日本全国に点在する国立公園と国定公園を整理したリストです。環境省の制度に基づく自然保護の仕組みを踏まえつつ、57か所をわかりやすく解説します。旅行・学習の両方に役立つ自然公園ガイド。
はじめに
国立公園は、自然が「そのまま残っている場所」ではありません。
自然公園法にもとづき、「特にすぐれた自然の風景地を、国民の保健・休養・教化のために利用しつつ、将来世代に引き継ぐ」ことを目的として制度的に管理されている区域です。
ここで重要なのは、自然公園法が
- 自然の完全な保存だけを目的にしていないこと
- 利用(観察・学習・調査)を前提に保護するという考え方を採っていること
です。
そのため国立公園では、立ち入り・採取・建築などが科学的・行政的判断にもとづいて細かく制限されます。これは「人間の自由を制限するため」ではなく、自然の変化を長期的に観察し、理解し続けるための条件を維持する制度といえます。日本全国に点在する国立公園と国定公園。これらは単なる観光地ではなく、「何をどう守るべきか」という価値判断を制度化した実例です。自然景観という目に見えにくい価値をどう定義し、どう区分し、誰が管理するか。
この記事では、環境省による自然保護制度の仕組みを通じて、抽象的な価値を社会的な合意に変換するプロセスを読み解きながら、国内の代表的な自然景観35か所と地域ごとの公園58か所を整理します。
なぜ「国立」と「国定」を分けるのか?―制度設計の思考法
区分の背後にある判断基準
| 区分 | 定義 | 管理主体 | 設計思想 |
|---|---|---|---|
| 国立公園 | 国が特に優れた地域を指定。景観、動植物、生態系などが国際的にも価値が高いとされる地域。 | 環境省(国) | 普遍的価値:全国民・国際社会が共有すべき最高水準の自然 |
| 国定公園 | 国立公園ほど規模や自然の価値が突出していないが、地域的に重要な自然景観を有する地域。 | 都道府県(国の承認) | 地域的価値:地域が主体的に守る、文化・歴史と結びついた自然 |
この区分は、「価値の階層化」と「管理責任の分散」という二つの原理を体現しています。すべてを国が管理すれば効率が悪く、すべてを地域に任せれば保護水準にばらつきが生じる。この制度は、中央集権と地方分権のバランスを取る一つのモデルケースといえるでしょう。
国立・国定公園の比較
| 項目 | 国立公園 | 国定公園 |
|---|---|---|
| 指定主体 | 国(環境省) | 国が承認した都道府県 |
| 管理主体 | 国が直接 | 都道府県が中心 |
| 規模・価値 | 国際的・全国的に最高水準 | 地域的に重要 |
| 評価基準 | 生態系・地質・景観の学術的価値 | 文化・歴史・教育的価値も重視 |
| 制度根拠 | 自然公園法 | 自然公園法 |
| 数量 | 34か所(2025年現在) | 58か所(2025年現在) |
歴史的展開―制度はどう進化したか
- 1931年:国立公園法制定(世界的な国立公園制度の潮流に呼応)
- 1934年:最初の国立公園指定(大雪山、阿寒摩周、日光など12か所)
- 1949年:国定公園制度の本格始動
- 1957年:自然公園法制定により、国立・国定・都道府県立の三層構造が確立
最初は「優れた自然を守る」という漠然とした理念から始まり、運用の中で区分や基準が洗練されていったのです。
国立・国定公園一覧
国立公園リスト
| 公園名 | 所在地 | 指定年 | 何が「国際的価値」なのか |
|---|---|---|---|
| 知床 | 北海道 | 1964 | 世界自然遺産。生態系の完全性:流氷から森林まで連続した食物連鎖 |
| 釧路湿原 | 北海道 | 1987 | 湿原生態系の典型:日本最大規模、タンチョウなど固有種の生息地 |
| 日光 | 栃木・群馬・福島 | 1934 | 文化と自然の融合:世界遺産の社寺と自然景観が一体化 |
| 尾瀬 | 福島・栃木・群馬・新潟 | 2007 | 湿原保全運動の象徴:市民運動によって守られた自然(価値の社会的形成) |
