身の回りの化学物質ハンドブック:安全な暮らしのための実践ガイド―S2-3-

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はじめに:化学物質を「知って使う」

毎日使う洗剤、シャンプー、化粧品、接着剤。これらすべてが化学物質でできています。「化学物質」という言葉に不安を感じる方もいるかもしれませんが、水(H₂O)も食塩(NaCl)も化学物質です。重要なのは「天然か人工か」ではなく、「どんな性質を持ち、どう使えば安全か」を理解することです。

本記事では、家庭や職場で使う化学製品について、化学式・用途・リスク・安全な取り扱い方を体系的に整理します。

SDS(安全データシート)の見方と活用法

Safety Data Sheet(安全データシート)は、化学製品の危険性・有害性、取り扱い方法、応急処置を記載した文書です。労働安全衛生法と化管法により、事業者間取引では交付が義務付けられています。

一般消費者向け製品にはSDSの交付義務はありませんが、多くのメーカーがウェブサイトで公開しています。使用する前に、SDSを確認する習慣をつけることで、多くの事故を防ぐことができます。

SDSの16項目構成

項目記載内容一般使用者が見るべきポイント
1. 化学品及び会社情報製品名、メーカー連絡先緊急時の問い合わせ先
2. 危険有害性の要約GHS分類、絵表示最重要: 炎・どくろ等のマークで危険度を判断
3. 組成及び成分情報化学物質名、濃度アレルギー成分の確認
4. 応急措置吸入・接触・誤飲時の対処緊急時必読: 印刷して保管推奨
5. 火災時の措置消火方法、禁水性消火器の種類確認
6. 漏出時の措置こぼれた時の処理家庭での対処法
7. 取扱い及び保管適切な保管温度・場所子供の手の届かない場所、温度管理
8. 暴露防止及び保護措置必要な保護具、許容濃度手袋・マスク・ゴーグルの要否
9. 物理的化学的性質引火点、pH、蒸気圧引火点で火災リスク判断
10. 安定性及び反応性混合危険物質「混ぜるな危険」の具体的内容
11. 有害性情報急性毒性、発がん性等長期使用リスクの評価
12. 環境影響情報水生生物への毒性排水時の注意
13. 廃棄上の注意適正な廃棄方法自治体ルール+SDS推奨方法
14. 輸送上の注意国連番号、容器規制大量購入時の参考
15. 適用法令該当する法律規制の有無確認
16. その他の情報参考文献、更新日最新版かどうか確認

SDSの入手方法

1. メーカー公式サイト

  • 多くの企業が製品ページにPDFで掲載

2. 化学物質総合情報サイト

  • NITE-CHRIP(製品評価技術基盤機構): https://www.nite.go.jp/chem/chrip/
  • 職場のあんぜんサイト(厚生労働省): https://anzeninfo.mhlw.go.jp/

3. 販売店への請求

  • 業務用化学品購入時は販売店に依頼可能

GHS絵表示の読み方

化学物質の危険性を一目で理解するための国際統一マーク(Globally Harmonized System):

絵表示意味該当する製品例
引火性物質パーツクリーナー、シンナー、ガソリン
円上の炎酸化性物質(燃焼促進)漂白剤、過酸化水素
どくろ急性毒性農薬、一部工業薬品
感嘆符刺激性・有害性洗剤、接着剤
腐食金属腐食性・皮膚腐食性塩酸、水酸化ナトリウム
健康有害性発がん性・生殖毒性・臓器毒性一部溶剤、農薬
環境水生環境有害性農薬、界面活性剤

※絵表示が多いほど危険度が高いわけではありません。各表示が示す具体的なリスクを理解することが重要です。

化学物質による事故の多くは、基本的な注意を守れば防げます。以下の原則を日常的に実践しましょう。

原則1: SDSを確認する

製品を購入する前、初めて使用する前に、必ずSDSまたは製品ラベルを確認。「知らずに使う」が最大のリスクです。

該当法規: 労働安全衛生法(事業場)、化管法

原則2: ラベルを読む

製品の容器には、成分・用途・使用方法・注意事項が記載されています。使用前に必ず読む習慣をつけましょう。

家庭用品品質表示法: 洗剤・漂白剤等には成分表示義務

原則3: 適量を守る

「多く使えば効果的」は誤解です。過剰使用は、すすぎ残し・皮膚刺激・環境負荷につながります。

濃縮洗剤の使いすぎに注意: 従来品の半分以下の量で十分。

原則4: 換気を徹底する

揮発性有機化合物(VOC)を含む製品は、必ず換気しながら使用。密閉空間での使用は中毒リスク大

  • パーツクリーナー、溶剤系接着剤、マニキュア、油性ペン等
  • 窓を開ける、換気扇を回す、屋外で使用

該当法規: 有機溶剤中毒予防規則(業務使用)

