いほど、添加物の種類や量が増える傾向があります。できるだけ素材に近い形の食品を選び、自分で調理することで、添加物の摂取を減らせます。

有機食品の選択 農薬が気になる場合、以下の食品は有機を検討する価値があります:

  • 皮ごと食べる果物(いちご、ぶどう、りんご)
  • 葉物野菜(ほうれん草、小松菜)
  • 子どもや妊婦が多く食べるもの

ただし、有機=絶対安全ではありません。有機農薬も使用されますし、天然毒素は有機でも含まれます。バランスが重要です。

容器・包装材の選択

プラスチック使用時の注意

  1. 油分の多い食品は長時間保存しない
  2. 電子レンジ加熱は「レンジ対応」製品のみ
  3. 熱い食品を直接入れない
  4. 傷ついた容器は使わない

代替素材の活用

  • ガラス容器
  • ステンレス容器
  • 陶器
  • 蜜蝋ラップ(プラスチックラップの代替)

第9章:食品化学物質に関する誤解と真実

よくある誤解

誤解1:「天然=安全、合成=危険」 真実:天然物にも毒性の強いものは多数あります(フグ毒、キノコ毒、シアン化合物など)。一方、合成添加物も厳格な安全性試験を経ています。起源ではなく、科学的評価が重要です。

誤解2:「無添加の食品が最も安全」 真実:保存料を使わないことで、かえって食中毒のリスクが高まることがあります。また「無添加」表示は、特定の添加物を使っていないだけで、他の添加物は使用している場合もあります。

誤解3:「微量でも検出されたら危険」 真実:検出技術の向上により、ごく微量の物質も検出できるようになりました。しかし、検出される=有害ではありません。リスクは量で決まります。

誤解4:「海外で禁止されている=日本は遅れている」 真実:各国で食文化、使用実態、リスク評価の方法が異なります。ある国で禁止されていても、科学的に危険とは限りません。逆に日本で認められていても海外で禁止の添加物もあります。

誤解5:「オーガニック食品は農薬ゼロ」 真実:有機農業でも一部の農薬(有機農薬)は使用可能です。また、隣接する通常農地からの農薬飛散(ドリフト)もあり得ます。

メディア情報の読み解き方

センセーショナルな見出しに注意 「発がん性物質検出!」という見出しでも、実際の量や曝露経路を確認する必要があります。

チェックポイント

  1. 情報源は信頼できるか(査読付き学術誌、公的機関など)
  2. 研究対象は何か(動物実験、培養細胞、疫学研究)
  3. 用量はどれくらいか(現実的な摂取量か)
  4. 他の研究との整合性はあるか(単独の研究か、複数の研究で再現されているか)

動物実験の結果の解釈 動物実験で見られた影響が、必ずしも人間にも当てはまるとは限りません。また、実験では非現実的な高用量を使うことが多く、その結果を通常の摂取量に外挿する際には注意が必要です。

第1章:食品添加物の安全性評価システム

安全性評価の仕組み

すべての食品添加物は、使用が認められる前に厳格な安全性評価を受けます。

ADI(一日摂取許容量)の設定プロセス

  1. 動物実験で毒性が現れない最大量(無毒性量)を特定
  2. 通常100分の1にした値をADIとする
  3. 人が一生涯、毎日摂取し続けても健康に悪影響がないと推定される量

マーケットバスケット方式

実際に市場で売られている食品を購入し、日本人の平均的な食生活での添加物摂取量を調査。この実測値がADIを超えないよう管理されています。

分類体系

分類軸内容
起源別天然添加物(約600品目)/合成添加物(約470品目)
用途別保存料、着色料、甘味料、調味料、酸化防止剤、増粘剤、乳化剤、発色剤、pH調整剤、漂白剤、膨張剤