| 中部山岳 | 新潟・富山・長野・岐阜 | 1934 | 氷河地形の教科書:カール、モレーンなど地形学的価値 |
| 白山 | 富山・石川・福井・岐阜 | 1962 | 信仰と自然の共存:霊山としての文化的価値+高山植物 |
| 富士箱根伊豆 | 東京・神奈川・山梨・静岡 | 1936 | 火山地形の多様性:成層火山・カルデラ・溶岩流の総合展示場 |
| 屋久島 | 鹿児島 | 1964 | 植生の垂直分布:海岸から高山まで、緯度にして30度分の気候帯が凝縮 |
| 小笠原 | 東京 | 1972 | 進化の実験場:大陸から隔絶された島での固有種分化 |
選定基準を見ると、単に「美しい」「珍しい」だけではなく、生態学的・地質学的・文化的な『学術的根拠』が評価の基盤になっていることがわかります。これは、主観的な美意識を客観的な指標に変換する試みといえます。
全国立公園リスト(34か所)
| 公園名 | 所在地 | 指定年 | 特徴・見どころ |
|---|---|---|---|
| 利尻礼文サロベツ | 北海道 | 1974 | 利尻富士、礼文島の高山植物、日本最大級の高層湿原 |
| 知床 | 北海道 | 1964 | 世界自然遺産。流氷、ヒグマ、原始的生態系 |
| 阿寒摩周 | 北海道 | 1934 | 3つのカルデラ湖(摩周・屈斜路・阿寒)とマリモ |
| 釧路湿原 | 北海道 | 1987 | 日本最大の湿原、タンチョウの生息地 |
| 大雪山 | 北海道 | 1934 | 北海道の屋根、高山植物、日本一早い紅葉 |
| 支笏洞爺 | 北海道 | 1949 | カルデラ湖群、活火山(有珠山・昭和新山) |
| 日高山脈襟裳十勝 | 北海道 | 2024 | 日本最大の山岳公園、氷河地形(カール) |
| 十和田八幡平 | 青森・岩手・秋田 | 1936 | 十和田湖、奥入瀬渓流、八幡平の火山地形 |
| 三陸復興 | 青森・岩手・宮城 | 1955 | リアス式海岸、海のアルプス、震災伝承 |
| 羽黒朝日 | 山形・新潟 | 1950 | 出羽三山の信仰文化、朝日連峰のブナ林 |
| 日光 | 栃木・群馬・福島 | 1934 | 世界遺産の社寺、中禅寺湖、華厳の滝 |
| 尾瀬 | 福島・栃木・群馬・新潟 | 2007 | 日本最大の山岳湿原、市民運動の成果 |
| 秩父多摩甲斐 | 埼玉・東京・山梨・長野 | 1950 | 2000m級の山々、都心近郊の原生林 |
| 上信越高原 | 群馬・長野 | 1949 | 谷川岳、志賀高原、浅間山 |
| 妙高戸隠連山 | 新潟・長野 | 2015 | 火山・非火山の混在、戸隠神社の信仰 |
| 中部山岳 | 新潟・富山・長野・岐阜 | 1934 | 北アルプス、槍・穂高、上高地 |
| 白山 | 富山・石川・福井・岐阜 | 1962 | 日本三霊山、高山植物、ブナ原生林 |
| 南アルプス | 山梨・長野・静岡 | 1964 | 3000m級の巨峰群、北岳の高山植物 |
| 富士箱根伊豆 | 東京・神奈川・山梨・静岡 | 1936 | 富士山、箱根温泉、伊豆諸島 |
| 伊勢志摩 | 三重 | 1946 | リアス式海岸、伊勢神宮、海女文化 |
| 吉野熊野 | 三重・奈良・和歌山 | 1936 | 熊野三山、吉野山の桜、大台ヶ原 |
| 山陰海岸 | 京都・兵庫・鳥取 | 1963 | 海食地形、鳥取砂丘、ジオパーク |
| 瀬戸内海 | 1府10県 | 1934 | 日本初の国立公園、多島美、厳島神社 |
| 大山隠岐 | 鳥取・島根・岡山 | 1936 | 伯耆富士・大山、隠岐諸島、出雲信仰 |
| 足摺宇和海 | 愛媛・高知 | 1972 | 足摺岬、サンゴ礁の海中景観 |
| 西海 | 長崎 | 1955 | 九十九島、五島列島、カトリック教会群 |
| 雲仙天草 | 長崎・熊本・鹿児島 | 1934 | 雲仙岳の火山と温泉、天草の海岸 |
| 阿蘇くじゅう | 熊本・大分 | 1934 | 世界最大級のカルデラ、広大な草原 |
| 霧島錦江湾 | 宮崎・鹿児島 | 1934 | 霧島連山、桜島、錦江湾の火山景観 |
