人類が家畜化にした歴史ー文明を支えた動植物とその進化ー

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人類が動植物を家畜化してきた歴史は、単なる食料確保の工夫以上に文明の基盤を築いてきました。本記事では、主要な作物や家畜、水産物の系統と育種の歩みを一覧で示しながら、品種改良や移入の歴史が生活や社会に与えた影響をわかりやすく解説します。


はじめに

人類の歴史において、動植物の家畜化(ドメスティケーション)は文明の基盤を形成する最も重要な転換点の一つでした。約1万年前に始まった農耕革命以来、人類は野生種を選択的に改良し、栽培・飼育することで、安定した食料供給と多様な生活資源を獲得してきました。

家畜化とは単なる「野生動物を飼い慣らすこと」ではありません。それは数千年から数万年にわたる選抜育種のプロセスであり、その結果として生まれた作物や家畜は、原種とは姿形も性質も大きく異なる存在へと変化しました。イネの粒は数倍に肥大化し、ウシは温和で扱いやすくなり、イヌは人間との共生に最適化された動物となりました。

本稿では、家畜化された動植物を「食料としての利用目的」と「生物分類」の2軸で体系的に整理し、それぞれの歴史的変遷と人類文明への影響を解説します。


1. 食用植物の家畜化

1.1 穀物:文明の礎

穀物は人類文明の最も基本的な食料であり、安定した収穫と保存性の高さから、定住生活と人口増加を可能にしました。

イネ(約1万年前〜、中国・長江流域)

野生イネは粒が小さく、成熟するとすぐに種子が落ちる性質がありました。しかし、人間が「脱粒しにくい個体」を選び続けた結果、粒が大きく、収穫しやすい品種が誕生しました。日本へは紀元前10世紀以前に伝来し、弥生時代の社会構造を一変させました。現代では1平方メートルあたり約0.6kgの精米が得られ、栽培期間は5〜6ヶ月です。

コムギ(約1万年前〜、中東・肥沃な三日月地帯)

コムギは中東の野生種から栽培化され、パンや麺の原料として世界中に広がりました。粒が大きく、グルテンを多く含む品種が選抜され、加工適性が向上しました。

トウモロコシ(約9000年前〜、メキシコ)

原種のテオシントは小さな粒が数個しかありませんでしたが、数千年の選抜により、現代の巨大な穂を持つトウモロコシへと変化しました。

1.2 根菜・イモ類:高収量・短期栽培の戦略

ジャガイモ(約7000年前〜、アンデス山脈)

原種のソラヌム類は小さく苦味が強いものでしたが、選抜により大型化し、毒性も減少しました。16世紀末にヨーロッパに持ち込まれ、寒冷地でも栽培可能なことから世界中で主食として定着しました。1平方メートルあたり3〜5kg、栽培期間は3〜4ヶ月です。

ダイコン(約数千年前〜、地中海〜中央アジア)

日本へは弥生時代に伝来し、各地で独自の品種が発達しました。1平方メートルあたり4〜6kg、栽培期間は2〜3ヶ月と短期間で収穫できます。

1.3 果菜類:栄養価と多様性

トマト(約数千年前〜、南米アンデス)

原種は小さなチェリートマトでした。ヨーロッパに伝わった当初は「毒がある」と疑われ観賞用でしたが、やがて食用として普及しました。日本へは17世紀に観賞用として伝来し、食用として普及したのは明治時代以降です。現代の品種は1平方メートルあたり5〜10kg、栽培期間は4〜5ヶ月です。

キャベツ(約2500年前〜、地中海・西欧沿岸)

ヤセイカンランを起源とし、結球性を強める選抜が進められました。日本へは江戸時代に伝来しましたが、食用として本格的に普及したのは明治時代です。1平方メートルあたり4〜6kg、栽培期間は3〜4ヶ月です。

1.4 植物家畜化の共通原理

  • 肥大化:可食部の増大(イネの粒、ジャガイモの塊茎)
  • 脱粒性の喪失:収穫効率の向上(イネ、コムギ)
  • 毒性の低減:食用適性の向上(ジャガイモ、キャベツ)
  • 成長速度の向上:短期栽培化(ダイコン、トマト)
  • 収量の増加:単位面積あたりの生産性向上