第2章:リスクとハザードの理解

重要な概念の違い

用語意味
ハザード潜在的な有害性「大量に摂取したら有害」
リスク実際の曝露量を考慮した危険度「通常の摂取量では安全」

パラケルススの原則:「すべてのものは毒である。量が毒と薬を区別する」

水も塩も大量に摂取すれば有害ですが、通常の摂取量では安全です。食品添加物や農薬の安全性評価は、この原則に基づいています。

第3章:アレルギー反応のメカニズム

I型アレルギー(即時型)の4ステップ

ステップ内容タイミング
1. 感作アレルゲンが侵入→樹状細胞が認識→T細胞・B細胞が活性化→IgE抗体産生→肥満細胞に結合初回曝露(症状なし)
2. 再曝露同じアレルゲン侵入→IgE抗体に結合→架橋形成2回目以降
3. 脱顆粒肥満細胞が活性化→化学伝達物質を大量放出(ヒスタミン、ロイコトリエンなど)数分以内
4. 症状かゆみ、じんま疹、気管支収縮、血管拡張など即時相+遅発相

化学伝達物質の役割

物質放出タイミング主な作用
ヒスタミン数分以内かゆみ、くしゃみ、鼻水、血管拡張
ロイコトリエンやや遅い気管支収縮(喘息)、持続的炎症
プロスタグランジンやや遅い炎症増強、痛み、発熱
サイトカイン数時間後慢性炎症、好酸球動員

化学物質とアレルギーの3つの関係

メカニズム説明
1. 直接的アレルゲン化学物質そのものがアレルゲン金属(ニッケル)、ゴム加硫剤
2. ハプテン体内タンパク質と結合してアレルゲン化ペニシリン、染毛剤(PPD)
3. アジュバント効果免疫系を活性化し他のアレルギーを増強ディーゼル排気粒子、界面活性剤

アレルギー分類(ゲル・クームス分類)

主な機序発症時間代表例
I型(即時型)IgE抗体数分〜数時間花粉症、食物アレルギー、喘息
II型(細胞傷害型)IgG/IgM抗体数時間血液型不適合、薬剤性貧血
III型(免疫複合体型)抗原抗体複合体数時間〜数日血清病、一部の薬疹
IV型(遅延型)T細胞24〜48時間金属アレルギー、接触性皮膚炎

第4章:包括的化学物質データ

表1:食品添加物

分類物質名主な用途ADI健康懸念アレルギー関連備考
保存料
ソルビン酸Kかまぼこ、チーズ、漬物25mg/kg/日低毒性なし体内で脂肪酸として代謝
安息香酸Na清涼飲料、シロップ5mg/kg/日一部でじんま疹偽アレルギーpH4.5以下で有効
プロピオン酸Caパン、洋菓子制限なし極低毒性なしチーズに天然含有
亜硝酸Naハム、ソーセージ0.07mg/kg/日ニトロソアミン生成可能性なしビタミンC併用で低減
パラオキシ安息香酸清涼飲料、醤油10mg/kg/日内分泌かく乱(弱)まれに皮膚炎化粧品でも使用
甘味料
アスパルテームダイエット飲料40mg/kg/日PKU患者禁忌なし砂糖の200倍
アセスルファムK清涼飲料、菓子15mg/kg/日なしなし吸収されず排泄
スクラロース清涼飲料、菓子15mg/kg/日なしなし砂糖の600倍
サッカリンNa清涼飲料、漬物5mg/kg/日発がん性疑い(現在否定)なし使用減少傾向
ステビア清涼飲料、菓子4mg/kg/日なしなし天然甘味料
着色料(合成)
赤色2号菓子、飲料0.5mg/kg/日米国禁止一部じんま疹アマランス
赤色3号さくらんぼ缶詰2.5mg/kg/日甲状腺影響(高用量)なしエリスロシン
赤色40号菓子、飲料7mg/kg/日多動性(議論中)一部じんま疹米国で広く使用
黄色4号菓子、飲料、漬物7.5mg/kg/日多動性(議論中)アスピリン過敏症で反応タートラジン
黄色5号菓子、飲料4mg/kg/日多動性(議論中)まれにじんま疹サンセットイエロー
青色1号菓子、かき氷12.5mg/kg/日なしなしブリリアントブルー
青色2号和菓子、飲料5mg/kg/日なしなしインジゴカルミン
着色料(天然)
カロテノイド飲料、菓子制限なしなしなし抗酸化作用
アントシアニン飲料、菓子制限なしなしなし抗酸化作用
クチナシ色素栗きんとん、漬物制限なしなしなし天然
カルミン菓子、飲料5mg/kg/日なしまれにアナフィラキシーカイガラムシ由来
調味料
グルタミン酸Na加工食品全般制限なしなし(MSG症候群否定)なし昆布うま味
イノシン酸Na加工食品全般制限なしなしなしかつお節うま味
グアニル酸Na加工食品全般制限なしなしなし椎茸うま味
酸化防止剤
ビタミンC加工食品全般制限なしなしなし栄養素
ビタミンE油脂、加工食品制限なしなしなし栄養素
BHA油脂、バター0.5mg/kg/日発がん性懸念(高用量)なし使用減少
BHT油脂、加工食品0.3mg/kg/日発がん性懸念(高用量)なし使用減少
増粘剤・安定剤
カラギナンアイス、ゼリー制限なし分解物で懸念(食用は安全)なし海藻由来
ペクチンジャム、ゼリー制限なしなしなし果物由来
キサンタンガムドレッシング制限なしなしなし微生物由来
グァーガムアイス、ソース制限なしなしなしマメ科植物由来
アルギン酸ゼリー、アイス制限なしなしなし海藻由来
乳化剤
レシチンチョコ、マヨネーズ制限なしなし大豆・卵アレルギー注意天然成分
グリセリン脂肪酸エステルパン、アイス制限なしなしなし脂質として代謝
漂白剤
亜硫酸塩類ワイン、ドライフルーツ0.7mg/kg/日喘息患者5-10%反応偽アレルギーSO₂として表示

