TRIZー発想を「ひらめき」から「主に10種類のパターン」へー

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日々の技術開発やアイデア創出の現場で、「どうすれば新しい発想が生まれるのか」は永遠のテーマです。本記事では、旧ソ連で生まれた発明・問題解決の思考法 TRIZ の基本原理を、「経験則」から「科学的パターン」へと捉え直し、その核心となる考え方を解説します。

発明は「才能」ではなく「パターン」

1940年代に旧ソ連の技術者ゲンリフ・アルトシュラーが体系化した発想法です。

特許審査官として働いていたアルトシュラーは、何万件もの発明を見ているうちに、「まったく異なる分野の発明が、実は同じ問題解決のパターンを使っている」ことに気づいたのです。

彼は約20万件の特許を分析し、その中から革新的な4万件を抽出。そして、それらを問題の種類と解決策の構造で分類していったのです。この作業から導き出されたのが、40の発明原理でした。

さらに重要な発見がありました。ある産業で何十年も前に使われた解決策が、まったく別の産業では「最新の革新的アイデア」として再発見されていたのです。つまり、知識の移転さえできれば、発明のスピードは劇的に速くなるということでした。

発想力を才能ではなく構造化したこの手法は、企業の課題解決、ビジネスモデル開発などさまざまな場面で応用が進んでいます。

40の発明原理

TRIZの40の発明原理を、にまとめます。


TRIZ「40の発明原理」一覧表

No.原理名要点(ひとことで)
1分割対象を分ける・モジュール化する
2抽出必要な部分だけ取り出す
3局所的性質全体でなく部分ごとに最適化
4非対称対称をやめて不均衡にする
5統合まとめる・一体化する
6多機能1つで複数の役割をもたせる
7入れ子中に入れる・重ねる
8釣り合い反作用でバランスを取る
9事前反作用悪影響を先に打ち消す
10事前作用先に準備しておく
11事前緩和危険に備えて保護する
12等ポテンシャル高低差・差をなくす
13逆転逆にする・裏返す
14曲面化直線→曲線、平面→立体
15可動性動かせる・調整可能にする
16部分的・過剰少なめ/多めにする
17次元変更次元を増減する
18振動揺らす・周期運動させる
19周期作用断続的に行う
20連続有効作用止めずに動かす
21高速通過素早く通過させる
22有害を有益に害を利用する
23フィードバック結果を戻して調整
24仲介仲介物・仲介工程を入れる
25自己サービス自分で自分を助ける
26コピー本物の代わりに複製
27安価な代替高価→安価で代用
28機械的代替機械以外で実現
29空気・液体気体・液体を使う
30薄膜・柔軟薄く・柔らかくする
31多孔質穴をあける
32色の変更色・透明度を変える
33均質化同じ材料・性質にする
34廃棄・再生使い捨て・再利用
35物性変更状態・特性を変える
36相変化相(固液気)を変える
37熱膨張温度変化を使う
38強酸化酸化を強める
39不活性環境反応しにくくする
40複合材料異なる材料を組み合わせる

実務ではこう言われがちです。「覚えきれない」「選択に迷う」など

そこで近年は、40原理を”さらに抽象化”して使う流れが主流になっています。

「10の発想パターン」に簡略化

教育・コンサル・企業研修でよく使われる圧縮版TRIZです。

No.パターン名原理代表例
分割するひとつを複数に分ける、モジュール化スマホアプリの機能分割、組立式家具
逆にする上下・順序・役割を逆転サブスク(所有→利用)、リモートワーク
組み合わせる異なる機能・分野を統合スマホ(電話+カメラ+PC)、キャッシュレス決済
分離する必要なときだけ機能を使う折りたたみスマホ、可変式サスペンション
先にやる問題が起きる前に対処予測メンテナンス、事前レコメンド
別の次元に移す2D→3D、時間・空間・情報軸を変える縦型動画(TikTok)、クラウド化
状態を変える固体→液体→気体、物理的・論理的状態変化デジタル化、電子書籍
フィードバックを使う出力を入力に戻す、学習・適応AIの学習モデル、レコメンドエンジン
捨てる・簡略化する不要な機能・工程を削除ノンフリル家電、ミニマルUI
環境を使う周囲の資源・エネルギーを活用太陽光発電、シェアリングエコノミー

各パターンの詳細

① 分割する(Segmentation)