原則5: 混ぜない

化学反応は予測不能です。製品の混合は絶対に避ける

「混ぜるな危険」の化学:

  • 塩素系漂白剤(NaClO) + 酸性洗剤(HCl) → Cl₂(塩素ガス、猛毒)
  • 2NaClO + 2HCl → Cl₂↑ + 2NaCl + H₂O

天然由来の酸(クエン酸、食酢)も反応します

該当法規: 家庭用品品質表示法(表示義務)

原則6: 保護具を使う

肌に触れる、吸い込む、目に入る—これらのリスクを防ぐために適切な保護具を使用。

製品タイプ推奨保護具
強アルカリ/強酸(漂白剤、洗剤)ゴム手袋、保護メガネ
溶剤系製品(シンナー、パーツクリーナー)手袋、マスク(有機溶剤用)、保護メガネ
粉塵(セメント、トナー)防塵マスク、手袋
農薬長袖、手袋、マスク、保護メガネ

原則7: 専用容器で保管

飲料ボトルへの移し替えは絶対禁止。誤飲事故の最大原因です。

  • 灯油、洗剤、農薬等の移し替え事故多発
  • 子供・高齢者は容器の区別がつきにくい
  • 必ず元の容器、または専用容器で保管
  • ラベルが剥がれたら新たに記載

該当法規: 消防法、毒物及び劇物取締法

原則8: 子供・ペットから遠ざける

特に危険な製品:

  • 不凍液(エチレングリコール): 甘い味で誤飲多発、致死的
  • タバコの吸殻水: ニコチン中毒
  • ボタン電池: 誤飲で食道化学熱傷

原則9: 期限と劣化を確認

化学製品にも使用期限があります。

製品保管期限目安劣化のサイン
次亜塩素酸ナトリウム未開封1年、開封後3ヶ月塩素臭の減少、効果低下
化粧品未開封3年、開封後3ヶ月〜1年変色、分離、異臭
医薬品箱記載の期限変色、変形
接着剤未開封1〜2年固化、粘度変化

原則10: リスクと便益のバランスを考える

すべての化学物質には、用法・用量によってリスクとベネフィットがあります。

化学物質=危険、ではない:

  • 塩も過剰摂取で高血圧
  • 医薬品も副作用がある

重要なのは:

  1. ハザード(有害性): その物質が持つ潜在的危険性
  2. 暴露量: 実際にどれだけ体内に入るか
  3. リスク = ハザード × 暴露量

適切な使用量と方法を守れば、多くの化学製品は安全に使えます。


該当する主な法規制一覧

日本では、化学物質の製造・使用・廃棄に関して複数の法律で規制されています。

法律名目的規制対象
労働安全衛生法労働者の安全と健康確保事業場での化学物質取扱<br>SDS交付義務、作業環境測定
化審法(化学物質審査規制法)環境汚染防止新規化学物質の製造・輸入<br>難分解性・生物濃縮性物質の規制
化管法(化学物質排出把握管理促進法)化学物質の自主管理促進事業者による排出量届出<br>PRTR制度、SDS交付
毒物及び劇物取締法毒物・劇物の適正管理毒物(致死量が少ない)<br>劇物(比較的少量で有害)
消防法火災予防危険物(引火性・爆発性物質)の貯蔵・取扱
薬機法<br>(医薬品医療機器等法)医薬品・化粧品の品質・安全性化粧品、医薬部外品の製造・販売
食品衛生法食品の安全性確保食品添加物、残留農薬基準<br>食品用器具・容器包装
農薬取締法農薬の適正使用農薬の登録、使用基準
家庭用品品質表示法消費者の適切な商品選択洗剤・漂白剤等の成分・使用方法表示
廃棄物処理法廃棄物の適正処理産業廃棄物、特別管理産業廃棄物

製品ラベルやSDSに記載された法令を確認し、遵守しましょう。


洗浄剤・パーソナルケア製品

日常的に肌に触れる製品群です。適切な使用量と十分なすすぎが、安全使用の基本です。

衣類用洗剤・石けん

製品主成分化学式/構造特徴注意点
粉末洗剤界面活性剤(LAS等)<br>炭酸ナトリウム<br>酵素C₁₂H₂₅-C₆H₄-SO₃Na<br>Na₂CO₃洗浄力が高い<br>アルカリ性溶け残りに注意<br>手荒れリスク
液体洗剤非イオン界面活性剤<br>陰イオン界面活性剤ポリオキシエチレンアルキルエーテルすすぎやすい<br>中性〜弱アルカリ性使いすぎ注意<br>泡が残りやすい
粉石けん脂肪酸ナトリウムC₁₇H₃₅COONa生分解性◎<br>天然油脂由来硬水で洗浄力低下<br>金属石けん生成
柔軟剤陽イオン界面活性剤ジアルキルジメチルアンモニウム塩静電気防止<br>香り付け過剰使用で吸水性低下<br>香害の原因に