表2:農薬

分類物質名主な作物作用機序ADI主な懸念残留しやすい食品備考
殺虫剤
有機リン系マラチオン果樹、野菜コリンエステラーゼ阻害0.3mg/kg/日神経毒性(急性)果物、野菜環境中で分解
ダイアジノン野菜、芝生コリンエステラーゼ阻害0.002mg/kg/日神経毒性葉物野菜使用減少
カーバメート系カルバリル果樹、芝生コリンエステラーゼ阻害0.008mg/kg/日神経毒性果物作用短い
ピレスロイド系ペルメトリン野菜、果樹Naチャネル作用0.05mg/kg/日哺乳類毒性低果物、野菜魚類高毒性
ネオニコチノイド系イミダクロプリド米、野菜、果樹ニコチン受容体0.06mg/kg/日神経発達影響懸念茶葉、果物ミツバチ問題
クロチアニジン米、野菜ニコチン受容体0.097mg/kg/日神経発達影響懸念穀物、野菜EU規制強化
殺菌剤
銅剤ボルドー液ぶどう、トマト細胞膜破壊0.5mg/kg/日銅過剰有機農業可最古の農薬
有機硫黄剤マンゼブ野菜、果樹酵素阻害0.03mg/kg/日甲状腺影響果物、野菜ETUに懸念
トリアゾール系テブコナゾール穀物、果樹エルゴステロール合成阻害0.03mg/kg/日内分泌かく乱可能性穀物、果物広く使用
除草剤
グリホサート広範囲アミノ酸合成阻害1mg/kg/日発がん性(評価分かれる)小麦、大豆最多使用除草剤
パラコート広範囲光合成阻害0.004mg/kg/日急性毒性極高多国で禁止
2,4-D芝生、穀物植物ホルモン類似0.3mg/kg/日内分泌かく乱可能性穀物枯葉剤成分

表3:環境汚染物質

分類物質名主な発生源主な食品健康影響対策規制
重金属
メチル水銀工場排水→生物濃縮大型魚(マグロ、カジキ)胎児神経発達障害妊婦は大型魚週1回まで暫定基準値
カドミウム鉱山→土壌汚染米、内臓肉腎臓障害(イタイイタイ病)汚染米流通禁止基準値あり
旧式水道管、缶詰水道水、缶詰(旧式)神経発達障害(子ども)水道管更新、缶製法改良基準値あり
ヒ素(無機)自然由来、農薬米、海藻、魚介発がん性、皮膚障害多様な食品摂取基準設定中
有機汚染物質
ダイオキシン類焼却炉、製鉄所魚介、肉、乳製品発がん性、免疫毒性、生殖毒性発生源対策進行耐容摂取量
PCB過去の電気機器魚介(脂質)発がん性、内分泌かく乱使用禁止済、環境残留分暫定基準値
加工・調理由来
アクリルアミド高温調理(120℃+)ポテチ、コーヒー発がん性(動物実験)低温調理、焦がさない低減目標値
ヘテロサイクリックアミン肉・魚高温調理焼肉、焼魚発がん性(動物実験)焦げ避ける、マリネ注意喚起
PAHs炭火焼、燻製燻製品、炭火焼肉発がん性焦げ避けるベンゾピレン基準
トランス脂肪酸工業的水素添加マーガリン、菓子パン心血管疾患リスク低含有製品選択表示義務なし
カビ毒
アフラトキシンカビ(アスペルギルス)ナッツ、穀物、スパイス肝がん(強力)輸入時検査、適切保存厳格基準
デオキシニバレノールカビ(フザリウム)小麦、大麦嘔吐、免疫抑制汚染穀物除去暫定基準値
パツリンカビ(ペニシリウム)りんごジュース神経毒性腐敗果実除去基準値あり