ひとつを複数に分ける
モジュール化、機能分離

発見のエピソード:
アルトシュラーは、巨大な一体構造を小さな部品に分割することで、製造・輸送・保守のすべてが改善された事例を多数発見しました。特に造船業では、船体をブロックに分けて別々の場所で建造し最後に組み立てる「ブロック建造法」が、建造期間を劇的に短縮した例として注目されました。

例:

  • スマホアプリの機能分割
  • 組立式家具

② 逆にする(Inversion)

上下・順序・役割を逆転
「普通こうする」を疑う

発見のエピソード:
多くの画期的発明は「常識の逆」をやっていました。たとえば冷却が必要な場所を冷やすのではなく、冷却不要な構造に変える。重い部分を支えるのではなく、重い部分を逆に支持構造として使う。こうした「逆転の発想」は、機械工学から化学プロセスまで幅広く見られました。

例:

  • サブスク(所有→利用)
  • リモートワーク(出社→分散)

③ 組み合わせる(Combination)

異なる機能・分野を統合
既存技術の再配置

発見のエピソード:
アルトシュラーが分析した特許の中で、完全に新しい技術は実は少数でした。むしろ、既存の技術を新しい組み合わせで使うことで革新が生まれていたのです。たとえば、時計製造の精密技術が医療機器に応用され、印刷技術が電子回路製造に転用されるなど、異分野の技術融合が多くの発明を生んでいました。

例:

  • スマホ(電話+カメラ+PC)
  • キャッシュレス決済

④ 分離する(Separation)

必要なときだけ機能を使う
条件付きで切り替える

発見のエピソード:
多くの技術的矛盾は「時間的分離」や「空間的分離」で解決されていました。たとえば、硬くて柔らかい材料が必要な場合、時間で使い分ける(通常は硬く、衝撃時だけ柔らかく)、または空間で使い分ける(外側は硬く、内側は柔らかく)ことで矛盾を解消していました。

例:

  • 折りたたみスマホ
  • 可変式サスペンション

⑤ 先にやる(Pre-action)

問題が起きる前に対処
予防・冗長性

発見のエピソード:
アルトシュラーは、多くの優れた設計が「事後対応」ではなく「事前対策」を組み込んでいることに気づきました。建築分野では地震が来る前に制振装置を設置し、製造業では故障する前に部品を交換する予知保全が導入されていました。「問題が起きてから対処する」より「問題が起きないようにする」方が、はるかに効率的だったのです。

例:

  • 予測メンテナンス
  • 事前レコメンド

⑥ 別の次元に移す(Change Dimension)

2D→3D、時間・空間・情報軸を変える

発見のエピソード:
平面では解決できない問題が、立体にすることで解決できる事例が多数ありました。たとえば、道路の渋滞は平面道路では限界がありますが、立体交差や高架道路によって解消されます。また、物理的な制約を「情報化」することで解決する事例も増えていました。

例:

  • 縦型動画(TikTok)
  • クラウド化

⑦ 状態を変える(State Change)

固体→液体→気体、物理的・論理的状態変化

発見のエピソード:
物質の状態変化を利用した発明は、古くから存在していました。たとえば、固体では運べない物質を液化して輸送する、気体にして反応速度を上げる、などです。近年では、物理的状態だけでなく、アナログ→デジタルといった「情報の状態変化」も重要なパターンになっています。

例:

  • デジタル化
  • 電子書籍

⑧ フィードバックを使う(Feedback)

出力を入力に戻す
学習・適応システム

発見のエピソード:
自動制御システムの分析から、アルトシュラーは「出力を測定して入力に反映させる」仕組みの重要性を発見しました。温度調節器、自動操縦システム、品質管理など、優れたシステムはすべて何らかのフィードバックループを持っていました。この原理は、現代のAIや機械学習の基礎にもなっています。

例:

  • AIの学習モデル
  • レコメンドエンジン

⑨ 捨てる・簡略化する(Discard / Simplify)

そもそも要る? 機能削減で価値を上げる

発見のエピソード:
アルトシュラーの分析で最も意外だった発見の一つが、「引き算の発明」の多さでした。多くの技術者は「機能を追加する」ことで問題を解決しようとしますが、画期的な発明の多くは逆に「不要な部品や工程を削除する」ことで生まれていたのです。