| 屋久島 | 鹿児島 | 1964 | 世界自然遺産、縄文杉、垂直分布 |
| 奄美群島 | 鹿児島 | 2017 | 世界自然遺産、固有種(アマミノクロウサギ) |
| やんばる | 沖縄 | 2016 | 世界自然遺産、亜熱帯林、固有種 |
| 慶良間諸島 | 沖縄 | 2014 | ケラマブルー、高透明度の海 |
| 西表石垣 | 沖縄 | 1972 | マングローブ、サンゴ礁、星空保護区 |
国定公園一覧―「地域の主体性」を体現する制度
国定公園は、国が基準を示しつつ、地域が主体的に管理する仕組みです。これは、「中央が一律に決める」のでも「完全に地域任せ」でもない、中間的なガバナンスの実例といえます。
特徴的な国定公園の選定理由
| 公園名 | 所在地 | 指定年 | 地域価値の本質 |
|---|---|---|---|
| 明治の森高尾 | 東京 | 1967 | 都市近郊の生物多様性:世界一の登山者数を誇る教育的価値 |
| 琵琶湖 | 滋賀・京都 | 1950 | 水資源と生態系:日本最大の湖、固有種の宝庫 |
| 佐渡弥彦米山 | 新潟 | 1950 | 文化的景観:トキの野生復帰、里山の維持 |
| 秋吉台 | 山口 | 1955 | カルスト地形の典型:地質学的教材としての価値 |
| 壱岐対馬 | 長崎 | 1968 | 大陸との生態的接点:ツシマヤマネコなど固有亜種 |
| 沖縄戦跡 | 沖縄 | 1972 | 歴史的記憶の継承:自然公園が「平和教育の場」を兼ねる異例の例 |
ここには、生態学的価値だけでなく、教育的・文化的・歴史的な意義が評価基準に含まれていることが読み取れます。これは、「自然保護」という概念が、単なる環境保全を超えて、人間社会との関係性の中で定義されることを示しています。
全国定公園リスト(58か所)
| 公園名 | 所在地 | 指定年 | 特徴・見どころ |
|---|---|---|---|
| 暑寒別天売焼尻 | 北海道 | 1990 | 暑寒別岳、海鳥繁殖地(天売・焼尻島) |
| 網走 | 北海道 | 1958 | サロマ湖、能取湖などの海跡湖 |
| ニセコ積丹小樽海岸 | 北海道 | 1963 | シャコタンブルーの海、ニセコ連峰 |
| 大沼 | 北海道 | 1958 | 駒ヶ岳を背景とした湖沼群 |
| 下北半島 | 青森 | 1968 | 恐山、仏ヶ浦の奇岩、本州最北端 |
| 津軽 | 青森 | 1975 | 竜飛崎、十三湖、白神山地緩衝地帯 |
| 早池峰 | 岩手 | 1982 | 高山植物の宝庫(ハヤチネウスユキソウ) |
| 栗駒 | 岩手・宮城・秋田・山形 | 1968 | 栗駒山の紅葉、火山の湿原 |
| 蔵王 | 宮城・山形 | 1963 | お釜、樹氷、スキー場 |
| 男鹿 | 秋田 | 1973 | 寒風山、海食崖、なまはげ文化 |
| 鳥海 | 秋田・山形 | 1963 | 出羽富士・鳥海山、飛島 |
| 越後三山只見 | 福島・新潟 | 1973 | 山岳地帯、奥只見湖、ブナ原生林 |
| 水郷筑波 | 茨城・千葉 | 1959 | 霞ヶ浦、筑波山、水郷文化 |
| 南房総 | 千葉 | 1958 | 海岸線、温暖な海洋性気候 |
| 明治の森高尾 | 東京 | 1967 | 高尾山、世界一の登山者数 |
| 丹沢大山 | 神奈川 | 1960 | 丹沢山塊、大山の山岳信仰 |
| 佐渡弥彦米山 | 新潟 | 1950 | 佐渡島、弥彦山、トキの野生復帰 |
| 能登半島 | 石川・富山 | 1968 | 千枚田、能登金剛、里山里海 |
| 越前加賀海岸 | 石川・福井 | 1968 | 東尋坊の柱状節理、越前海岸 |
| 若狭湾 | 福井・京都 | 1955 | 三方五湖、リアス式海岸、天橋立 |
| 八ヶ岳中信高原 | 長野・山梨 | 1964 | 八ヶ岳、美ヶ原、霧ヶ峰 |
| 中央アルプス | 長野 | 2020 | 木曽駒ヶ岳、千畳敷カール |
| 天竜奥三河 | 長野・静岡・愛知 | 1969 | 天竜峡、佐久間ダム、茶臼山 |
