国立公園・国定公園92ヶ所リスト

フィールドと博物館

日本全国に点在する国立公園と国定公園。これらは単なる観光地ではなく、自然公園法にもとづき、「特にすぐれた自然の風景地を、国民の保健・休養・教化のために利用しつつ、将来世代に引き継ぐ」ことを目的として管理されている区域です。この記事は、環境省の制度に基づく自然保護の仕組みを踏まえつつ、日本全国に点在する国立公園と国定公園を整理したリストです。

シリーズについて

本サイトのメインテーマは「暮らしの背後にある仕組みを読み解く」こと。中学・高校理科の知識をベースに、特定の専門に偏らず、物事の骨子を見抜く力を養います。記事は「歴史的背景」「科学的原理」「フィールド(実社会での応用)」の3層構造で構成しています。「なぜそうなったか」「どんな仕組みか」「現実で何が見えるか」。この3視点を揃えることで、断片的な知識を「線や面」へとつなげ、社会を生き抜くための判断の源泉を提供します。


なぜ「自然公園法」が生まれたのか

国私たちが何気なく訪れる観光地や美しい山河のなかには、「国立公園」や「国定公園」に指定されている場所が数多くあります。これらはすべて「自然公園法」という一本の法律によって規定されています。この法律のもと、環境大臣が直接指定し、国際的・全国的に最高水準の価値を持つ「国立公園」。国立公園に準ずる優れた風景地として、国が承認しつつも都道府県が中心となって地域に根ざした管理を行う「国定公園」。そして、都道府県自らが条例に基づいて指定する「都道府県立自然公園」です。

日本の自然保護行政の礎である「自然公園法」が制定されたのは、高度経済成長の足音が聞こえ始めた1957年のことです。それまでの「国立公園法」(1931年制定)から何が変わり、なぜ新たな法枠組みが必要とされたのでしょうか。その背景には、明治以降の近代化から戦後復興へと至る、日本社会と自然環境の関係性の劇的な変化がありました。

戦前の「国立公園法」

19世紀後半、アメリカのイエローストーンに始まる国立公園運動は、欧米列強に追いつこうとする明治・大正期の日本にも大きな影響を与えました。日本にとって国立公園制度の創設は、「優れた自然文化を持つ近代国家」としての国際的な格を示すことだったのです。1931年に制定された「国立公園法」のもと、1934年には瀬戸内海、雲仙、霧島をはじめとする日本初の国立公園が指定されました。しかし当時の主眼は、美勝地の「利用増進」や外貨獲得のための外国人観光客の誘致に強く傾斜しており、「自然そのものを厳格に保護する」という視点はまだ限定的なものでした。

戦後復興と開発


潮目が大きく変わったのは第二次世界大戦後です。敗戦からの復興、そして高度経済成長へと向かう日本列島では、深刻な電力不足を補うための巨大ダム建設、大規模な森林伐採、鉱山開発、さらには観光道路の建設ラッシュが全国で巻き起こりました。尾瀬における水力発電ダム計画や、大台ヶ原・日光などでの開発計画は、その典型例です。これと同時に、都市化と人口急増に伴い、日常の喧騒を離れて自然に憩いを求める国民のレクリエーション需要が爆発的に高まりました。従来の最高水準の「国立公園」だけでは、激増する開発圧力から自然を守り抜き、国民に憩いの場を提供しきれなくなったのです。

「自然公園法」の成立

こうした事態に対処するため、1957年、旧国立公園法を発展的に解消して「自然公園法」が制定されました。この法制定によって大きな転換が果たされます。

第一に、「保護」と「利用」の調和という目的がより明確化されたことです。開発行為に対する規制力を強めると同時に、都道府県が管理する「国定公園」制度を正式に組み込み、国指定の「国立」、都道府県主導の「国定」、ローカルな「都道府県立自然公園」という三層の体系を完成させました。

第二に、国土の狭い日本において土地を国が買い取ること(営造物方式)の限界を認め、私有地や産業の場を含めたまま線引きを行って開発を段階的に制限する「地域制公園」の仕組みを法的に盤石なものとした点です。厳格な「特別保護地区」から緩やかな「普通地域」にいたるゾーニング技術は、人が古くから暮らす日本列島において自然保護を実現するための現実的な知恵でした。