これらの選抜原理は、花とペットの育種史で詳しく解説されている「人為選択」の典型例です。食用植物だけでなく、観賞用の花や伴侶動物にも共通する人類の「選ぶ力」が、生物の姿を変えてきました。

作物名科名原産地(原種)家畜化時期m²当たり収量栽培期間日本への伝来
イネイネ科中国・長江流域(野生イネ)約1万年前約0.6kg5〜6ヶ月紀元前10世紀以前
ジャガイモナス科アンデス山脈(ソラヌム類)約7000年前3〜5kg3〜4ヶ月16世紀末
トマトナス科南米アンデス約数千年前5〜10kg4〜5ヶ月17世紀(観賞用)
ダイコンアブラナ科地中海〜中央アジア約数千年前4〜6kg2〜3ヶ月弥生時代
キャベツアブラナ科地中海・西欧沿岸約2500年前4〜6kg3〜4ヶ月江戸時代

2. 食用陸上動物の家畜化

2.1 大型哺乳類:肉・乳・労働力の多目的利用

ウシ(約1万年前〜、中東・オーロックスから)

オーロックスは体高180cmを超える獰猛な野生牛でしたが、数千年の選抜により温和で扱いやすい性質に変化しました。肉や乳だけでなく、農耕の労働力として不可欠な存在となりました。日本へは弥生時代に伝来し、田畑を耕す動力として重宝されました。成体重量は700〜800kg、歩留まりは約60%、肥育期間は25〜30ヶ月です。

ヒツジ(約1万年前〜、中東・ムフロンから)

毛(羊毛)と肉の両方が利用できる貴重な家畜で、寒冷地や乾燥地帯での飼育に適しています。成体重量は50〜100kg、歩留まりは約50%、肥育期間は6〜12ヶ月です。日本への本格的な導入は明治時代です。

2.2 中型哺乳類:効率的なタンパク源

ブタ(約9000年前〜、中東・中国・イノシシから)

イノシシは攻撃的で危険な動物ですが、飼育下で選抜すると、耳が垂れ、体色が変化し、性格も穏やかになります。雑食性で飼料の選択肢が広く、成長が極めて速いのが特徴です。肥育期間はわずか6ヶ月、成体重量は110〜120kg、歩留まりは約75%と非常に高効率です。日本へは弥生時代に伝来しましたが、仏教の影響で一時途絶え、明治時代に再導入されました。

2.3 家禽類:最速の成長と産卵

ニワトリ(約8000年前〜、東南アジア・セキショクヤケイから)

当初は闘鶏や儀式用でしたが、やがて卵と肉の供給源として重要性を増しました。現代のブロイラーは、わずか50日で出荷体重の約3kgに達します。歩留まりは約70%で、この驚異的な成長速度は20世紀の育種技術の成果です。

2.4 陸上動物家畜化の共通原理

  • 温和化:攻撃性の低減と扱いやすさの向上(ウシ、ブタ)
  • 成長速度の向上:肥育期間の短縮(ニワトリ、ブタ)
  • 繁殖力の向上:年間産卵数・産仔数の増加
  • 体格の変化:肉量の増大または小型化による飼育効率化
  • 飼料効率の改善:少ない飼料で多くの肉を生産

これらの変化は、花とペットの育種史で解説されている「ドメスティケーション症候群」と密接に関連しています。野生動物を人間の管理下に置くことで、形態だけでなく性格や行動も大きく変化しました。

家畜名原種家畜化時期寿命(自然/経済)成体重量(歩留まり)肥育期間日本への伝来
ウシオーロックス約1万年前20年/2〜3年700-800kg(60%)25〜30ヶ月弥生時代
ブタイノシシ約9000年前15年/6ヶ月110-120kg(75%)6ヶ月弥生時代
ニワトリセキショクヤケイ約8000年前10年/50日3kg(70%)50日弥生時代
ヒツジムフロン約1万年前12年/1〜2年50-100kg(50%)6〜12ヶ月明治時代

3. 水産物の家畜化

魚類の養殖は陸上動物に比べて歴史が浅く、本格的な技術確立は20世紀以降です。しかし、水中という環境は体重維持のエネルギーコストが低く、飼料効率の面で優れています。

3.1 淡水魚:最古の養殖技術

コイ(約2500年前〜、中国・野生黒ゴイから)