該当法規: 家庭用品品質表示法、化審法(化学物質審査規制法)

SDSチェックポイント:

  • 界面活性剤の種類と濃度
  • 蛍光増白剤の有無(赤ちゃん衣類には不要)
  • 酵素の種類(アレルギー体質の方は要確認)

シャンプー・ボディケア

製品主成分特徴使用上の注意
シャンプーラウレス硫酸Na<br>コカミドプロピルベタイン<br>シリコーン(ジメチコン)弱酸性でキューティクル保護<br>泡立ち良好すすぎ残しで頭皮トラブル<br>目に入った場合は即座に洗浄
ボディソープ界面活性剤複数ブレンド<br>保湿剤(グリセリン)弱酸性が主流<br>肌バリア保護固形石けんより洗浄力は穏やか<br>乾燥肌には保湿タイプ推奨
歯磨き粉リン酸水素Ca(研磨剤)<br>フッ化Na(NaF)<br>ラウリル硫酸Naフッ素で虫歯予防<br>研磨で汚れ除去フッ素濃度1000〜1500ppm推奨<br>子供用は低濃度配合
入浴剤硫酸ナトリウム<br>炭酸水素Na + クエン酸温浴効果<br>炭酸ガス発生で血行促進硫黄系は風呂釜を傷める<br>24時間風呂には使用不可

化学反応の例: 炭酸ガス発生
NaHCO₃ + C₆H₈O₇ → CO₂↑ + H₂O + Na₃C₆H₅O₇

該当法規: 医薬部外品(薬用表示がある場合)、化粧品(薬機法)


化粧品・スキンケア

スキンケア製品

製品主要成分化学式機能リスク管理
化粧水水、BG、グリセリンヒアルロン酸Na 防腐剤(パラベン)C₄H₁₀O₂ C₃H₈O₃保湿・pH調整防腐剤アレルギーの方は要確認 開封後3ヶ月推奨
乳液・クリームスクワラン ステアリン酸グリセリル ワセリンC₃₀H₅₀油分補給 バリア機能強化酸化防止剤確認 高温保管避ける
日焼け止め酸化チタン(TiO₂)<br>酸化亜鉛(ZnO)<br>メトキシケイヒ酸エチルヘキシル散乱剤:物理防御<br>吸収剤:化学防御SPF・PA値で選択 ナノ粒子は現在安全性確認済みこまめな塗り直し必須 海ではサンゴ礁への影響も考慮

該当法規: 医薬品医療機器等法(薬機法)、化粧品基準

メイクアップ製品

製品顔料・基剤化学組成特記事項
ファンデーション酸化チタン(白色)<br>酸化鉄(肌色調整)<br>マイカ(ツヤ)<br>タルク(滑らか)TiO₂、Fe₂O₃<br>KAl₂(AlSi₃O₁₀)(OH)₂<br>Mg₃Si₄O₁₀(OH)₂タルクはアスベスト混入リスクあり(国内品は検査済み)<br>古い製品は鉛含有の可能性
口紅有機合成色素<br>カルナウバワックス<br>ワセリンタール色素(赤○号等)アレルギー体質の方はパッチテスト推奨<br>コチニール色素は昆虫由来
マニキュアニトロセルロース<br>フタル酸エステル<br>酢酸エチル硝化綿<br>可塑剤<br>溶剤換気必須(VOC放出)<br>妊婦はフタル酸フリー製品推奨

パーマ液・ヘアカラーの化学:

  • パーマ1剤: チオグリコール酸(HSCH₂COOH)がシスチン結合(-S-S-)を切断
  • パーマ2剤: 臭素酸ナトリウム(NaBrO₃)で再結合
  • ヘアカラー: パラフェニレンジアミン+過酸化水素で酸化発色

重要: パラフェニレンジアミンはアレルギー性接触皮膚炎の原因物質。必ずパッチテスト実施。

該当法規: 薬機法、毒物及び劇物取締法(一部成分)


工業用・メンテナンス用品

※この分野の製品は必ずSDSを確認してから使用してください

洗浄・潤滑剤

製品名主成分用途危険性必須保護具
パーツクリーナーn-ヘキサン(C₆H₁₄)<br>石油系溶剤<br>LPG(噴射剤)機械部品の脱脂【第四類危険物】<br>極めて引火しやすい<br>吸入で神経障害保護メガネ<br>手袋<br>屋外使用
KURE 5-56鉱物油<br>石油系溶剤<br>防錆剤潤滑・防錆・浸透引火性<br>ゴム・プラ劣化火気厳禁<br>換気
リチウムグリース鉱物油+リチウム石鹸高負荷部の潤滑皮膚刺激(弱)手袋推奨
CRC(錆取り)リン酸(H₃PO₄)<br>有機酸錆の化学的溶解酸性・腐食性<br>皮膚・目刺激ゴーグル<br>ゴム手袋