表4:内分泌かく乱物質

物質名用途・発生源曝露経路作用懸念対象現状
ビスフェノールA(BPA)プラスチック容器、缶詰内面食品移行エストロゲン様胎児、乳幼児哺乳瓶禁止、缶詰代替進行
フタル酸エステル類プラスチック可塑剤食品移行抗アンドロゲン胎児(男児)食品包装制限
ノニルフェノール洗剤、農薬副成分環境→魚介蓄積エストロゲン様水生生物、人使用削減中
DDT(過去)農薬(1971年禁止)環境残留→食物連鎖エストロゲン様胎児、乳児禁止済、環境残留

表5:食物アレルゲン

食品主要タンパク質交差反応耐性獲得率重症度特記事項
特定原材料(表示義務8品目)
オボアルブミン、オボムコイドなし高(80%)最多アレルゲン。加熱で一部耐性
牛乳カゼイン、β-ラクトグロブリンヤギ乳、羊乳高(80%)加熱で一部耐性
小麦グリアジン、グルテニン他穀物(まれ)中(50%)中〜高運動誘発アナフィラキシーあり
そばFag e 1なし微量で重篤反応
ピーナッツAra h 1, 2, 3他豆類(まれ)低(20%)微量反応。エピペン必要も
えびトロポミオシンかに、甲殻類中〜高加熱しても残存
かにトロポミオシンえび、甲殻類中〜高えびと高交差反応
くるみJug r 1他木の実中〜高木の実で最多
表示推奨20品目より抜粋
大豆Gly m 4ピーナッツ(まれ)高(90%)低〜中発酵で抗原性低下
ごまSes i 1なし近年増加
さばパルブアルブミン他魚ヒスタミン中毒と鑑別
いくらビテロゲニン他魚卵魚肉は食べられることも
重要交差反応
バナナプロフィリンラテックス、アボカド、キウイ低〜中ラテックス-フルーツ症候群
りんごMal d 1(PR-10)シラカバ花粉、桃高(加熱で)花粉-食物症候群。加熱分解
ももPru p 1, 3シラカバ花粉、りんご低〜中口腔アレルギー症候群
キウイAct d 1ラテックス、バナナ近年増加

表6:天然毒素

毒素含有食品作用機序症状致死量予防法
ソラニン・チャコニンじゃがいも(芽、緑化部)神経伝達阻害吐気、下痢、腹痛、意識障害約400mg芽除去、緑化部厚くむく
アミグダリン青梅、ビワ種、杏仁体内で青酸化頭痛、めまい、呼吸困難種50-60個未熟梅避ける、種大量摂取しない
テトロドトキシンフグ(卵巣、肝臓)Naチャネル遮断しびれ、麻痺、呼吸停止1-2mg有資格者調理のみ
麻痺性貝毒二枚貝(春夏)Naチャネル遮断しびれ、麻痺、呼吸困難約1mg出荷規制遵守
下痢性貝毒ムール貝、ホタテ酵素阻害下痢、吐気、腹痛出荷規制遵守
シアン配糖体タケノコ、キャッサバ体内で青酸化頭痛、めまい、呼吸困難十分あく抜き、加熱
4-O-メチルピリドキシン銀杏ビタミンB6拮抗けいれん、嘔吐子7-150個子は1日5個程度

表7:主要な接触性アレルゲン(化学物質)