(なお、のち1972年には、公園利用という目的すら離れて「手つかずの原生自然そのものの厳格な保全」を目指す「自然環境保全法」が制定され、日本の自然保護体系は完成へ向かいます。)

なぜ現地に立つことが「学び」になるのか

私たちが自然公園を訪れる意味は、単に「綺麗な景色を見てリフレッシュすること」にとどまりません。そこに広がる風景は、数万年・数百万年単位の地球のダイナミズム(科学的原理)と、数百年・数十年単位の人間社会の歴史的背景が交差した末に立ち現れた「可視化された結果」です。教科書や図鑑で見る写真や断面図は、あくまで現象の「点」の切り出しにすぎません。しかし現地に立ち、標高差や斜面の向きによる風・気温の変化を肌で感じ、地形の起伏を足で歩き、そこに残された鳥居や看板の記録と照合する――この「見る・体験する・確かめる」のプロセスを経ることで、はじめて断片的な知識が「なぜこの場所がこうなっているのか」という立体的な構造(線や面)として脳内に組み上がります。

ほかの保護制度との重なり

現地の掲示には、自然公園法以外の制度の名称が並ぶことがあります。世界自然遺産のうち、知床、小笠原、屋久島、奄美大島・徳之島・沖縄島北部及び西表島は、国立公園(知床、小笠原、屋久島、奄美群島・やんばる・西表石垣)を中心に保護されています。白神山地は、白神山地自然環境保全地域、森林生態系保護地域、津軽国定公園(特別保護地区・特別地域)などの複数の制度が重なって保護されています。文化遺産でも、日光の社寺(日光国立公園)、富士山(富士箱根伊豆国立公園)、紀伊山地の霊場と参詣道(吉野熊野国立公園)などが公園区域と重なります。

湿地では、釧路湿原が1980年に日本で最初のラムサール条約湿地に登録され、尾瀬、屋久島永田浜、秋吉台地下水系は2005年に登録されました。ユネスコの制度では、山陰海岸、阿蘇、秋吉台(Mine秋吉台ジオパーク)などが世界ジオパーク、屋久島・口永良部島、南アルプス、祖母・傾・大崩がユネスコエコパークに認定されています。

成因別のガイド

成因ごとに整理すると観察する対象が明確になります。

火山とカルデラ カルデラは、大規模な噴火で地下のマグマが大量に噴出し、地表が陥没して生じる窪地です。阿蘇カルデラは、約27万〜9万年前の4回の大規模噴火で形成され、東西約18km、南北約25km、周囲約128kmの規模があります。カルデラ北縁の大観峰から、外輪山の輪郭と、内側の中央火口丘群を確認できます。このほか、阿寒摩周、支笏洞爺、霧島錦江湾がカルデラの公園で、国定公園では蔵王(お釜)や御嶽山が火山の公園です。立入規制と噴火警戒レベルは、事前に確認してください。

氷河地形 氷期に、山頂付近の斜面を氷河が削り、椀状の窪地(カール)が形成されました(千畳敷は約2万年前とされます)。中央アルプス国定公園の千畳敷カール、中部山岳の穂高周辺(涸沢)、日高山脈で観察できます。氷河が消えたあとも、削られた形は残ります。

カルスト 石灰岩(炭酸カルシウム)は、二酸化炭素を含む弱酸性の雨水や地下水に溶けます。この溶食によって、地表にはくぼ地が、地下には鍾乳洞が形成されます。秋吉台(国定公園)は、古生代の石灰岩からなる日本最大級のカルスト台地で、地表の石灰岩柱と、地下の秋芳洞を、同じ現象の表と裏として観察できます。

海岸地形 海岸の形は、地盤の上下動と波の作用で決まります。三陸復興国立公園は、北部が隆起海岸で、高さ約200mの断崖(北山崎)が連なり、南部は沈降海岸(リアス海岸)です。山陰海岸国立公園では、波に削られた海食崖や洞門を観察できます。国定公園では、越前加賀海岸の東尋坊(柱状節理)や、日南海岸の波状の岩礁(鬼の洗濯板)が代表例です。