化学反応: Fe₂O₃(錆)+ H₃PO₄ → FePO₄(リン酸鉄被膜、防錆)

該当法規: 消防法(危険物第四類)、労働安全衛生法

緊急時対応:

  • パーツクリーナー吸入 → 新鮮な空気の場所へ移動、意識確認、救急要請
  • 眼に入った場合 → 15分以上流水で洗浄、コンタクトは外す

不凍液

種類主成分化学式用途致死量
エチレングリコール系エチレングリコールHOCH₂CH₂OH自動車冷却水<br>凝固点-30℃成人50〜100mL<br>甘い味で誤飲多発
プロピレングリコール系プロピレングリコールCH₃CHOHCH₂OH食品工場<br>病院設備LD₅₀ 20g/kg(低毒性)

中毒症状: 吐き気→意識障害→腎不全(シュウ酸カルシウム結晶)

安全管理:

  1. 飲料ボトルでの保管厳禁(専用容器のみ)
  2. 子供・ペットの手の届かない場所に施錠保管
  3. こぼれた場合は即座に拭き取り、換気
  4. 交換廃液は産業廃棄物として処理(下水禁止)

該当法規: 毒物及び劇物取締法(特定劇物指定なし、ただし管理必要)


接着剤・塗料・筆記具

接着剤比較表

タイプ主成分硬化機序適材危険性
木工用ボンドポリ酢酸ビニル<br>(C₄H₆O₂)ₙ水分蒸発木材・紙・布安全性◎<br>食べても低毒性
瞬間接着剤シアノアクリレート<br>CH₂=C(CN)COOCH₃空気中の水分と重合金属・プラ・ゴム皮膚瞬間接着<br>蒸気刺激<br>綿と反応で発熱
エポキシエポキシ樹脂+硬化剤化学反応(2液混合)金属・ガラス・コンクリアレルギー性接触皮膚炎<br>皮膚感作性
ゴム系(溶剤型)ゴム+トルエン<br>C₇H₈溶剤蒸発靴・皮革【劇物指定】<br>シンナー中毒<br>引火性

トルエン中毒: 幻覚・中枢神経障害・肝腎障害
規制: 青少年への販売禁止(毒物及び劇物取締法、各自治体条例)

該当法規: 毒物及び劇物取締法、有機溶剤中毒予防規則(業務使用時)

塗料・絵の具

分類バインダー/溶剤顔料例注意点
水彩絵の具アラビアゴム+水酸化チタン(白)<br>群青(ウルトラマリン)<br>カドミウムイエロー※※古い絵の具は鉛・カドミウム含有<br>子供用はSTマーク確認
油絵の具アマニ油(乾性油)同上酸化重合で硬化<br>油ぼろの自然発火注意<br>溶剤(テレピン)は換気必須
アクリル絵の具アクリル樹脂同上水溶性だが乾燥後耐水<br>速乾性

自然発火メカニズム: 乾性油の酸化反応は発熱反応。油を含んだ布を丸めて放置すると熱がこもり、発火温度に達する。

該当法規: 化審法、家庭用品品質表示法

筆記具・修正液

製品溶剤/成分規制状況安全な使い方
油性マーカーキシレン(C₈H₁₀)<br>アルコール類トルエン含有品は規制強化換気<br>長時間使用避ける
修正液酢酸エチル<br>TiO₂(白色顔料)1,1,1-トリクロロエタンは使用禁止修正テープ推奨(溶剤不使用)
プリンタトナーポリエステル樹脂<br>カーボンブラック微粒子(PM2.5相当)カートリッジ交換時換気<br>粉塵吸入避ける

該当法規: 有機溶剤中毒予防規則(業務使用)、化審法


殺虫剤・農薬

家庭用殺虫剤

成分化学式作用機序対象人体への影響
ピレスロイドペルメトリン<br>C₂₁H₂₀Cl₂O₂昆虫の神経伝達阻害蚊・ゴキブリ・ダニ哺乳類は代謝速い(比較的安全)<br>魚類・両生類には猛毒
パラジクロロベンゼンC₆H₄Cl₂昇華性、忌避作用衣類の防虫長期吸入で肝腎障害<br>発がん性の疑い(動物実験)
フィプロニルGABA受容体阻害アリ・ゴキブリ神経毒性<br>蜜蜂への影響大

安全使用:

  • 室内使用後は必ず換気(30分以上)
  • ペット(特に魚・爬虫類)から遠ざける
  • 食品・食器にかからないよう注意
  • 子供・妊婦がいる家庭では使用量を最小限に

