「一次情報の重要性」を認識し「どこにあるか」「どう読むか」を実践的に伝える
なぜ「一次情報」なのか
二次情報の問題:バイアスは必ず入る
テレビで「○○大学の研究によると、△△が健康に良いことが判明」と報じられる。
SNSで「この成分は危険」と拡散される。
ネット記事で「専門家が警鐘」と書かれている。
あなたはそれを信じますか?
ニュース、ブログ、YouTube解説——これらはすべて二次情報です。
誰かが元の資料を読んで、要約・解釈したものです。
そこには必ず、
- 情報の取捨選択(何を伝え、何を省くか)
- 強調の仕方(タイトル、見出し、文脈)
- 書き手の意図(アクセス稼ぎ、商品販売、イデオロギー)
というバイアスが入ります。
悪意がなくても、
- 誤解している
- 誇張している
- 一部だけ切り取っている
ことは日常的に起こります。
一次情報とは何か
一次情報とは、誰かの解釈が入っていない「元の資料」です。
- 学術論文(研究者が発表した論文そのもの)
- SDS(化学物質の安全データシート)
- 公的統計(政府が公開する生データ)
- 法令(法律の条文そのもの)
- 企業の決算書、プレスリリース
これらは、
- 誰でもアクセスできる
- 無料で読める(多くの場合)
- 最も信頼できる情報源
です。
「でも専門的で読めない」は本当か?
多くの人は、
「専門知識がないから読めない」
「英語だから無理」
「どこにあるか分からない」
と思い込んでいます。
しかし実際には:
- 論文は構造が決まっているので、全部読む必要はない
- 重要な部分だけ読めば、素人でも要点は理解できる
- 情報の在り処は決まっているので、探し方を知れば見つかる
この記事では、
- 一次情報がどこにあるか(具体的なサイト・探し方)
- 学術論文の構造と読むべき箇所(全部読まない読み方)
- SDSなど形式文の勘所(必要な情報だけ取る方法)
を、実際に使える形で解説します。
第1章:一次情報はどこにあるのか
学術論文を探す・読む
主要な検索サイト
一般の人が使える無料サイト:
1. Google Scholar(グーグル・スカラー)
https://scholar.google.com/
- 使い方:普通のGoogle検索と同じ
- 特徴:学術論文だけを検索できる
- 日本語でも英語でも検索可能
- 無料で読める論文が多い(右側に[PDF]リンクがあれば無料)
例:「カフェイン 睡眠」で検索 → 関連論文が出る
2. PubMed(パブメド)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/
- 医学・生物学系の論文データベース
- 英語が基本だが、翻訳ツールを使えば読める
- 無料公開論文が増えている(Free full textのマークに注目)
3. J-STAGE(ジェイステージ)
https://www.jstage.jst.go.jp/
- 日本の学術論文
- 多くが日本語
- 完全無料
論文の入手方法
検索結果から論文ページに行くと、
- Abstract(要旨):ほぼ必ず無料で読める(200〜300語の要約)
- Full Text(本文):
- 無料公開(Open Access)の場合 → PDFダウンロード可能
- 有料の場合 → Abstractだけ読む、または大学図書館・公共図書館で閲覧
重要:
Abstractだけでも、研究の目的・方法・結論は分かります。
SDS(安全データシート)を探す
SDSとは
化学物質(洗剤、溶剤、農薬、試薬など)の取扱説明書。
法律で公開が義務付けられているので、誰でも無料で見られます。
探し方
方法1:メーカーの公式サイト
- 製品のメーカー名を確認
- メーカーサイトで「SDS」または「MSDS」と検索
- 製品名で絞り込み
例:花王の「マイペット」のSDS → 花王サイト内で「マイペット SDS」と検索
方法2:Google検索
「製品名 SDS」で検索
例:「エタノール SDS」 → 複数メーカーのSDSが出る
公的統計・白書
主要サイト
1. e-Stat(政府統計の総合窓口)
https://www.e-stat.go.jp/
- 日本の公的統計はすべてここに集約
- 人口、経済、医療、環境など
2. 各省庁のサイト
- 厚生労働省:医療、労働統計、感染症データ
- 環境省:大気汚染、廃棄物データ
- 総務省:人口統計、家計調査
白書(年次報告書)も各省庁サイトで全文公開されています。
第2章:学術論文の読み方——全部読まない読み方
論文の基本構造:IMRAD
ほぼすべての学術論文は、次の4部構成です。
Introduction(序論):なぜこの研究をしたのか
Methods(方法):どうやって調べたのか
Results(結果):何が観察されたのか(事実)
Discussion(考察):結果から何が言えるのか(解釈)
これを**IMRAD(イムラッド)**と呼びます。
重要なポイント:
論文は小説と違い、最初から順に読むものではありません。
一般人が読むべき箇所(これだけでOK)
1. タイトルとAbstract(要旨)
まずここだけ読む。
- タイトル:何についての研究か
- Abstract:研究の要約(目的・方法・結果・結論が200〜300語にまとまっている)
これで8割わかります。
本文を読むかどうかは、Abstractを読んでから判断してください。