湿原 低温で過湿な環境では、枯れた植物が分解されきらず、泥炭として堆積します。尾瀬ヶ原は、本州最大の高層湿原で、池塘と呼ばれる小さな池が点在します。釧路湿原は、日本最大の湿原です。湿原の保全では、人が湿原を踏み荒らさないための木道が、重要な役割を果たしています。

垂直分布 気温は、標高が100m上がるごとに、およそ0.6℃下がります。そのため、標高に応じて、植生帯が積み重なります。屋久島では、亜熱帯性の海岸植生から、照葉樹林、温帯性針葉樹林、冷温帯性ササ草原までが連続して見られます。温度計と標高計を持参し、森林の種類が変わる標高と気温を記録すれば、この関係を実測で確認できます。

遷移とそれを抑える管理 草原は、放置すると低木が侵入し、やがて森林へ変わります。これを「遷移」といいます。阿蘇の野焼きや、秋吉台の山焼き(毎年2月)は、この遷移を抑えて草原を維持する作業です。阿蘇の草原には、九州が大陸と陸続きであった時代の名残とされる植物(ヒゴタイなど)が残っています。草原の維持が止まると、こうした種も失われます。

生物 大陸と一度も陸続きにならなかった「海洋島」では、海を越えて到達した少数の種が、空いた生態的地位を埋めるように多様化します。小笠原では、同じ祖先から分化した固有のカタツムリ(カタマイマイ類)が見られます。一方、古い時代に大陸から切り離された島(奄美、やんばるなど)では、かつて広く分布していた種が、孤立した個体群として残ります。


地域別に読む国立・国定公園

公園に指定されている地域は、法制度と学術的観点から、明確な「価値」が存在します。

国立公園たらしめているもの:「我が国の風景を代表するに足りる傑出した自然」であり、地球科学的な現象の典型性(巨大カルデラ、プレート運動の痕跡、植生の垂直分布など)が、国際的あるいは全国的に見て最高水準の価値を持つ地域です。

国定公園たらしめているもの:「国立公園に準ずる優れた自然」であり、地域の風土、生活、文化、教育と密接に結びついた自然景観です。都市近郊の貴重な生物多様性の拠点(高尾山)や、地域社会の歴史・信仰・生活用水と不可分な水辺や山岳(琵琶湖や丹沢)など、「人間社会と自然との豊かな関わり(文化生態系)」が評価の核心となっています。

北海道(国立7・国定5)冷涼な気候のもとで、火山、湿原、海氷の公園が並びます。阿寒摩周と支笏洞爺はカルデラ湖をもつ火山地帯で、大雪山は火山群の山岳公園です。釧路湿原と利尻礼文サロベツ(サロベツ原野の高層湿原)は湿原の公園、知床は流氷と海陸の物質循環で評価されています。日高山脈襟裳十勝は、カール地形をもつ山脈です。国定公園には、網走(サロマ湖などの海跡湖)、暑寒別天売焼尻(海鳥の繁殖地)、大沼、ニセコ積丹小樽海岸、厚岸霧多布昆布森(湿原と海岸)があります。

東北(国立3・国定8)。十和田八幡平と、国定公園の蔵王、鳥海、栗駒が、火山地帯の公園です。磐梯朝日(山形・福島・新潟)と国定公園の越後三山只見には、多雪地域のブナ林が広がります。海岸では、三陸復興(隆起海岸とリアス海岸)、男鹿(海食崖)、下北半島(仏ヶ浦の奇岩)が特徴的です。津軽国定公園は、世界自然遺産・白神山地の一部を区域に含みます。

関東・中部(国立10・国定16)。日本アルプスが連なり、氷期の氷河地形と、3,000m級の山岳の植生が観察できます(中部山岳、南アルプス、国定公園の中央アルプス)。火山では、富士箱根伊豆、上信越高原(浅間山)、妙高戸隠連山、国定公園の御嶽山があります。日本海側には、能登半島、越前加賀海岸、若狭湾の海岸の公園が並び、都市近郊には高尾山(明治の森高尾)、丹沢大山、水郷筑波があります。小笠原は東京都に属し、本土から約1,000km離れた海洋島です。