最古の養殖魚の一つで、雑食性で環境適応力が高く、池や水田でも飼育できます。日本でも古代から養殖が普及し、観賞用の錦鯉も発達しました。養殖期間は約2年、出荷時の重量は1〜2kg、歩留まりは約50%です。

3.2 海水魚:現代日本の養殖技術

マダイ(1960年代〜本格化、日本)

天然の稚魚を捕獲して育てる「蓄養」から始まり、やがて人工孵化と完全養殖が確立されました。養殖期間は2年、出荷時の重量は1.5〜2kg、歩留まりは約40%です。マダイ養殖の技術は日本が世界に先駆けて開発しました。

ブリ(1920年代〜、香川県)

天然稚魚(モジャコ)を捕獲して育てる方法から始まり、1970年代以降、人工種苗生産技術が確立されました。成長が速く、1.5〜2年で4〜6kgに達します。歩留まりは約60%です。

クロマグロ(完全養殖2002年、近畿大学)

完全養殖(卵から成魚まで人工環境下で育てる)に成功したのは2002年です。成長に3〜4年かかり、出荷時には30〜50kgに達します。歩留まりは約60%で、天然資源に依存しない持続可能な生産が可能になりました。

3.3 水産養殖の特徴と課題

  • 飼料効率の高さ:陸上動物に比べて水中の浮力により運動コストが低い
  • 成長速度の管理:水温管理による成長コントロール
  • 完全養殖の困難さ:多くの魚種で天然稚魚に依存
  • 疾病管理:高密度飼育による感染症リスク
魚種原種養殖開始時期寿命(自然/出荷)重量(歩留まり)養殖期間日本の状況
コイ野生黒ゴイ約2500年前20年〜/2年1-2kg(50%)2年古代から普及
マダイ野生種1960年代20年〜/2年1.5-2kg(40%)2年日本が技術開発
ブリ野生種1920年代15年/1〜2年4-6kg(60%)1.5〜2年香川県で発祥
クロマグロ野生種完全養殖200220年〜/3年30-50kg(60%)3〜4年近畿大学が成功

4. 非食用動物の家畜化

4.1 労働・運搬用家畜

ウマ(約5500年前〜、中央アジア・ターパンから)

ターパン(19世紀に絶滅)という野生馬から家畜化されました。ウマの家畜化により、人類の移動速度と物流規模は飛躍的に向上しました。特に騎馬技術は軍事革命をもたらし、帝国の興亡に直結しました。日本へは古墳時代(4〜5世紀)に朝鮮半島を経由して持ち込まれ、武士階級の成立に深く関わりました。成体重量は400〜1000kg、平均寿命は25〜30年です。

ロバ(約5000年前〜、アフリカ・アフリカノロバから)

重荷の運搬に優れ、ウマよりも丈夫で乾燥地に適応しています。体重は100〜400kg、寿命は25〜40年です。日本へは古代に伝来しましたが、普及しませんでした。

ラクダ(約3000〜4000年前〜、中央アジア・野生ラクダ類から)

砂漠地帯の輸送に不可欠で、長距離を水なしで移動できます。体重は400〜600kg、寿命は30〜50年です。日本へは明治時代に見世物として輸入されましたが、実用化はされませんでした。

4.2 伴侶動物

イヌ(約1.5万〜3.5万年前〜、ユーラシア・タイリクオオカミから)

人類最古のパートナーであり、狩猟採集時代から人間の生存率を高めました。優れた嗅覚と聴覚、群れで行動する習性が共生に適していました。日本では縄文時代早期の遺跡から、丁寧に埋葬されたイヌの骨が見つかっており、古くから家族に近い存在でした。現代のイヌは体重数kgの小型犬から80kgを超える大型犬まで多様で、平均寿命は10〜15年です。

ネコ(約9500年前〜、中東・リビアヤマネコから)

農耕が始まり穀物を貯蔵するようになると、ネズミ被害が深刻化しました。リビアヤマネコは自然にネズミを捕食するため、人間の居住地に近づき、共生関係が成立しました。日本へは弥生時代から奈良時代にかけて伝来したとされます。体重は3〜6kg、平均寿命は12〜18年です。

4.3 繊維生産用

カイコ(約5000年前〜、中国・クワコから)