物質用途アレルギータイプ主な症状曝露源注意点
金属
ニッケルアクセサリー、眼鏡、硬貨IV型接触性皮膚炎ピアス、ベルトバックル金属アレルギー最多原因。汗で溶出
クロム革製品(なめし剤)、セメントIV型職業性皮膚炎革靴、革手袋建設業で曝露
コバルト合金、陶器顔料IV型接触性皮膚炎アクセサリーニッケルと交差反応30%
ゴム関連
ラテックスゴム手袋、コンドームI型/IV型即時型・遅延型両方医療用手袋バナナ等と交差反応
ゴム加硫剤ゴム製品IV型接触性皮膚炎手袋、靴医療従事者に多い
化粧品・日用品
パラフェニレンジアミン染毛剤、ヘナタトゥーIV型重篤皮膚炎美容院、自宅染毛美容師職業病。一度感作で生涯続く
ホルムアルデヒド建材、繊維防しわ加工IV型/刺激性シックハウス、皮膚炎新築住宅、新家具目・気道刺激
イソチアゾリノン類化粧品・洗剤防腐剤IV型接触性皮膚炎シャンプー、洗剤近年増加。EU規制強化
パラベン類化粧品防腐剤IV型接触性皮膚炎化粧品、医薬品プロピル・ブチルで高い
香料香水、化粧品、洗剤IV型/過敏症皮膚炎、化学物質過敏症柔軟剤、芳香剤数百種混合。特定困難
職業性
イソシアネートポリウレタン塗料、接着剤I型/IV型職業性喘息自動車塗装、建設重篤呼吸器症状
エポキシ樹脂接着剤、塗料、電子部品IV型職業性皮膚炎電気・建設業硬化前が危険
アクリレート類ネイル、歯科材料IV型皮膚炎ネイルサロン、歯科ジェルネイルで若年女性増加

表8:偽アレルギー反応を起こす物質

物質主な用途・食品機序症状IgE検査特徴
亜硫酸塩ワイン、ドライフルーツ直接ヒスタミン遊離喘息発作陰性喘息患者5-10%反応
安息香酸清涼飲料直接ヒスタミン遊離じんま疹、喘息陰性薬理作用
タール色素菓子、飲料直接ヒスタミン遊離じんま疹陰性アスピリン過敏症で多い
ヒスタミン鮮度低下魚ヒスタミンそのものじんま疹、頭痛陰性アレルギー様食中毒
造影剤医療検査補体活性化アナフィラキシー様陰性真のアレルギーではない
アスピリン鎮痛剤COX阻害じんま疹、喘息陰性薬理作用

第5章:現代的アレルギー増加要因

衛生仮説とそのメカニズム

要因メカニズム影響
幼少期感染減少Th1/Th2バランスがTh2優位にアレルギー体質形成
腸内細菌叢の変化免疫調節機能低下免疫寛容の障害
帝王切開増加母親の膣内細菌に曝露されない腸内細菌叢の発達不全
抗生物質多用腸内細菌の多様性低下免疫系の未成熟

化学物質のアジュバント効果

物質作用機序結果
ディーゼル排気粒子樹状細胞活性化、Th2促進IgE産生数十倍増加
界面活性剤皮膚バリア破壊経皮感作促進
環境ホルモン免疫系発達への影響アレルギー体質形成
大気汚染物質気道上皮バリア低下アレルゲン侵入促進

調理法による有害物質生成抑制

調理法アクリルアミドHCAsPAHs栄養保持
蒸す◎生成なし◎生成なし◎生成なし◎高い
煮る◎生成なし◎生成なし◎生成なし△水溶性流出
炒める(中火)○少ない○少ない○少ない○良い
焼く(低温)△やや生成△やや生成△やや生成○良い
揚げる(170℃)△やや生成△やや生成○少ない△油吸収
揚げる(180℃+)×多い×多い△やや生成△油吸収
炭火焼き×多い×多い×多い○良い

容器・包装材の選択指針

材質安全性利便性推奨用途避けるべき用途
ガラス◎最高△重い保存全般冷凍(割れる)
ステンレス◎高い○良い保存、調理電子レンジ
陶器◎高い△重い保存、調理落下注意
シリコン○良い◎優秀電子レンジ、保存高温オーブン(一部)
プラスチック(レンジ対応)○良い◎優秀短期保存、レンジ油分・高温長期
プラスチック(非対応)△注意◎優秀常温短期レンジ、熱湯、油分長期
ラップ△注意◎優秀一時的カバー直接接触、レンジ加熱