近畿(国立3・国定11)。吉野熊野では、大台ヶ原が国内有数の多雨地帯で、紀伊山地の信仰の道(熊野古道)も公園と重なります。琵琶湖国定公園は、琵琶湖と周辺の山地からなり、湖岸のヨシ群落の保全が公園計画の課題になっています。大阪近郊には明治の森箕面、金剛生駒紀泉があります。山陰海岸は、京都・兵庫・鳥取にまたがります。なお、瀬戸内海国立公園は、近畿から中国・四国・九州までの1府10県にまたがります。

中国・四国(国立2・国定7)。大山隠岐は火山(大山)と隠岐諸島、足摺宇和海はサンゴ礁を含む海域の公園です。国定公園では、秋吉台と比婆道後帝釈(帝釈峡)がカルスト地形、石鎚(西日本最高峰)と剣山が四国山地の山岳、室戸阿南海岸が隆起海岸の公園です。西中国山地は渓谷、北長門海岸は海食地形が特徴です。

九州・沖縄(国立9・国定11)。阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、雲仙天草は活火山をもつ公園で、阿蘇は半自然草原でも知られます。屋久島、奄美群島、やんばる、西表石垣は、世界自然遺産に関わる亜熱帯の公園で、慶良間諸島や足摺宇和海ではサンゴ礁の観察ができます。国定公園では、耶馬日田英彦山(耶馬渓の奇岩、英彦山の修験道)、壱岐対馬(大陸との生物地理的な接点)、日南海岸(波状の岩礁)、沖縄戦跡(戦争の記憶を伝える場)などがあります。


関東近郊のフィールドを解読する 7選

首都圏からアクセスしやすく、地球科学の原理や人間の歴史的関わりを色濃く観察できる、関東およびその周辺の7つの自然公園をピックアップします。

明治の森高尾国定公園 都心からわずか50km圏内に位置しながら、日本の温帯林の東西・南北を分ける植物生態学的な境界線(交差点)であり、かつ1000年以上の修験道信仰によってその原生林が奇跡的に手つかずで守られてきたという「都市近郊における生物多様性と文化保護の奇跡的な両立」が価値の核心です。

科学(生態系・気候):
標高599mの高尾山は、温暖な低地を象徴する暖温帯系「照葉樹林(常緑のカシ・モミなど)」と、寒冷な山地を象徴する冷温帯系「落葉広葉樹林(ブナ・ミズナラなど)」の移行帯にあたります。実際に山に入ると、日当たりの良い南斜面には常緑樹が多く、寒暖差の激しい北斜面には落葉樹が広がるという、斜面の向き(日照と湿度)による微気候と植生の違いを顕著に観察できます。

歴史(信仰と保護):
高尾山は、744年(天平16年)の開山とされる薬王院を中心とした修験道の霊山として栄えました。江戸時代には徳川幕府によって樹木の伐採が厳しく禁じられ、これが結果として都心近郊でありながら豊かな原生林がそのまま残される要因となりました。人間社会の「信仰と禁伐」という歴史的選択が、現代の豊かな科学的フィールドを生み出したことを現地で照合できます。

尾瀬国立公園 本州最大級の山岳高層湿原という地球科学的に極めて希少な泥炭堆積環境を持つと同時に、戦後の電力開発や道路建設の波から市民運動によって自然を守り抜いたという「日本の自然保護運動の発祥地」としての象徴的・歴史的価値が独立した国立公園たる所以です。

科学(地質・湿原):
標高約1,400mに広がる尾瀬ヶ原は、燧ヶ岳(ひうちがたけ)の火山活動によって川がせき止められてできた盆地状の湿原です。冷涼で酸素の乏しい過湿環境下では枯れた植物が分解されず「泥炭(でいたん)」として積み重なります。尾瀬の湿原は、数千年の歳月をかけて1年にわずか約1mmという途方もない遅さで堆積した泥炭層によって作られています。

歴史(ダム開発反対運動):
1903年(明治36年)に持ち上がった水力発電用ダム建設計画に対し、戦後、平野長英ら地元の保存運動家や学者たちが立ち上がり、「尾瀬保存期成同盟」を結成しました。1970年代には観光道路計画の断念と木道の整備、登山者のゴミ持ち帰り運動が巻き起こりました。足元の木道を歩く体験そのものが、開発と保護の相克を乗り越えた歴史的成果の確認となります。