2. Introduction の最後(研究目的)
Introductionは通常、次の流れで書かれています:
一般的な背景
↓
先行研究で分かっていること
↓
まだ分かっていないこと
↓
本研究の目的(←ここを読む)
最後の1〜2段落だけ読めば、
**「何を明らかにしたかったのか」**が分かります。
例:
本研究では、カフェイン摂取が睡眠の質に与える影響を、年齢層別に調査することを目的とした。
3. Results の図・表
本文は読まなくてOK。
図とグラフだけ見る。
チェックポイント:
- 横軸・縦軸は何か
- 比較しているのは何と何か
- 差は大きいか、小さいか
- エラーバー(誤差範囲)はあるか
例:
グラフを見て「カフェイン摂取群は睡眠時間が平均30分短い」→ これが事実
4. Discussion の最後(結論)
Discussionの最後の1〜2段落を読む。
ここに、
- 何が言えたか
- 何が言えなかったか
- 今後の課題
が書かれています。
注意:
論文の結論は、ニュースの見出しほど断定的ではありません。
- 「示唆された」
- 「可能性がある」
- 「〜と考えられる」
といった慎重な表現が使われます。
例:
以上より、カフェイン摂取は睡眠時間を短縮する可能性が示唆された。ただし、個人差が大きく、摂取量と睡眠への影響の関係については今後さらなる研究が必要である。
→ 「カフェイン=必ず睡眠に悪い」とは言っていません。
「事実」と「解釈」を区別する(最重要)
論文を読むとき、最も大切なのは、
Results(結果)= 事実
Discussion(考察)= 解釈
を区別することです。
| セクション | 性質 | 例 |
|---|---|---|
| Results | 観察された事実 | 「A群の平均値は50、B群は30だった」 |
| Discussion | 著者の解釈 | 「Aが高いのは○○が原因と考えられる」 |
Discussionに書いてあること = 著者の意見
であり、絶対的な真実ではありません。
他の解釈が可能な場合もあります。
論文を「読めた」かのチェック
次の質問に答えられれば、「読めた」と言えます:
- この研究は何を明らかにしようとしたのか?(目的)
- どんな方法で調べたのか?(大まかでOK)
- 主な結果は何か?(数値や傾向)
- 著者は何が言えて、何は言えないとしているか?(結論と限界)
専門用語を全部理解する必要はありません。
Methods(方法)はどう読むか
一般人は、細かい実験手順を理解する必要はありません。
ただし、次の点だけチェックすると、
信頼できる研究かどうかの判断材料になります:
- サンプル数(対象者・試料の数)
- 少なすぎないか?(例:n=5 は少ない、n=100 は多い)
- 対照群(比較対象)
- きちんと比較しているか?
- バイアスの排除
- ランダム化、二重盲検などの記載があるか
これらが適切なら、結果の信頼性は高まります。
第3章:SDSの読み方——必要な箇所だけ読む
SDSの構成(16項目)
SDSは国際基準で16項目と決まっています。
全部読む必要はありません。
目的に応じて該当箇所だけ見ます。
一般人が読むべき項目
第2項:危険有害性の要約(最重要)
まずここを読む。
記載内容:
- GHSピクトグラム(絵表示:炎、どくろ、感嘆符など)
- 危険性の分類(引火性、毒性、腐食性など)
- 具体的な危険内容
例:
[ピクトグラム:炎]
引火性液体(区分2)
高温、火花、裸火で引火のおそれ
[ピクトグラム:感嘆符]
皮膚刺激(区分2)
長時間接触で皮膚炎のおそれ
注意:
- 「危険」=「絶対使えない」ではない
- 条件つきのリスク(加熱時、大量暴露時など)
- 適切に扱えば安全
第3項:組成・成分情報
何がどれくらい含まれているか。
例:
成分名:エタノール
含有量:70〜80%
CAS番号:64-17-5
「天然」「合成」より、
実際の成分と濃度が判断材料になります。
第7・8項:取扱い・保管/暴露防止
日常的に使う人が読むべき箇所。
- 換気は必要か
- 保護具(手袋、ゴーグル)は必要か
- 保管温度
- 混ぜてはいけないもの
例:
取扱い:
- 換気の良い場所で使用
- 火気厳禁
- 容器を密閉
保護具:
- 保護手袋(ニトリルゴム)
- 保護眼鏡推奨
第11項:有害性情報
毒性データ。
- 急性毒性(一度に大量摂取した場合)
- 慢性毒性(長期間暴露した場合)
- 実験動物でのデータ
ここを見ると、
「危険」の根拠が分かります。
SDSを読むときの注意点
1. 最悪ケースで書かれている
SDSは、
- 職業的暴露(毎日大量に扱う)
- 事故(こぼす、飲む)
を想定して書かれています。
家庭で普通に使う分には問題ないことも多いです。
2. 「データなし」=安全ではない
「データなし」は、
- 安全だからデータがない
- 調べられていない
の両方の可能性があります。
3. SDSは「判断材料」
どう扱うかは、
使用者が自分で判断する前提です。
第4章:一次情報を読む実践例
例1:ニュースで「○○が健康に良い」と報じられた
ステップ1:元論文を探す
- ニュース記事に論文名や著者名があればそれで検索
- なければ「○○ 健康 論文」でGoogle Scholar検索
ステップ2:Abstractを読む
- 対象者は何人?
