「理想の家計比率」は、10年前から大きく変わりました。電気代1.4倍、食費や住居費の高騰といった現実を直視し、手取り額に応じた支出モデルをアップデートする必要があります。統計データと実勢価格に基づき、貯蓄率や固定費を再設計。変化する社会で自律して生きるための、最新の家計を提案します。
はじめに:なぜ今、家計を見直すのか
VUCA時代に備える「複数の豊かさ」という戦略で述べたように、私たちは予測不能な変化に直面しています。そして2040年の日本予測が示すように、労働環境も社会構造も大きく変わろうとしています。
こうした時代において、家計管理は単なる節約術ではありません。生活インフラを定量的に把握し、変化に備える力そのものです。
自給自足の必要量を可視化した記事では、食料やエネルギーといった実物資源の視点から生活を分析しました。今回は、その貨幣経済版として、2025年の実勢価格に基づいた家計設計を提示します。
2015年と2025年の家計の違い
多くの家計指南書やFP本が参照する「理想の家計比率」は、実は2010年代の物価水準を前提としています。
当時の前提が通用しなくなった理由:
- 住居費 25〜30% という基準が「2010年代型」
FP本、雑誌(LDK、日経ウーマン)、政府の家計指導でも2013〜2018年は家賃25〜30%が推奨ラインでした。しかし2020年代は家賃が実質上がり、30〜35%も一般的になっています。 - 単身食費 3.5〜3.8万円(手取り20万) は2015年相場
総務省「家計調査」でも該当。当時は35,000円前後が中央値でしたが、2025年は 42,000〜45,000円が現実です。 - 光熱費 1.2万円 は完全に2015水準
最近(2025)の単身は 1.5〜1.8万円が標準。電気代の平均価格は2014→2025で約1.4倍に上昇しています。 - 貯蓄比率が高め(12〜20%)のモデル
これは昔の家計指導ではよく使われましたが、2022年以降の物価では非現実的になっています。
実勢に即した家計モデル:4パターン
■ 1. 一人暮らし(単身)手取り20万円 → 現実は手取り22〜23万円が安心
| 費目 | 理想割合 | 2025現実ベース | 金額(円) |
|---|---|---|---|
| 手取り | 100% | — | 200,000 |
| 食費 | 18% → 20% | ↑物価 | 40,000 |
| 住居費 | 28% → 30% | ↑家賃圧 | 60,000 |
| 水道光熱費 | 6% → 7% | ↑電気・ガス | 14,000 |
| 通信費 | 6% | — | 12,000 |
| 保険料 | 4% | — | 8,000 |
| 趣味・娯楽 | 4% | — | 8,000 |
| 被服費 | 3% | — | 6,000 |
| 交際費 | 5% | — | 10,000 |
| 日用品 | 3% | — | 6,000 |
| その他・予備費 | 6% → 5% | 予備へ回す | 10,000 |
| 貯蓄 | 17% → 10% | 現実化 | 20,000 |
| 支出合計 | — | — | 200,000 |
注: この水準で生活するには、固定費の圧縮と日常的な節約が必要です。余裕を持たせるなら手取り22〜23万円が現実的です。
■ 2. 夫婦+小学生以下の子ども(手取り25万円 → 現実は26〜28万円が安心)
| 費目 | 理想割合 | 2025補正 | 金額(円) |
|---|---|---|---|
| 手取り | 100% | — | 250,000 |
| 食費 | 14% → 16% | 40,000 | |
| 住居 | 25% → 27% | 67,500 | |
| 光熱費 | 6% → 7% | 17,500 | |
| 通信 | 5% | — | 12,500 |
| 教育費 | 10% | — | 25,000 |
| 保険 | 5% | — | 12,500 |
| 趣味・娯楽 | 6% → 4% | 10,000 | |
| 被服 | 3% | — | 7,500 |
| 交際費 | 2% | — | 5,000 |
| 日用品 | 2% | — | 5,000 |
| その他 | 3% | — | 7,500 |
| 貯蓄 | 12% → 10% | 25,000 | |
| 支出合計 | — | — | 250,000 |
■ 3. 夫婦+中高生(手取り30万円 → 2025でもほぼ妥当)
| 費目 | 理想割合 | 2025補正 | 金額(円) |
|---|---|---|---|
| 手取り | 100% | — | 300,000 |
| 食費 | 15% → 17% | 51,000 | |
| 住居 | 25% | — | 75,000 |
| 光熱費 | 6% → 7% | 21,000 | |
| 通信 | 6% | — | 18,000 |
| 教育費 | 12% → 13% | 39,000 | |
| 保険 | 6% | — | 18,000 |
| 趣味・娯楽 | 2% | — | 6,000 |
| 被服 | 2% | — | 6,000 |
| 交際費 | 3% | — | 9,000 |
| 日用品 | 2% | — | 6,000 |
| その他 | 3% | — | 9,000 |
| 貯蓄 | 20% → 15% | 45,000 | |
| 支出合計 | — | — | 300,000 |
■ 4. 夫婦のみ(手取り30万円のままでほぼ妥当)
2025補正では主に食費・光熱費だけ上方修正。
| 費目 | 2015割合 | 2025補正 | 金額(円) |
|---|---|---|---|
| 手取り | 100% | — | 300,000 |
| 食費 | 15% → 16% | 48,000 | |
| 住居 | 25% | — | 75,000 |
| 光熱費 | 5% → 6% | 18,000 | |
| 通信 | 6% | — | 18,000 |
| 保険 | 4% | — | 12,000 |
| 趣味・娯楽 | 3% | — | 9,000 |
| 被服 | 3% | — | 9,000 |
| 交際費 | 3% | — | 9,000 |
| 日用品 | 2% | — | 6,000 |
| その他 | 3% | — | 9,000 |
| 貯蓄 | 20% → 18% | 54,000 | |
| 支出合計 | — | — | 300,000 |
家計管理を「生存戦略」として捉える
ここで示した家計モデルは、単なる理想ではありません。現実の物価に即した生活設計の土台です。
しかし、VUCA時代を生き抜くための「複数の豊かさ」でも述べたように、貨幣経済だけに依存する生き方には限界があります。
- 貯蓄があれば安心という発想は、貨幣の価値が安定している前提に立っています
- しかし物価上昇、金利変動、社会構造の変化によって、その前提は揺らぎつつあります
だからこそ、家計管理と並行して以下も視野に入れるべきです:
- 実物資源の理解:自給自足に必要な量を知ることで、生活の実態を把握する
- 複数の資本を持つ:お金以外の資産(スキル、人間関係、地域とのつながり)を育てる
- 未来を見据える:2040年の社会がどう変わるかを理解し、柔軟に対応できる準備をする
より現実的にするための3つのポイント
上記の家計モデルをさらに実践的にするには:
① 固定費(住居・光熱・通信)の予算を増やす
特に光熱費は今後も上昇傾向が続く可能性があります。予算に1〜2万円の余裕を持たせましょう。
② 貯蓄率を少し下げ、予備費を確保する
理想の貯蓄率に固執せず、急な出費に対応できる「予備費」を確保する方が現実的です。
③ 手取り25〜30万円での生活モデルも併せて検討する
単身なら手取り22〜23万円、子育て世帯なら26〜28万円を目安にすると、心理的余裕が生まれます。
おわりに
家計管理は、単なる節約術ではありません。変化する社会で自律して生きるための、基礎体力です。
この記事で示した数字は、2025年の実勢価格に基づいた一つのモデルに過ぎません。しかし、自分の生活を定量的に把握し、変化に備える姿勢そのものが、これからの時代を生き抜く力になります。
関連記事:

コメント