日光国立公園 日光火山群による複雑な水系・地貌(火山堰止湖、湿原、名瀑)という地球科学的なダイナミズムと、世界遺産・東照宮に代表される歴史的建造物・修験道信仰、そして明治期の国際避暑地としての歴史が「自然と人間文化の不可分な融合」として最高水準で結晶している点です。

科学(火山・水系):
日光の景観は、男体山をはじめとする日光火山群の噴火活動の賜物です。かつて男体山から流出した溶岩流が大谷川をせき止め、中禅寺湖を形成しました。その湖水が溶岩の断層崖から一気に吹き出す場所が華厳の滝です。火山噴出物の浸透性と地質構造が、中禅寺湖、戦場ヶ原(湿原)、華厳の滝という一連の水系地形を作り上げているメカニズムを現地で辿ることができます。

歴史:奈良時代、勝道上人による男体山開山以来、日光は修験の聖地でした。江戸時代には徳川家康の霊廟(東照宮)が座す将軍家の聖域となり、明治以降はアーネスト・サトウら外国公使たちが冷涼な気候と景観を愛し、中禅寺湖畔に別荘を建てたことで「国際避暑地」へと変貌しました。宗教と近代観光史の重なりを現地で観察できます。

富士箱根伊豆国立公園 日本を象徴する富士山(成層火山)と、大規模な多重カルデラを持つ箱根という火山地形の多様性と地質プロセスが日本規模で最も凝縮された「火山の総合展示場」である点です。

科学:箱根は、数十万年に及ぶ大規模な噴火と陥没が繰り返されて形成された複合カルデラです。外輪山に囲まれた内部には芦ノ湖(堰止湖)や大涌谷(現在も活動する噴気地帯)が存在します。一方、富士山は玄武岩質の溶岩を大量に流出した成層火山であり、宝永噴火の痕跡や、溶岩流上に形成された青木ヶ原樹海(初生林)など、立体的な火山地質学をダイレクトに体感できます。

歴史:箱根は古くから東海道の天下の険として「関所」が設けられ、交通と防衛の要衝でした。富士山は「富士浅間信仰」の対象として、江戸時代には庶民の間で「富士講」が大流行し、大勢の参拝客が山頂を目指しました。日本の自然観における「崇拝と畏怖の対象としての山」の歴史を今に伝えています。

上信越高原国立公園:現在も激しく活動を続ける活火山(浅間山)がもたらす生の地質現象・生態系遷移(初生一次遷移)と、戦後の爆発的なレクリエーション需要に伴い日本における「近代高原リゾート・スポーツ文化」を切り拓いた歴史性にあります。

科学:浅間山は安山岩質の複成火山です。1783年(天明3年)の大噴火で流出した「鬼押出し溶岩」の荒涼とした岩場では、数百年の時を経てようやくコケや地衣類が定着し、徐々に低木が侵入していくという「初生植生遷移」のプロセスをそのまま観察することができます。

歴史:天明の大噴火は当時の農村社会に大打撃を与え、天明の大飢饉の一因となりました。大正から昭和初期にかけては、志賀高原や草津などに野外スポーツとしてのスキーや温泉リゾート文化が移植され、日本の高度成長期におけるレクリエーション需要を受け止める一大拠点となりました。

秩父多摩甲斐国立公園 火山が多い東日本において「非火山性の隆起と侵食」によって形成された2,000m級の鋭鋭な山塊であり、首都圏を支える4大河川(多摩川・荒川・富士川・信濃川)の巨大な「水源林(緑のダム)」として都市の生命線を維持してきた環境保全機能の高さにあります。

科学:古生代・中生代の複雑な地層や花崗岩がプレート運動で隆起し、長年の雨水による浸食を受けて険しいV字谷(昇仙峡や鳩ノ巣渓谷など)を作り出しました。この広大なブナやミズナラの森林群は、膨大な水分を貯留・保水する自然の水源林として機能しています。

歴史:江戸時代から、この山林は「御料林」や江戸の街を潤す「玉川上水」の水源として手厚く保護されてきました。また、秩父三峰神社や御嶽神社など武蔵野の山岳信仰の地でもあり、木材や炭を江戸・東京に供給し続けてきた、大都市と背後地(ヒンターランド)の深い依存関係を物語っています。