たとえば、1950年代の鋳造技術の革新では、従来の多段階プロセスから中間工程を大胆に省略することで、コストが半減し品質も向上しました。また、複雑な機械装置から余分な部品を取り除くことで、故障率が劇的に下がった事例も多数ありました。

アルトシュラーはこれを「理想性の法則」と呼びました。「理想的なシステムとは、存在しないのに機能を果たすシステムである」という逆説的な考え方です。

現代では、この原理は「ミニマリズム」や「リーンスタートアップ」の思想にも通じています。Apple製品の「不要なボタンを削除する」デザイン哲学も、この原理の実践例と言えるでしょう。

具体例:

  • ノンフリル家電:必要最小限の機能だけを残し、価格を下げて使いやすさを向上
  • ミニマルUI:複雑な操作メニューを削除し、直感的な操作を実現
  • ダイソン掃除機:紙パック不要にすることで、部品削減とコスト削減を同時達成
  • 電子決済:現金、財布、レジでの計算プロセスそのものを削除

「捨てる」の本質:
この原理の核心は、「何かを追加して解決する」という思考の罠から抜け出すことです。問題に直面したとき、私たちは本能的に「何を足せばいいか?」と考えがちですが、優れた解決策の多くは「何を引けばいいか?」という問いから生まれます。

不要な機能や工程を削ることで:

  • 製造コストが下がる
  • 故障のリスクが減る
  • ユーザー体験がシンプルになる
  • 保守が容易になる

という複数の利益が同時に得られることが、特許分析から明らかになったのです。

⑩ 環境を使う(Use of External Resources)

周囲にあるものを活用する
外部資源、環境条件、既存の力を利用

発見のエピソード:
アルトシュラーの特許分析で、最もエレガントな解決策の多くは「新しいものを追加しない」発明でした。代わりに、すでにその場に存在する資源(重力、風、温度差、廃熱、振動など)を巧みに利用していたのです。

たとえば、1960年代の冶金工場では、高温の排ガスをそのまま捨てるのではなく、予熱や発電に再利用する技術が開発されました。建築分野では、太陽光、風、地熱といった自然エネルギーを空調に利用するパッシブデザインが普及しました。

アルトシュラーはこれを「無料で利用できるエネルギーや物質を見逃すな」という原則にまとめました。特に重要なのは、**「問題を解決するための資源は、問題の近くにすでに存在している」**という洞察です。

わざわざ外から資源を持ち込んだり、新しいシステムを追加したりする前に、「この場にすでに何があるか?」「使われていないエネルギーや物質はないか?」と問うことで、多くの問題がシンプルに解決されていました。

具体例:

  • 風力発電・太陽光発電:自然界に存在するエネルギーを直接利用
  • 雨水タンク:降雨という環境条件を庭の散水や非常用水に活用
  • コンポスト:生ゴミという「廃棄物」を土壌改良材という「資源」に転換
  • 地中熱利用:地下の安定した温度を冷暖房に活用
  • クラウドソーシング:不特定多数の人々の時間・知識・創造性を活用
  • シェアリングエコノミー:遊休資産(空き部屋、空き時間、未使用の道具)を活用

「環境を使う」の本質:
この原理の核心は、**「問題解決に必要なものは、すでにそこにある」**という視点の転換です。

従来の工学的アプローチは「足りないものを追加する」でしたが、TRIZは「あるものを活用する」ことを優先します。これにより:

  • 追加コストがかからない
  • システムが複雑化しない
  • 持続可能性が高まる
  • 副産物や廃棄物が資源になる

という利点が生まれます。

現代では、この原理は「循環型経済(サーキュラーエコノミー)」の思想と直結しています。廃棄物をゼロにし、すべてを資源として再利用するという考え方は、まさにこのTRIZ原理の実践です。


TRIZの本質:道具ではなく「問いの型」

TRIZは単なる発想テクニックではありません。

本質は、「問題を”矛盾”として捉え、すでに誰かが解いた方法を再利用する」

という思考のOSです。

TRIZが教えてくれること

アルトシュラーの最大の貢献は、「発明は民主化できる」ことを証明したことです。

特別な才能がなくても、パターンを知っていれば、誰でも問題解決の質を高められる。

重要なのは、「正解を探す」のではなく、「問題の構造を見抜く」こと。


参考文献

  • ゲンリフ・アルトシュラー『創造の技法 TRIZ』
  • ダレル・マン『体系的技術革新』
  • 各種TRIZコンサルティング資料

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