農薬

農薬名化学式用途論争点使用規制
グリホサートC₃H₈NO₅P除草剤<br>(ラウンドアップ等)IARC「発がん性の可能性」vs 各国規制当局「安全」使用基準遵守<br>散布後の侵入制限期間
ネオニコチノイドイミダクロプリド等殺虫剤ミツバチ大量死との関連疑いEU一部使用禁止<br>日本は基準内使用許可

残留農薬基準: 厚生労働省が食品ごとに設定(ADI:一日摂取許容量に基づく)

該当法規: 農薬取締法、食品衛生法、毒物及び劇物取締法


プラスチック・建材

プラスチック完全分類表

プラスチックは性能によって3つのグレードに分類されます。

汎用プラスチック(日用品向け、大量生産)

識別材質名構造式特徴主な用途環境問題
1 PETポリエチレンテレフタラート(C₁₀H₈O₄)ₙ透明性◎<br>ガスバリア性◎ペットボトル<br>衣類繊維リサイクル◎<br>マイクロプラ化
2 HDPE高密度ポリエチレン(C₂H₄)ₙ硬い<br>耐薬品性◎洗剤ボトル<br>灯油缶リサイクル◎
4 LDPE低密度ポリエチレン(C₂H₄)ₙ柔軟性◎<br>耐水性◎レジ袋<br>ラップフィルム海洋汚染深刻
5 PPポリプロピレン(C₃H₆)ₙ耐熱性◎(〜140℃)<br>耐薬品性◎食品容器<br>電子レンジ容器<br>自動車部品焼却時CO₂排出
6 PSポリスチレン(C₈H₈)ₙ透明性◎<br>加工容易食品トレー<br>CDケース<br>発泡スチロールリサイクル困難<br>スチレン溶出懸念
3 PVCポリ塩化ビニル(C₂H₃Cl)ₙ耐久性◎<br>難燃性水道管<br>電線被覆<br>クレジットカード燃焼でダイオキシン<br>可塑剤(フタル酸)溶出
ABSアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体衝撃強度◎<br>加工性◎家電外装<br>自動車部品<br>LEGOブロック耐候性△<br>紫外線で劣化

エンジニアリングプラスチック(機械部品向け、高性能)

材質名(略号)構造の特徴特性主な用途価格
ポリアミド(PA)<br>ナイロン6, ナイロン66アミド結合(-CONH-)による水素結合耐摩耗性◎◎<br>引張強度◎<br>吸湿性あり機械部品(ギア、ベアリング)<br>繊維(衣類、ロープ)<br>釣り糸汎用の2〜5倍
ポリカーボネート(PC)カーボネート結合<br>ビスフェノールA骨格耐衝撃性◎◎◎<br>透明性◎<br>耐熱性(〜140℃)光学レンズ<br>防弾ガラス<br>スマホケース<br>CD/DVD基板汎用の3〜6倍
ポリアセタール(POM)-C-O-C-結合の繰り返し耐摩耗性◎◎<br>寸法安定性◎◎精密ギア<br>ファスナー<br>ボールペン機構汎用の3〜5倍
変性PPE<br>(ポリフェニレンエーテル)芳香族エーテル耐熱性◎<br>電気絶縁性◎電子機器筐体<br>自動車内装汎用の4〜7倍
ポリブチレンテレフタラート(PBT)PETの改良版耐熱性◎<br>電気絶縁性◎電気コネクタ<br>自動車電装部品汎用の3〜5倍

ビスフェノールA(BPA)問題: PCの原料。内分泌攪乱物質の疑いで、乳幼児用品では使用規制。現在はBPAフリー製品が主流。

スーパーエンジニアリングプラスチック(過酷環境向け、超高性能)

材質名(略号)構造の特徴驚異的な特性用途(特殊分野)価格
PEEK<br>ポリエーテルエーテルケトン芳香族ケトン構造耐熱性◎◎◎(連続使用260℃)<br>耐薬品性◎◎◎<br>強度◎◎航空宇宙部品<br>医療インプラント<br>半導体製造装置汎用の50〜100倍
PTFE(テフロン)<br>ポリテトラフルオロエチレン-CF₂-CF₂-の繰り返し<br>フッ素で覆われた構造非粘着性◎◎◎<br>耐薬品性◎◎◎<br>摩擦係数最小フライパンコーティング<br>化学薬品配管<br>人工血管汎用の20〜50倍
PPS<br>ポリフェニレンサルファイド芳香族+硫黄結合耐熱性◎◎(連続使用200℃)<br>難燃性◎◎自動車エンジン周辺<br>電気部品汎用の30〜60倍
ポリイミド(PI)イミド環構造耐熱性◎◎◎(連続使用300℃)<br>電気絶縁性◎◎フレキシブル基板<br>宇宙服素材汎用の100倍以上
液晶ポリマー(LCP)分子が液晶配列寸法精度◎◎◎<br>薄肉成形可能スマホ内部アンテナ<br>医療カテーテル汎用の40〜80倍