第8章:よくある誤解と科学的真実

誤解の整理表

誤解真実科学的根拠
天然=安全、合成=危険天然毒素も多数存在。起源でなく科学的評価が重要フグ毒、キノコ毒は天然。合成添加物は厳格試験済
無添加が最も安全保存料なしで食中毒リスク増加もボツリヌス菌は致死的。保存料にはベネフィットも
微量検出=危険検出技術向上で微量も検出可能。量が重要ADI以下なら安全。検出≠有害
海外禁止=危険各国で評価基準・食文化・使用実態異なる科学的評価は国際的に共有されている
オーガニック=農薬ゼロ有機農薬は使用可。隣接地からの飛散も有機JAS基準参照
MSG(グルタミン酸Na)は危険WHO、FDA、EUすべて安全と結論中華料理店症候群は科学的に否定

動物実験結果の解釈指針

項目動物実験人への外挿時の注意
用量最大耐容量〜無毒性量通常100-1000倍高い。現実的摂取量で評価必要
期間短期〜生涯長期影響は慎重な外挿必要
種差ラット、マウス中心代謝、感受性が人と異なる場合あり
投与経路強制経口、注射など通常の食事での曝露と異なる
判定発がん性、毒性の有無人での疫学研究と総合評価必要

第9章:脆弱集団への配慮

集団別リスクと対策

集団主なリスク理由推奨対策
妊婦・胎児水銀、カフェイン、アルコール、ビタミンA過剰胎盤通過、神経発達期大型魚週1回まで、カフェイン200mg/日以下、禁酒、レバー過剰摂取避ける
乳幼児農薬、重金属、アレルゲン、ハチミツ(1歳未満)解毒能未発達、体重比摂取量多、ボツリヌス菌有機野菜検討、スキンケア徹底、離乳食5-6ヶ月開始、ハチミツ禁止
子ども食品添加物、農薬、鉛神経発達期、体重比摂取量多加工食品控えめ、多様な食品、旧式水道注意
高齢者薬物相互作用、塩分、食中毒腎肝機能低下、免疫力低下減塩、新鮮な食品、十分加熱
アレルギー患者アレルゲン、交差反応物質過敏な免疫応答完全除去、表示確認、エピペン携帯
化学物質過敏症香料、揮発性化学物質中枢感作、嗅覚感作無香料製品、換気、曝露回避

妊娠・授乳期の食事指針

推奨理由具体的行動
◎バランス良い食事栄養不足も過剰も胎児に影響まごわやさしい実践
◎葉酸摂取神経管閉鎖障害予防400μg/日(サプリ検討)
◎DHA/EPA摂取脳神経発達小型魚中心に週2-3回
△大型魚制限水銀リスクマグロ・カジキ週1回まで
△カフェイン制限胎児への影響200mg/日以下(コーヒー2杯)
×アルコール禁止胎児性アルコール症候群完全禁酒
×生肉・生魚注意トキソプラズマ、リステリア十分加熱
×特定食品過剰除去不要栄養不足、予防効果なし科学的根拠なし

食品化学物質との賢い付き合い方:5原則

原則実践
1. 科学的根拠に基づく判断感情や不安でなく、データと評価に基づく
2. リスク・ベネフィット評価完全除去が常に最善とは限らない
3. 多様性の確保特定食品・製品に偏らない
4. 適量の原則どんな物質も量が毒と薬を分ける
5. 継続的学習科学は進歩し、評価も更新される

最終メッセージ

食品中の化学物質について完璧に安全なゼロリスクは存在しません。しかし、適切に管理された添加物や農薬は、食品の安全性を高め、食品ロスを減らし、私たちの食生活を豊かにします。

最も重要なのは

  • 極端に走らず、バランスの取れた食生活
  • 正しい知識に基づく賢い選択
  • 過度な心配によるストレスを避ける
  • 食事を楽しむこと

これが、化学物質と共存する現代社会での最良のアプローチです。


参考:日本の食品安全行政体制

機関役割
食品安全委員会リスク評価(科学的評価)
厚生労働省リスク管理(基準設定・監視)
農林水産省農薬・動物用医薬品の管理
消費者庁表示の適正化、情報提供

この体制で、科学的評価と行政的管理が分離され、透明性と客観性が確保されています。

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