水郷筑波国定公園:関東平野に突如聳える浸食残丘(筑波山)と、日本第2位の面積を持つ海跡湖(霞ヶ浦)という異質な地形の組み合わせ、そして江戸期の利根川東遷事業から近代の干拓・淡水化に至る「大規模な人間の土木改変と水郷景観の歴史」が凝縮された地域価値にあります。

科学:筑波山は火山ではなく、深部から上昇した花崗岩や斑れい岩が周囲の柔らかい地層の侵食によって残された「浸食残丘(孤立峰)」です。一方、霞ヶ浦はかつて海だった場所が砂州の形成で切り離されてできた低地湖沼(海跡湖)であり、平野の中の孤立峰と水辺生態系という特異な地形対比を見せてくれます。

歴史:霞ヶ浦周辺の水郷地域は、江戸時代初期に行われた天下の大工事「利根川東遷事業」によって、水運の幹線道路へと変貌しました。銚子から江戸へと物資を運ぶ船が行き交い、水郷文化が花開きました。人間の歴史的な国土改変がどのように自然景観を形作ったかを学ぶ格好の現場です。

国立公園リスト

公園名所在地指定年何が「国際的価値」なのか
知床北海道1964世界自然遺産。生態系の完全性:流氷から森林まで連続した食物連鎖
釧路湿原北海道1987湿原生態系の典型:日本最大規模、タンチョウなど固有種の生息地
日光栃木・群馬・福島1934文化と自然の融合:世界遺産の社寺と自然景観が一体化
尾瀬福島・栃木・群馬・新潟2007湿原保全運動の象徴:市民運動によって守られた自然(価値の社会的形成)
中部山岳新潟・富山・長野・岐阜1934氷河地形の教科書:カール、モレーンなど地形学的価値
白山富山・石川・福井・岐阜1962信仰と自然の共存:霊山としての文化的価値+高山植物
富士箱根伊豆東京・神奈川・山梨・静岡1936火山地形の多様性:成層火山・カルデラ・溶岩流の総合展示場
屋久島鹿児島1964植生の垂直分布:海岸から高山まで、緯度にして30度分の気候帯が凝縮
小笠原東京1972進化の実験場:大陸から隔絶された島での固有種分化

選定基準を見ると、単に「美しい」「珍しい」だけではなく、生態学的・地質学的・文化的な『学術的根拠』が評価の基盤になっていることがわかります。

全国立公園リスト(34か所)

公園名所在地指定年特徴・見どころ
利尻礼文サロベツ北海道1974利尻富士、礼文島の高山植物、日本最大級の高層湿原
知床北海道1964世界自然遺産。流氷、ヒグマ、原始的生態系
阿寒摩周北海道19343つのカルデラ湖(摩周・屈斜路・阿寒)とマリモ
釧路湿原北海道1987日本最大の湿原、タンチョウの生息地
大雪山北海道1934北海道の屋根、高山植物、日本一早い紅葉
支笏洞爺北海道1949カルデラ湖群、活火山(有珠山・昭和新山)
日高山脈襟裳十勝北海道2024日本最大の山岳公園、氷河地形(カール)
十和田八幡平青森・岩手・秋田1936十和田湖、奥入瀬渓流、八幡平の火山地形
三陸復興青森・岩手・宮城1955リアス式海岸、海のアルプス、震災伝承
羽黒朝日山形・新潟1950出羽三山の信仰文化、朝日連峰のブナ林
日光栃木・群馬・福島1934世界遺産の社寺、中禅寺湖、華厳の滝
尾瀬福島・栃木・群馬・新潟2007日本最大の山岳湿原、市民運動の成果
秩父多摩甲斐埼玉・東京・山梨・長野19502000m級の山々、都心近郊の原生林
上信越高原群馬・長野1949谷川岳、志賀高原、浅間山
妙高戸隠連山新潟・長野2015火山・非火山の混在、戸隠神社の信仰
中部山岳新潟・富山・長野・岐阜1934北アルプス、槍・穂高、上高地
白山富山・石川・福井・岐阜1962日本三霊山、高山植物、ブナ原生林
南アルプス山梨・長野・静岡19643000m級の巨峰群、北岳の高山植物
富士箱根伊豆東京・神奈川・山梨・静岡1936富士山、箱根温泉、伊豆諸島
伊勢志摩三重1946リアス式海岸、伊勢神宮、海女文化
吉野熊野三重・奈良・和歌山1936熊野三山、吉野山の桜、大台ヶ原
山陰海岸京都・兵庫・鳥取1963海食地形、鳥取砂丘、ジオパーク
瀬戸内海1府10県1934日本初の国立公園、多島美、厳島神社
大山隠岐鳥取・島根・岡山1936伯耆富士・大山、隠岐諸島、出雲信仰
足摺宇和海愛媛・高知1972足摺岬、サンゴ礁の海中景観
西海長崎1955九十九島、五島列島、カトリック教会群
雲仙天草長崎・熊本・鹿児島1934雲仙岳の火山と温泉、天草の海岸
阿蘇くじゅう熊本・大分1934世界最大級のカルデラ、広大な草原
霧島錦江湾宮崎・鹿児島1934霧島連山、桜島、錦江湾の火山景観
屋久島鹿児島1964世界自然遺産、縄文杉、垂直分布
奄美群島鹿児島2017世界自然遺産、固有種(アマミノクロウサギ)
やんばる沖縄2016世界自然遺産、亜熱帯林、固有種
慶良間諸島沖縄2014ケラマブルー、高透明度の海
西表石垣沖縄1972マングローブ、サンゴ礁、星空保護区