該当法規: 化審法、廃棄物処理法、容器包装リサイクル法、食品衛生法(食品接触材)

マイクロプラスチック: 5mm以下のプラスチック片。洗濯(合成繊維)や摩耗で発生、海洋生物が誤食し食物連鎖に蓄積。2024年WHO報告では人体への影響はまだ不明だが、研究継続中。


金属材料:用途別分類

金属は使用環境と求められる性能で選択されます。

構造用金属(建築・土木・機械の骨格)

金属化学記号特性主な用途腐食と対策
鉄鋼(炭素鋼)Fe + C(0.02〜2%)強度◎<br>安価◎建築鉄骨<br>橋梁<br>自動車ボディ錆びやすい<br>4Fe + 3O₂ → 2Fe₂O₃<br>対策:塗装、メッキ
ステンレス鋼Fe + Cr(10〜20%)+ Ni耐食性◎◎<br>強度◎キッチンシンク<br>医療器具<br>建築外装不動態皮膜で保護<br>塩分で孔食発生に注意
アルミニウム合金Al + Mg/Si/Cu軽量◎◎<br>加工性◎航空機<br>飲料缶<br>サッシ酸化皮膜(Al₂O₃)で自己保護<br>強酸・強アルカリに弱い
チタン合金Ti + Al/V軽量◎<br>耐食性◎◎◎<br>生体適合性◎航空宇宙<br>医療インプラント<br>高級腕時計ほぼ錆びない<br>加工困難で高価

電気・電子用金属(導電性・放熱性)

金属電気伝導率主な用途特記事項
銅(Cu)100%(基準)電線<br>配管<br>PC基板緑青(Cu₂CO₃(OH)₂)は無毒<br>抗菌作用あり
銀(Ag)106%高級電線<br>電気接点最高の導電率<br>高価
金(Au)70%電子部品<br>コネクタ錆びない◎<br>接点信頼性◎
アルミニウム61%送電線<br>放熱板軽量で安価<br>銅より太い線が必要

機能性金属(特殊用途)

金属化学記号特殊機能用途リスク
鉛(Pb)Pb重い<br>放射線遮蔽放射線防護エプロン<br>蓄電池(鉛バッテリー)有毒<br>神経毒性<br>使用規制強化
水銀(Hg)Hg常温で液体<br>電気伝導性蛍光灯(微量)<br>体温計(旧型)猛毒<br>水俣病の原因<br>現在は使用禁止多数
タングステン(W)W融点最高(3422℃)電球フィラメント<br>切削工具加工困難
コバルト(Co)Co磁性◎<br>耐熱性◎リチウムイオン電池<br>超合金(ジェットエンジン)希少金属<br>採掘に人権問題
ニッケル(Ni)Ni耐食性◎<br>磁性メッキ<br>ステンレス添加元素金属アレルギーの主原因

貴金属・装飾用金属

金属特性用途純度表示
金(Au)変色しない<br>展延性◎宝飾品<br>歯科材料24K(純金)、18K(75%)、14K(58%)
銀(Ag)光沢◎<br>加工性◎食器<br>宝飾品925(スターリングシルバー、92.5%)
白金(Pt)化学的安定性◎◎宝飾品<br>触媒(自動車排ガス)Pt950(95%)、Pt900(90%)

合金

合金は複数の金属を混ぜて性能を向上させた材料です。

合金名組成特性向上用途
真鍮(黄銅)Cu(60〜70%)+ Zn加工性◎<br>金色光沢金管楽器<br>仏具<br>5円玉
青銅(ブロンズ)Cu(90%)+ Sn(10%)強度◎<br>耐食性◎銅像<br>10円玉
ジュラルミンAl + Cu + Mg軽量+高強度航空機
はんだSn + Pb(従来)<br>Sn + Ag + Cu(鉛フリー)低融点(融接)電子基板

該当法規: 金属材料規格(JIS)、建築基準法、RoHS指令(鉛・水銀等の規制)


建材

材料化学組成用途リスク
陶器カオリナイト Al₂Si₂O₅(OH)₄<br>長石 KAlSi₃O₈食器古い釉薬は鉛溶出の可能性
ガラスSiO₂+Na₂O+CaO窓・容器非晶質固体<br>化学的安定性◎
セメント3CaO·SiO₂<br>2CaO·SiO₂コンクリート強アルカリ(pH12)<br>六価クロムでアレルギー性皮膚炎