数千年の育種の結果、カイコは野生では生きられず、羽があっても飛ぶことができない「完全な家畜」となりました。カイコが生産する絹は、古代から近代に至るまで東西交易(シルクロード)の主役でした。日本へは弥生時代に伝来し、養蚕業は近代日本の主要産業となりました。幼虫期は約50日、体長は3〜5cmです。

カイコの家畜化は、発酵食品の歴史と微生物における麹菌の利用と同様に、人類が微小な生物を巧みに管理・活用してきた歴史の一例です。目に見えない微生物から昆虫まで、人類は多様な生物との共生関係を築いてきました。

4.4 非食用動物家畜化の意義

  • 移動革命:ウマによる長距離移動と軍事力の向上
  • 労働力の獲得:農耕・運搬における動力源
  • 害獣駆除:イヌ・ネコによる食料保護
  • 繊維生産:カイコによる絹、ヒツジによる羊毛
  • 心理的サポート:伴侶動物による癒し効果
動物名原種家畜化時期主な目的寿命(平均)重量/特徴日本への伝来
イヌタイリクオオカミ約1.5万〜3.5万年前狩猟補助、警備、伴侶10〜15年数kg〜80kg縄文時代早期
ウマターパン約5500年前移動、輸送、軍事25〜30年400〜1000kg古墳時代
ネコリビアヤマネコ約9500年前害獣駆除、伴侶12〜18年3〜6kg弥生〜奈良時代
カイコクワコ約5000年前絹の生産約50日3〜5cm弥生時代
ロバアフリカノロバ約5000年前運搬、労働25〜40年100〜400kg古代(普及せず)
ラクダ野生ラクダ類約3000〜4000年前砂漠の輸送30〜50年400〜600kg明治時代

5. 家畜化がもたらした文明的転換

5.1 定住革命:農耕社会の成立

約1万年前、人類は狩猟採集から農耕・牧畜へと移行しました。イネやコムギなどの穀物の栽培化により、安定した食料供給が可能になり、定住生活が始まりました。定住は人口増加を促し、やがて村落、都市、国家の形成へとつながりました。

5.2 階層社会の形成

余剰食料の蓄積は、全員が食料生産に従事する必要をなくし、専業職人や統治者といった階層分化を生みました。特にウシやウマなどの大型家畜を所有することは富の象徴となり、社会的地位を示す指標となりました。

日本インフラ史総覧日本の産業を創った企業の系譜で詳述されているように、近代化以降は家畜や作物の品種改良が国家プロジェクトとして推進され、産業基盤の形成に直結しました。

5.3 技術革新の加速

家畜化された動植物は、人類に「改良可能な対象」という概念をもたらしました。選抜育種の経験は、やがて科学的な遺伝学の基礎となり、20世紀の緑の革命や現代のバイオテクノロジーへとつながりました。

5.4 グローバル化の基盤

シルクロードや大航海時代を通じて、家畜化された動植物は世界中に拡散しました。ジャガイモがヨーロッパで主食となり、ウマがアメリカ大陸を変革し、トマトがイタリア料理に不可欠となったように、家畜化の成果は文化交流と融合の触媒となりました。

5.5 日本における家畜化の受容

日本列島への家畜・作物の流入は、主に弥生時代の稲作文化の伝来と共に始まりました。ウシ、ブタ、ニワトリ、イヌなどが大陸から持ち込まれ、日本の農耕社会の基盤を形成しました。その後、江戸時代の鎖国を経て、明治時代の開国により、欧米の改良品種が大量に流入し、現代の食卓が完成しました。

この過程は、世界史に刻んだ日本の奇跡で解説されている近代化産業遺産の形成と密接に関連しています。殖産興業政策のもと、農業試験場や畜産試験場が設立され、科学的な品種改良が国家主導で進められました。

また、発酵技術の発展も日本の食文化形成に不可欠でした。発酵食品の歴史と微生物で詳述されているように、味噌・醤油・日本酒などの発酵調味料は、家畜化された作物(大豆、米)と微生物との共生によって生まれた日本独自の食文化です。


6. 家畜化の効率性と持続可能性

6.1 エネルギー変換効率の比較

家畜化された生物のエネルギー効率(飼料から食料への変換効率)は、種によって大きく異なります。

  • ウシ:約10kgの飼料で1kgの肉を生産
  • ブタ:約3〜4kgの飼料で1kgの肉を生産
  • ニワトリ:約2kgの飼料で1kgの肉を生産
  • 魚類:約1.5〜2kgの飼料で1kgの魚を生産