- 何と比較した?
- 結果の数値は?
ステップ3:Discussionの結論を読む
- 「示唆された」「可能性」など、限定的な表現に注目
- 「今後の研究が必要」と書いてあるか
ステップ4:ニュースと比較
- ニュースの見出しは誇張していないか?
- 論文が言っていないことまで言っていないか?
→ 自分で判断できる
例2:SNSで「この成分は危険」と拡散された
ステップ1:成分名を確認
- 正式な化学名を調べる(Wikipediaでも可)
ステップ2:SDSを入手
- 「成分名 SDS」でGoogle検索
- メーカーサイトからダウンロード
ステップ3:第2項(危険有害性)を読む
- どんな危険があるのか
- 条件は?(加熱時、大量摂取時など)
ステップ4:用途と照らし合わせる
- 普通に使う範囲で問題ないか
- 必要な対策(換気、手袋)は可能か
→ 過度に恐れる必要があるか判断できる
例3:「専門家が警鐘」という記事
ステップ1:誰の発言か確認
- 実在する専門家か
- 専門分野は関連しているか
- 所属機関は信頼できるか
ステップ2:元の発言を探す
- 学会発表のスライド
- プレスリリース
- インタビュー全文
ステップ3:文脈を確認
- 記事で切り取られた部分だけでなく、前後も読む
- 条件つきの発言ではないか
→ 誤解や誇張がないか判断できる
第5章:よくある質問
Q1. 英語論文は読めないのでは?
A. 翻訳ツールを使えば十分読めます。
- Google翻訳、DeepLなどで十分
- AbstractとDiscussionの結論だけなら、数百語程度
- 完璧な翻訳でなくても、要点は分かる
Q2. 専門用語が分からない
A. 分からない用語は調べる。全部理解する必要はない。
- Wikipediaで検索
- 「○○とは」でGoogle検索
- 分からないまま飛ばしても、結論は理解できることが多い
Q3. 論文が有料で読めない
A. Abstractだけでも要点は分かります。
- 多くの論文はAbstractが無料公開
- Open Accessの論文も増えている
- 大学図書館、公共図書館で閲覧可能な場合も
Q4. どの論文を信じればいいのか
A. 複数の論文を読む。査読済みかチェックする。
- 一つの論文だけで判断しない
- 査読(Peer Review)を経た論文か確認
- 新しい論文ほど信頼できるとは限らない(追試が必要)
まとめ:情報に振り回されないために
二次情報の限界
ニュース、ブログ、解説動画には、
- 誤解
- 誇張
- 意図的な歪曲
が入る可能性があります。
悪意がなくても、要約の過程で情報は変質します。
一次情報にあたる習慣
重要な判断をするときは、
必ず一次情報を確認する
これが情報リテラシーの基本です。
この記事で伝えたかったこと
- 一次情報は誰でもアクセスできる(どこにあるか知っていれば)
- 論文は全部読まなくていい(構造を知っていれば)
- 素人でも要点は理解できる(専門知識がなくても)
「専門家の解説」を待つのではなく、
「自分で原典を確認する」
それが、情報に振り回されない第一歩です。
最後に
この記事で紹介した方法は、
- 10分あればできる
- 特別な知識は不要
- 今日から実践できる
ものです。
次にニュースやSNSで気になる情報を見たとき、
「元の資料はどこだろう?」
と考えてみてください。
その一歩が、情報リテラシーの始まりです。

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