私たちの暮らしは、科学技術に支えられています。でも、その「仕組み」を理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。
「なぜ食品添加物が必要なのか」「なぜ電気代が高いのか」—こうした日常の疑問の裏には、物理法則や化学反応が隠れています。
それを理解できると、世界の見え方が変わります。商品を選ぶ基準が変わります。ニュースの読み方が変わります。そして、暮らしがもっと納得できるものになります。
一生を支える義務教育の力:中学理科・数学の定着が『自律』の土台になるで述べたように、中学理科の知識を実際に使いこなせる社会人は驚くほど少ないのです。でも問題は「忘れたこと」ではなく「使える形で学んでいない」ことにあります。
すべてのアメリカ人のための科学
本サイトは、米国科学振興協会(AAAS)が1989年に提唱した—「すべてのアメリカ人のための科学」Science for All Americans(SFAA)の影響を受けています。
Science for All Americans | American Association for the Advancement of Science (AAAS)
SFAAは、単なる教育改革書ではありません。具体的には、高校卒業までに全生徒が獲得すべき科学・数学・技術の理解を明確に定義し体系化しています。物理的環境、生命環境、人間の組織、デザインされた世界、数学的世界、共通テーマ、思考の習慣まで包括的に扱った、教科横断型カリキュラムの先駆けでした。
SFAAは、専門家養成ではなく、民主社会を支える市民の判断力を科学によって底上げする点にありました。
獲得される能力は知識ではなく「考え方」
対象とするのは、職業として理数系を使わない高校生、主婦、営業職、行政職員といった幅広い層です。
中学理科の知識をもつ社会人はどのくらいいるのだろうか——科学リテラシーについて考えるで示したとおり、中学理科の知識を実際に保持している社会人は推定で30-40%程度に過ぎません。しかし、問題は知識量ではありません。
重要なのは、専門家と一般市民の差は知識量ではなく、以下の点にあるという認識です:
- メタ認知(自分の無知を把握する力)
専門家は「自分が何を知らないか」を正確に把握しています。 - 体系的思考(新情報を配置する枠組み)
専門家は新しい情報を既存の知識体系に位置づけ、矛盾や欠落を検出できます。 - 不確実性の扱い方
専門家は「100%の確実性」を求めず、確率的思考で判断します。
獲得される能力:市民的コンピテンシー
この体系を一周学ぶことで、学習者は以下の市民的コンピテンシーを獲得できることを期待しています。
- 科学的主張を評価できる
「この健康食品は効果があるのか」を自分で判断できる - 不確実性を前提に判断できる
「絶対安全」はありえないことを理解し、リスクとベネフィットのバランスで判断できる - 感情と事実を分離できる
「怖い」と「危険」は別物であることを理解し、感情的反応に流されない - 継続的に学習できる
新しい科学技術が登場しても、基本的な思考枠組みで理解できる
これは専門家になることではなく、専門家の言葉を理解し、適切に判断できる市民になることです。
科学リテラシーが変える「あなたの暮らし」
科学リテラシーを身につけると、具体的にどんな変化があるでしょうか?
(1)買い物が変わる——納得できる選択
「天然由来だから安全」「化学物質不使用」——こうした謳い文句に惑わされなくなります。
- 食品添加物の役割を理解すれば、保存料が「悪」ではなく「食品を安全に保つ技術」だとわかる
- 洗剤の成分表示を読めば、自分の用途に合った製品を選べる
- 電化製品のスペックを理解すれば、本当に必要な機能が見える
科学リテラシーは、賢い消費者になるための武器です。
(2)健康管理が変わる——エビデンスで判断
健康情報は玉石混交です。科学リテラシーがあれば、自分で情報の質を評価できます。
- ワクチンの仕組みを理解すれば、接種の判断に自信が持てる
- 栄養学の基礎を知れば、極端なダイエット法に振り回されない
- 統計の読み方がわかれば、「〇〇で死亡リスク増」の記事を冷静に評価できる
科学リテラシーは、自分の体を自分で守るための知識です。
(3)暮らしが快適になる——仕組みの理解
日常の小さな困りごとの多くは、科学の知識で解決できます。
- 結露のメカニズムを知れば、窓の結露対策ができる
- 熱の移動を理解すれば、効率的な冷暖房の使い方がわかる
- 音の性質を知れば、騒音対策の工夫ができる
科学は、暮らしを快適にする実用知識でもあります。
(4)社会参加の質が上がる——対話できる市民
エネルギー政策、環境問題、医療制度——これらは科学的知識なしには判断できません。
科学リテラシーを持つ市民が増えれば、社会全体の対話の質が上がります。感情論ではなく、データに基づいた建設的な議論が可能になります。
関連記事:もし全国民が中学理科を使いこなせたら——つくば市に学ぶ「高科学リテラシー社会」の未来像
カリキュラム全体構造
本サイトはこの理念に共感をもちつつ、日本の文脈に適合させる形で再構成することを試みました。
- 中学校理科+高校1年相当の学習指導要領を完全に網羅
物理・化学・生物・地学の全分野を統合、数式は極力排除 - 教科横断型構造へ再編
科目の壁を取り払い、現実の問題解決に即した構造 - 日常生活・社会課題との接続を最優先
抽象理論から始めるのではなく、日常の事例とのリンク
「理科は世界のOS」——日常に溶け込むがゆえに見えなくなる科目の真価で論じたように、理科が「暗記科目」ではなく「世界を理解するための基本OS」であるという認識があります。
最大の特徴は、システム科学(Systems Science)を活用した点にあります。
その結果、理科は「暗記科目」ではなく、この視点を導入することで、学習者は以下の機能的概念で世界を理解できるようになります。
本体系は、日常の素朴な疑問からそれぞれが現実社会の課題と直結させています。
- 科学の基礎
- 物理
- 化学
- 生命
- 住環境システム
- 食・農業
- 工業・設計
- 統計・リスク・情報科学
「なぜ冬の朝、窓が曇るのか」という素朴な疑問から、露点温度、飽和水蒸気量、断熱性能という概念につながります。
科学は遠い世界の話ではありません。今この瞬間、あなたの周りで起きている現象の仕組みです。日常の「なぜ?」を自分で理解できると、それは暮らしを便利に、健康的に、そして楽しく生活できるのです。
この先には、科学的知識を職業として活用する道も開かれます。
学校で学ぶ理科・数学・社会は、どんな資格につながるのか——初等・中等教育と国家資格の対応表で示したように、義務教育・高校の理科は、危険物取扱者、電気工事士、栄養士、薬剤師、医師といった多様な国家資格の基礎となります。
科学リテラシーは、単に「納得して選ぶため」だけでなく、専門性獲得への出発点でもあります。
関連リンク
基礎編
- 一生を支える義務教育の力:中学理科・数学の定着が『自律』の土台になる
- 「理科は世界のOS」——日常に溶け込むがゆえに見えなくなる科目の真価
- 読書と想像と観察を軸とした理科学習ができないだろうか
- 中学理科の知識をもつ社会人はどのくらいいるのだろうか——科学リテラシーについて考える
思考法
各システムの詳細
- 電気の正体——電圧・電流・抵抗が作る現代文明
- 機械は壊れ、なぜ安全は「仕組み」で守られるのか——機械と材料
- なぜ優れた技術でも、社会では失敗するのか——社会と科学技術
- 畑は社会を支える装置である——持続可能な農業をシステムで考える


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