この差は、体温維持コスト、運動量、消化効率の違いによるものです。哺乳類は体温を一定に保つために多くのエネルギーを消費しますが、魚類は変温動物で水中では浮力があるため、エネルギー効率が高くなります。

6.2 環境負荷の課題

反芻動物であるウシは大量のメタンガスを排出するため、気候変動対策として問題視されています。また、大型家畜の飼育には広大な土地と大量の水が必要であり、森林破壊や水資源の枯渇につながることも指摘されています。

6.3 次世代の食料生産

現代では、より効率的で持続可能なタンパク源として、以下のような新技術が注目されています。

  • 養殖魚の拡大:陸上養殖技術の発展
  • 昆虫食:コオロギなど高効率な昆虫タンパク
  • 培養肉:動物細胞から直接肉を生産
  • 植物性代替肉:大豆などから作る擬似肉製品

これらは、伝統的な家畜化とは異なるアプローチですが、「人間の必要に応じて生物を改変する」という点では、家畜化の延長線上にあるといえます。


7. 家畜化の生物学的メカニズム

7.1 幼形成熟(ネオテニー)

多くの家畜化された動物は、野生種に比べて幼い特徴を保持したまま成熟します。これを幼形成熟(ネオテニー)といいます。例えば、イヌは成犬になってもオオカミの子どものような遊び好きな性格を保ち、ブタは成豚になってもイノシシの子どものような丸い顔と短い鼻を持ちます。

7.2 人為選抜と遺伝的変化

人間が「望ましい形質」を持つ個体を選んで繁殖させ続けることで、遺伝子頻度が変化します。これは自然選抜とは異なり、人間の意図が介在する「人為選抜」です。わずか数世代の選抜で劇的な変化が起こることもあります。

7.3 飼育症候群

家畜化された動物には、種を超えて共通する変化が見られます。これを「飼育症候群」といい、以下のような特徴があります。

  • 脳容量の減少(約10〜15%)
  • 顔の短縮化
  • 耳の垂れ下がり
  • 体色の変化(白斑の出現)
  • 繁殖期の延長
  • 攻撃性の低下

これらは、人間が「扱いやすい」個体を選び続けた結果として現れたものです。


8. 家畜化の未来

8.1 ゲノム編集技術の登場

CRISPR-Cas9などのゲノム編集技術により、従来数千年かかった育種を、数年で実現できる可能性が出てきました。病気に強い作物、成長の速い家畜、アレルギー物質を含まない食品などが開発されています。

8.2 de-extinction(絶滅種の復活)

マンモスやオーロックスなど、絶滅した野生種を遺伝子技術で復活させる試みも進んでいます。これは「逆家畜化」ともいえる現象で、人間が生態系そのものをデザインする時代が来る可能性を示しています。

8.3 倫理的課題

一方で、家畜化の加速は倫理的な問題も提起しています。動物福祉、遺伝的多様性の喪失、自然生態系への影響など、慎重な議論が必要です。


おわりに

人類と動植物の共進化は、1万年以上にわたる壮大な物語です。私たちが日常的に口にする食材、そばにいる動物たちは、すべて長い選抜と改良の歴史を経て現在の姿になりました。

家畜化とは単なる食料生産の技術ではなく、人類文明そのものを形作ってきた根幹的な営みでした。イネの栽培化は東アジアの水田文化を生み、ウシの家畜化は農耕革命を加速させ、ウマの馴化は帝国の興亡を左右しました。カイコの飼育は東西交易の基盤となり、イヌとの共生は人類の生存率を高めました。

本稿では、家畜化された動植物を「食料/非食料」「植物/陸上動物/水産物」という2つの軸で体系的に整理しました。この分類により、それぞれの家畜化の目的と効率性、そして人類史における役割の違いが明確になったはずです。

家畜化の本質:3つの視点

1. 生物学的視点:家畜化は遺伝子レベルでの改変です。幼形成熟、飼育症候群、人為選抜といったメカニズムを通じて、野生種とは異なる新しい生物が誕生しました。

2. 経済学的視点:家畜化は効率性の追求です。単位面積あたりの収量、飼料変換効率、肥育期間の短縮など、常に「より少ない投入でより多くの産出を得る」ことが目指されてきました。