水和反応: セメント+水 → ケイ酸カルシウム水和物(C-S-H)→ 硬化

該当法規: 建築基準法、食品衛生法(食器)

室内空気汚染物質(VOC・ホルムアルデヒド・ラドン)

見えない、においがわからない—だからこそ注意が必要な室内化学物質です。

ホルムアルデヒド

化学式: CH₂O(HCHO)

特性:

  • 無色の気体
  • 刺激臭(わずかに甘酸っぱい臭い)
  • 常温で揮発性が非常に高い(VVOC:超揮発性有機化合物)
  • 水溶液(37%)はホルマリンと呼ばれる

発生源

場所・製品含有理由放散期間
合板・パーティクルボード接着剤(ユリア系、メラミン系、フェノール系樹脂)10年以上継続
壁紙用接着剤防腐剤として添加数年
新しい家具表面材の接着剤1〜3年
フローリング接着剤・塗料5〜10年
繊維製品(カーテン・カーペット)防縮・防しわ加工洗濯で減少
タバコの煙燃焼生成物喫煙時
暖房器具の不完全燃焼燃焼生成物使用時

健康への影響

濃度症状
0.08ppm(厚労省指針値)長期暴露の安全基準
0.1〜0.5ppm目・鼻・喉の刺激、涙、くしゃみ
0.5〜1.0ppm咳、吐き気、頭痛
1.0ppm以上呼吸困難、皮膚炎
長期高濃度暴露鼻咽頭がん(IARC: グループ1発がん性物質)<br>喘息、化学物質過敏症

シックハウス症候群との関係: ホルムアルデヒドは目や鼻、喉の粘膜を刺激し、シックハウス症候群の原因となる代表的な物質です。

規制と対策

規制内容
建築基準法改正(2003年)ホルムアルデヒド発散建材の使用制限<br>換気設備設置義務<br>室内濃度基準: 0.1mg/m³(0.08ppm)以下
F☆☆☆☆(エフ・フォースター)JIS・JAS規格の最高等級<br>発散量が最も少ない建材(使用面積制限なし)
家庭用品規制法繊維製品: 75ppm以下<br>乳幼児用(24ヶ月以下): 16ppm以下

該当法規: 建築基準法、家庭用品規制法、労働安全衛生法


VOC(揮発性有機化合物)

定義: 常温で揮発しやすい有機化合物の総称(100種類以上)

代表的なVOC一覧

物質名化学式主な発生源健康影響厚労省指針値
トルエンC₇H₈塗料、接着剤、マニキュア、シンナー中枢神経抑制、頭痛、めまい0.07ppm
キシレンC₈H₁₀塗料、接着剤、ガソリン頭痛、めまい、吐き気0.20ppm
エチルベンゼンC₈H₁₀塗料、接着剤目・鼻の刺激、肝腎障害0.88ppm
スチレンC₈H₈ポリスチレン断熱材、FRP浴槽中枢神経抑制、粘膜刺激0.05ppm
パラジクロロベンゼンC₆H₄Cl₂防虫剤、芳香剤肝腎障害、発がん性の疑い0.04ppm
テトラデカンC₁₄H₃₀灯油、塗料化学物質過敏症の原因に0.04ppm
フタル酸ジ-2-エチルヘキシルC₂₄H₃₈O₄壁紙・床材の可塑剤内分泌攪乱、生殖毒性0.12ppm

複合的な健康影響: VOCのほとんどが神経に異常をきたす物質であり、目、皮膚、粘膜から吸収される特性があります。

対策:

  • 新築・リフォーム後は数ヶ月間、毎日換気
  • 低VOC塗料・接着剤の選択
  • 家具購入後は屋外で「ガス抜き」してから搬入
  • 芳香剤・防虫剤の過剰使用を避ける

該当法規: 建築基準法、大気汚染防止法、化管法

その他の注意すべき化学物質

内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)

ホルモンの働きを乱す化学物質の総称。約70種類がリストアップされています。

物質名主な用途懸念される影響
ビスフェノールA(BPA)ポリカーボネート樹脂<br>エポキシ樹脂の原料エストロゲン様作用<br>生殖機能への影響
フタル酸エステル類PVC製品の可塑剤生殖毒性<br>精子数減少
ノニルフェノール界面活性剤女性ホルモン様作用
DDT、PCB旧農薬・絶縁油(現在禁止)生物濃縮<br>発がん性

対策:

  • 乳幼児用製品はBPAフリー製品を選択
  • プラスチック容器の電子レンジ加熱を避ける
  • フタル酸フリーの製品を選ぶ

アスベスト(石綿)

化学組成: 天然の鉱物繊維(ケイ酸塩鉱物)

特徴:

  • 耐熱性・耐薬品性・絶縁性に優れる
  • 極めて細い繊維(髪の毛の1/5000)

使用歴:

  • 建材(スレート屋根、外壁材、断熱材): 2006年全面禁止
  • ブレーキパッド、ガスケット: 現在は代替品

健康被害:

  • 潜伏期間20〜50年
  • 肺がん、悪性中皮腫、石綿肺

注意: 2006年以前の建物の解体・リフォーム時は専門業者に依頼必須。自分で壊さない。

該当法規: 石綿障害予防規則、大気汚染防止法、廃棄物処理法

まとめ:知識は最良の防御

化学物質は現代生活に不可欠です。問題は「使うか使わないか」ではなく、「どう使うか」です。

本記事で紹介した化学物質の性質、SDSの見方、10の原則を実践することで、あなたと家族を化学物質による事故から守ることができます。

今日からできる3つのアクション:

  1. 家にある化学製品のラベルを読む
  2. よく使う製品のSDSをメーカーサイトで確認し、保存する
  3. 「混ぜるな危険」の製品を確認し、保管場所を離す

化学の知識は、恐怖ではなく安心をもたらします。正しく理解し、賢く使いましょう。


参考リンク:


免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の化学製品の使用を推奨・非推奨するものではありません。実際の使用にあたっては、必ず製品のラベル・SDSを確認し、メーカーの指示に従ってください。緊急時は専門機関(119番、中毒情報センター等)にご相談ください。

界面活性剤と洗剤の科学

水と油は本来混ざり合いません。この「混ざらない」という性質こそが、汚れが落ちにくい根本原因です。界面活性剤は、一つの分子の中に水になじむ部分(親水基)と油になじむ部分(疎水基)を同時にもつ、いわば“橋渡し役”の分子です。

疎水基が油汚れに結合し、親水基が水側を向くことで、汚れはミセルという集合体に包まれます。こうして油は水中に分散され、物理的に洗い流せる状態になります。洗剤の本質は「汚れを消す」ことではなく、「移動可能な形に変える」ことにあります。

社会人にとって重要なのは、洗浄力だけでなく用途適合性、肌への影響、すすぎ残り、排水への影響まで含めて製品を選ぶ視点です。濃縮洗剤の過剰使用や柔軟剤の多用は、香害や吸水性低下など別の問題を引き起こします。


石鹸と合成洗剤は、どちらも界面活性剤ですが設計思想が異なります。石鹸は天然油脂由来で生分解性が高い一方、硬水では金属石鹸が生成して洗浄力が落ちます。合成洗剤は水質に左右されにくく、低温でも安定した性能を発揮するよう分子設計されています。


アルコール消毒の正しい知識

アルコール(エタノール)は、細菌の細胞膜やウイルスのエンベロープといった脂質構造を破壊し、内部のタンパク質を変性させます。この二重作用により消毒効果が発揮されます。

最適濃度は70〜80%です。100%に近いと蒸発が早く、内部まで浸透しにくくなります。アルコールは万能ではなく、ノロウイルスや芽胞菌には効果が限定的です。引火性や手荒れ、誤飲リスクといった安全面も含め、用途と限界を理解した使用が求められます。


次亜塩素酸製品の安全な使い方

次亜塩素酸ナトリウムは強力な酸化剤で、殺菌と漂白の両方に作用します。一方で強アルカリ性であり、皮膚や金属への影響が大きい物質です。次亜塩素酸水とは性質も用途も異なるため、混同は危険です。

家庭での自己流希釈は濃度管理が難しく、事故の原因になります。必ず専用製品を用い、換気・手袋・保管条件といった基本を守ることが重要です。


「混ぜるな危険」と家庭内化学事故

塩素系製品と酸性製品が反応すると、塩素ガスという猛毒が発生します。これは単なる注意喚起ではなく、化学反応そのものの結果です。天然由来の酸(食酢やクエン酸)でも同じ反応が起きます。


金属の腐食と住環境

錆は金属が酸素と水と反応する酸化反応です。防ぐ方法は、反応物を遮断する、別の金属に先に反応させる(犠牲防食)、合金化して反応しにくくする、の三系統に整理できます。

ステンレスは錆びない金属ではなく、錆びにくい設計が施された材料です。環境条件次第では腐食が起こるため、過信せず管理する視点が必要です。


高分子材料と生活製品

高分子は、小さな分子が鎖状につながった巨大分子です。結合の仕方や鎖の絡まり具合によって、柔らかさも硬さも自在に設計できます。衣料、医療、建材に至るまで、高分子は現代生活の基盤材料です。生分解性やバイオマスといった新技術も、万能ではなく条件付きで成立する点を理解する必要があります。

プラスチックと環境問題

プラスチックは軽量で耐久性が高い一方、分解されにくいという特性を持ちます。マイクロプラスチックは、使用と廃棄の結果として生じる“設計外の副産物”です。


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