| 揖斐関ヶ原養老 | 岐阜・三重 | 1970 | 養老の滝、関ヶ原古戦場 |
| 飛騨木曽川 | 岐阜・愛知 | 1964 | 日本ライン、恵那峡、木曽川 |
| 愛知高原 | 愛知 | 1970 | 香嵐渓、奥三河の山々 |
| 三河湾 | 愛知 | 1958 | 知多・渥美半島、穏やかな海 |
| 鈴鹿 | 三重・滋賀 | 1968 | 御在所岳、鈴鹿山脈 |
| 室生赤目青山 | 三重・奈良 | 1970 | 赤目四十八滝、室生寺 |
| 琵琶湖 | 滋賀・京都 | 1950 | 日本最大の湖、竹生島、比叡山 |
| 明治の森箕面 | 大阪 | 1967 | 箕面の大滝、ニホンザル |
| 金剛生駒紀泉 | 大阪・奈良・和歌山 | 1958 | 金剛山、生駒山 |
| 氷ノ山後山那岐山 | 兵庫・鳥取・岡山 | 1969 | 中国山地の高峰、ブナ林 |
| 大和青垣 | 奈良 | 1970 | 奈良盆地を囲む山々、古道 |
| 高野山旗護山 | 和歌山 | 2015 | 高野山真言宗の聖地 |
| 扇ノ山上山高原 | 兵庫・鳥取 | 2017 | 火山地形、ススキの草原 |
| 比婆道後帝釈 | 鳥取・島根・広島 | 1963 | 帝釈峡の鍾乳洞、比婆山 |
| 島根半島宍道湖中海 | 島根 | 1963 | 宍道湖の夕日、中海の湿地 |
| 三瓶山 | 島根 | 1963 | 火山地形と草原、三瓶温泉 |
| 邑智郡山地 | 島根 | 2023 | 最新の国定公園、江の川の里山 |
| 西中国山地 | 島根・広島・山口 | 1969 | 三段峡、寂地峡の渓谷美 |
| 北長門海岸 | 山口 | 1955 | 青海島「海上アルプス」、角島 |
| 秋吉台 | 山口 | 1955 | 日本最大級のカルスト台地、秋芳洞 |
| 剣山 | 徳島・高知 | 1964 | 四国第二の高峰、原生林 |
| 室戸阿南海岸 | 徳島・高知 | 1964 | 室戸岬、亜熱帯植物 |
| 石鎚 | 愛媛・高知 | 1955 | 西日本最高峰の石鎚山 |
| 北九州 | 福岡 | 1950 | 平尾台(カルスト)、皿倉山 |
| 玄海 | 福岡・佐賀・長崎 | 1956 | 虹の松原、呼子、壱岐・対馬 |
| 耶馬日田英彦山 | 福岡・熊本・大分 | 1950 | 耶馬渓の奇岩、英彦山の修験道 |
| 壱岐対馬 | 長崎 | 1968 | ツシマヤマネコ、大陸との窓口 |
| 九州中央山地 | 熊本・宮崎 | 1982 | 九州の秘境、椎葉村 |
| 日豊海岸 | 大分・宮崎 | 1974 | リアス式海岸、日向灘 |
| 祖母傾 | 大分・宮崎 | 1965 | 祖母山、傾山、ユネスコエコパーク |
| 日南海岸 | 宮崎・鹿児島 | 1955 | 青島、鬼の洗濯板 |
| 沖縄海岸 | 沖縄 | 1972 | 万座毛、辺戸岬、サンゴ礁 |
| 沖縄戦跡 | 沖縄 | 1972 | 摩文仁の丘、平和祈念公園 |
結び―「見えない価値」を社会で共有するために
国立公園・国定公園制度は、単なる自然保護ではありません。それは、「何を守るべきか」という価値判断を、透明な基準と手続きで社会化する仕組みです。観光地である以前に、自然現象を現地で観察するための巨大なフィールドワーク空間です。
美しい景色を見て「いいな」と感じることは誰にでもできます。しかし、その価値を言語化し、他者と共有し、制度として持続可能にするには、科学的な観察眼、論理的な思考、そして社会的な合意形成のプロセスが必要です。国立公園・国定公園を巡るとき、その風景の背後にある「価値の可視化」という知的営みに思いを馳せてみてください。
火山地形、植生分布、生態系の境界、侵食や堆積の痕跡などは、教科書ではなく「実物」を通じて理解されます。
この記事では、国立公園を単なる名所としてではなく、科学的な見方を獲得するための現場として読み進めてください。

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