国立公園に、行ってみよう!国立公園一覧

環境省 公式ホームページ


国定公園リスト

公園名所在地指定年特徴・見どころ
暑寒別天売焼尻北海道1990暑寒別岳、海鳥繁殖地(天売・焼尻島)
網走北海道1958サロマ湖、能取湖などの海跡湖
ニセコ積丹小樽海岸北海道1963シャコタンブルーの海、ニセコ連峰
大沼北海道1958駒ヶ岳を背景とした湖沼群
下北半島青森1968恐山、仏ヶ浦の奇岩、本州最北端
津軽青森1975竜飛崎、十三湖、白神山地緩衝地帯
早池峰岩手1982高山植物の宝庫(ハヤチネウスユキソウ)
栗駒岩手・宮城・秋田・山形1968栗駒山の紅葉、火山の湿原
蔵王宮城・山形1963お釜、樹氷、スキー場
男鹿秋田1973寒風山、海食崖、なまはげ文化
鳥海秋田・山形1963出羽富士・鳥海山、飛島
越後三山只見福島・新潟1973山岳地帯、奥只見湖、ブナ原生林
水郷筑波茨城・千葉1959霞ヶ浦、筑波山、水郷文化
南房総千葉1958海岸線、温暖な海洋性気候
明治の森高尾東京1967高尾山、世界一の登山者数
丹沢大山神奈川1960丹沢山塊、大山の山岳信仰
佐渡弥彦米山新潟1950佐渡島、弥彦山、トキの野生復帰
能登半島石川・富山1968千枚田、能登金剛、里山里海
越前加賀海岸石川・福井1968東尋坊の柱状節理、越前海岸
若狭湾福井・京都1955三方五湖、リアス式海岸、天橋立
八ヶ岳中信高原長野・山梨1964八ヶ岳、美ヶ原、霧ヶ峰
中央アルプス長野2020木曽駒ヶ岳、千畳敷カール
天竜奥三河長野・静岡・愛知1969天竜峡、佐久間ダム、茶臼山
揖斐関ヶ原養老岐阜・三重1970養老の滝、関ヶ原古戦場
飛騨木曽川岐阜・愛知1964日本ライン、恵那峡、木曽川
愛知高原愛知1970香嵐渓、奥三河の山々
三河湾愛知1958知多・渥美半島、穏やかな海
鈴鹿三重・滋賀1968御在所岳、鈴鹿山脈
室生赤目青山三重・奈良1970赤目四十八滝、室生寺
琵琶湖滋賀・京都1950日本最大の湖、竹生島、比叡山
明治の森箕面大阪1967箕面の大滝、ニホンザル
金剛生駒紀泉大阪・奈良・和歌山1958金剛山、生駒山
氷ノ山後山那岐山兵庫・鳥取・岡山1969中国山地の高峰、ブナ林
大和青垣奈良1970奈良盆地を囲む山々、古道
高野山旗護山和歌山2015高野山真言宗の聖地
扇ノ山上山高原兵庫・鳥取2017火山地形、ススキの草原
比婆道後帝釈鳥取・島根・広島1963帝釈峡の鍾乳洞、比婆山
島根半島宍道湖中海島根1963宍道湖の夕日、中海の湿地
三瓶山島根1963火山地形と草原、三瓶温泉
邑智郡山地島根2023最新の国定公園、江の川の里山
西中国山地島根・広島・山口1969三段峡、寂地峡の渓谷美
北長門海岸山口1955青海島「海上アルプス」、角島
秋吉台山口1955日本最大級のカルスト台地、秋芳洞
剣山徳島・高知1964四国第二の高峰、原生林
室戸阿南海岸徳島・高知1964室戸岬、亜熱帯植物
石鎚愛媛・高知1955西日本最高峰の石鎚山
北九州福岡1950平尾台(カルスト)、皿倉山
玄海福岡・佐賀・長崎1956虹の松原、呼子、壱岐・対馬
耶馬日田英彦山福岡・熊本・大分1950耶馬渓の奇岩、英彦山の修験道
壱岐対馬長崎1968ツシマヤマネコ、大陸との窓口
九州中央山地熊本・宮崎1982九州の秘境、椎葉村
日豊海岸大分・宮崎1974リアス式海岸、日向灘
祖母傾大分・宮崎1965祖母山、傾山、ユネスコエコパーク
日南海岸宮崎・鹿児島1955青島、鬼の洗濯板
沖縄海岸沖縄1972万座毛、辺戸岬、サンゴ礁
沖縄戦跡沖縄1972摩文仁の丘、平和祈念公園