3. 文化史的視点:家畜化は文明の基盤です。定住、階層化、技術革新、グローバル化といった人類史の重要な転換点は、すべて家畜化と深く結びついています。

現代的課題と展望

今後、人口増加や環境問題に直面する人類は、さらに効率的で持続可能な食料生産システムを模索していく必要があります。

効率性の追求:ニワトリ、ブタ、魚類など、飼料効率の高い動物へのシフトが進んでいます。ウシは10kgの飼料で1kgの肉を生産しますが、ニワトリは2kgで1kgを生産できます。この差は、今後の食料戦略において無視できません。

環境負荷の低減:反芻動物によるメタン排出、大規模畜産による森林破壊、水資源の枯渇など、従来型の家畜化には環境コストがかかります。養殖魚の陸上養殖化、昆虫食、培養肉といった新技術は、これらの課題に対する一つの解答となる可能性があります。

技術革新の加速:ゲノム編集、人工知能による育種、精密農業など、21世紀の科学技術は家畜化のスピードを劇的に加速させています。従来数千年かかった改良が、数年で実現できる時代が到来しています。

倫理的配慮の必要性:一方で、家畜化の加速は動物福祉、遺伝的多様性、生態系への影響といった倫理的問題を提起しています。技術的に可能であることと、倫理的に許容されることは別の問題です。

日本における家畜化の歴史的教訓

日本は、大陸からの家畜・作物の導入を繰り返しながら、独自の品種改良と文化的適応を行ってきました。弥生時代のイネ伝来、明治時代の欧米品種導入、そして現代のグローバル化という3つの波を経て、現在の多様な食文化が形成されました。

特に注目すべきは、日本が「受容と改良」を繰り返してきた点です。単に外来種を導入するだけでなく、日本の気候風土に合わせた品種改良(コシヒカリ、和牛、錦鯉など)を行い、世界に輸出できる品質を達成してきました。この経験は、今後のグローバルな食料問題に対処する上でも重要な示唆を与えています。

未来の食卓を考える

過去の家畜化の歴史から学べることは多くあります。

多様性の重要性:単一品種への依存は、病害虫や気候変動に対して脆弱です。遺伝的多様性を保持することが、長期的な食料安全保障につながります。

地域適応の価値:グローバル品種だけでなく、地域の気候風土に適応した在来品種の保存と活用が重要です。

効率と持続性のバランス:短期的な効率性だけでなく、長期的な環境持続性を考慮した食料生産システムの構築が求められます。

技術と倫理の調和:新技術の導入には、科学的評価だけでなく、社会的合意形成が必要です。

人類は1万年前、野生のイネやオオカミと出会い、それらを改変することで文明を築いてきました。今、私たちは新たな技術を手にして、次の1万年の食料生産システムをデザインしようとしています。過去の知恵を活かしながら、持続可能で豊かな未来の食卓を創造していくこと——それが、現代に生きる私たちの責任といえるでしょう。


参考:家畜化の主要年表

時期出来事地域意義
約3.5万年前イヌの家畜化開始ユーラシア人類最古の家畜、狩猟補助
約1万年前イネ、コムギ、ウシ、ヒツジの家畜化中東・中国農耕革命、定住社会の成立
約9000年前ブタ、ネコの家畜化中東・中国食料・害獣駆除
約8000年前ニワトリの家畜化東南アジア卵・肉の供給源
約7000年前ジャガイモの栽培化アンデス高収量作物、ヨーロッパへの影響大
約5500年前ウマの家畜化中央アジア移動革命、軍事力の向上
約5000年前カイコの家畜化中国絹の生産、シルクロード
紀元前10世紀日本への稲作伝来日本列島弥生時代の始まり
4〜5世紀日本へのウマ伝来日本列島武士階級の成立に影響
16世紀ジャガイモのヨーロッパ伝来ヨーロッパ人口増加に貢献
1920年代ブリ養殖の開始日本・香川県海水魚養殖の先駆け
1960年代マダイ養殖の本格化日本日本の養殖技術が世界をリード
2002年クロマグロ完全養殖成功日本・近畿大学持続可能な水産業への道
2010年代〜ゲノム編集技術の実用化世界各地育種の加速、倫理的議論

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