国立公園に、行ってみよう!国定公園一覧

環境省 公式ホームページ

編集後記

国立公園・国定公園は、自然現象を現地で観察するための巨大なフィールドワークの場といえます。そこに広がる風光明媚な景観や観光的価値は、その土地が長い時間をかけて形成されてきた結果でもあります。

その背景には、過去の地殻変動による地形形成をはじめ、形成後の風化や浸食、堆積による変化があります。さらに、そこに成立する植生分布や生態系の境界など、さまざまな要素が相互に作用しながら、現在の景観をつくり上げています。

自然を実際に現地で観察することで、私たちは教科書や図表だけでは得られない「実物」を通じた理解に近づくことができます。国立公園・国定公園は、まさに地学・生物学・環境科学を横断して学ぶことのできる教材といえるのではないでしょうか。

おわりに

最後までお読みいただき、ありがとうございました。本記事を通じて、暮らしの背後にある仕組みを読み解くヒントは得られましたでしょうか。もし「このテーマをもっと深く知りたい」と感じていただけましたら、ぜひ関連の解説記事もあわせてご覧ください。

本サイトではトピックをできるだけ「歴史・科学・フィールド」の3層構造で体系化しています(教育とキャリアを除く)。一つの事象を多角的に捉えることで、断片的な知識を「線や面」へとつなげることができます。多彩なテーマを用意していますので、ぜひサイト内の記事一覧から、あなたの知的好奇心を刺激するトピックを覗いてみてください。

日本の国立公園(35か所)と国定公園(58か所)は、自然公園法にもとづき、優れた自然の風景地を保護しながら、その利用を図る区域として指定されています。本記事は、本サイトの3層構造のうち「フィールド」にあたります。現地で、歴史(指定の経緯や制度)と科学(地形・生態系の成因)について、何を観察し、体験し、確認できるかを整理しました。全公園のリストは、巻末の資料編に掲載しています(2026年10月時点)。

シリーズについて

本サイトのメインテーマは「暮らしの背後にある仕組みを読み解く」こと。中学・高校理科の知識をベースに、特定の専門に偏らず、物事の骨子を見抜く力を養います。記事は「歴史的背景」「科学的原理」「フィールド(実社会での応用)」の3層構造で構成しています。「なぜそうなったか」「どんな仕組みか」「現実で何が見えるか」。この3視点を揃えることで、断片的な知識を「線や面」へとつなげ、社会を生き抜くための判断の源泉を提供します。

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