スマホやPCはどう動いている?身近なインフラ「コンピュータ」の仕組みと進化

科学のしくみ

私たちの日常に完全に溶け込み、今やなくてはならないインフラとなった「コンピュータ」。スマートフォンでの何気ないワンクリックが、世界の向こう側のシステムを瞬時に動かしています。では、この手元の小さなデバイスは、いったいどのような仕組みで複雑な処理を行っているのでしょうか?「パソコンやスマホが動く原理を知りたい」「半導体やノイマン型といった言葉の全体像をつかみたい」と感じている方も多いはずです。本記事では、真空管やトランジスタといった構成パーツから、シリコンと不純物制御にみる科学的原理、そして五大装置やノイマン・ボトルネックなどのシステム全体の構造をひとつなぎにして俯瞰します。

シリーズについて

本サイトのメインテーマは「暮らしの背後にある仕組みを読み解く」こと。中学・高校理科の知識をベースに、特定の専門に偏らず、物事の骨子を見抜く力を養います。記事は「歴史的背景」「科学的原理」「フィールド(実社会での応用)」の3層構造で構成しています。「なぜそうなったか」「どんな仕組みか」「現実で何が見えるか」。この3視点を揃えることで、断片的な知識を「線や面」へとつなげ、社会を生き抜くための判断の源泉を提供します。


スイッチをつくる要素

コンピュータは、究極的には「スイッチの塊」です。1940年代の初期のリレー式計算機は、電気で動くスイッチのオンとオフを組み合わせて計算を行っていました。リレー、真空管、トランジスタは、形は違っても、突き詰めれば「電気のオンとオフを切り替える装置」です。

リレーのような機械式のスイッチでは、毎秒数千回といった高速の切り替えができません。そこで20世紀前半に、電気の力で高速に切り替えられる装置として真空管が登場しました。ENIACなどの初期の巨大なコンピュータは真空管で作られていましたが、熱を持ち、壊れやすいという大きな弱点がありました。この弱点を克服したのが、1947年に発明されたトランジスタです。真空の中で電子を飛ばすのではなく、固体の中で電子を動かすことで、小型化、省電力化、高速化を実現しました。これが現代のコンピュータの基礎となっています。

トランジスタを極限まで小さく作り、微細な配線で結んだものがIC(集積回路)で、その発展形がコンピュータの頭脳であるCPUです。CPUの進化を語るうえで欠かせないのが、回路の線幅の微細化です。1970年代初めのCPUの線幅は約10マイクロメートル(μm)でしたが、現代では、その1000分の1以下にあたる「数ナノメートル(nm)級」と呼ばれる技術にまで進みました。なお、この「数nm」は製造技術の世代を表す呼び名で、実際の寸法そのものではありません。集積回路上のトランジスタの数は、およそ2年で倍増するという経験則があり、これをムーアの法則といいます。線幅が細くなると、同じチップ面積により多くのトランジスタを置けるため、処理能力が向上してきたのです。

半導体とトランジスタ

ここまで何度も出てきたトランジスタは、半導体という物質でできています。半導体とは、電気をよく通す「導体」と、ほとんど通さない「絶縁体」の中間の性質を持つ物質で、CPUには主にシリコンが使われます。銅のような導体は電線には最適ですが、電気的に素早く制御することはできません。逆にゴムのような絶縁体は電気をほとんど通さないため、電流を流す用途には使えません。

純粋なシリコンは電気をほとんど通しませんが、リンやホウ素などの不純物をごく微量加える「ドーピング」を行うと、電気の通りやすさを調整できるようになります。さらに、ドーピングした半導体を組み合わせ、外部から電圧をかけて電流の通り道を作ったり閉じたりする構造をつくれば、電流を自在に「流す」「止める」ことができます。この構造が、動く部品を持たない超高速の電気スイッチ、トランジスタです。代表的なMOSFETでは、「ゲート」という電極に電圧をかけると電流の通り道ができ、電圧を切ると通り道がふさがれます。この「オン」と「オフ」を「1」と「0」に対応させて、コンピュータは情報を表します。

しかし、スイッチとして使うかぎり、避けられない問題が発熱です。電流が流れると、配線やトランジスタの抵抗によって熱が発生します。特に大きいのは、スイッチを切り替えるたびに内部の微小な容量を充電・放電する際に消費される電力と、オフのはずのトランジスタから微量の電流が漏れる「リーク電流」です。そのため、切り替えの回数が多く、動作が速いほど、発熱は大きくなります。熱がこもりすぎると、動作が不安定になったり、性能を自動的に落とす「サーマルスロットリング」が起きたり、最悪の場合は故障につながります。このため、ヒートシンクや冷却ファン、水冷などでチップをいかに効率よく冷やすかが、現代の高性能化における大きな課題となっています。

では、この小さなスイッチを大量に組み合わせて、どのように計算を行うのでしょうか。次の章で、その全体のしくみを見ていきます。

コンピュータのしくみ

シーケンス制御との比較

コンピュータの特徴をつかむために、まず、あらかじめ定められた順序どおりに機械を動かすシーケンス制御と比べてみましょう。シーケンス制御は、リレーや配線をその目的に合わせて組み立て、「こうなったら、次にこうする」という論理そのものを物理的な回路として固定しています。回路図そのものが仕事の手順を記憶している状態で、別の仕事をさせたいときは配線を作り直さなければなりません。その代わり、一つの仕事に特化していて動作が単純なため、確認しやすく信頼性が高く、今も多くの現場で使われています。なお現在では、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)のように、プログラムで手順を書き換えられるものも広く使われています。ただしPLCは中身がコンピュータの一種なので、ここでは配線で手順を固定した従来の方式を指しています。

プログラム内蔵方式とノイマン型

これに対してコンピュータは、仕事の手順を、メモリという記憶場所にしまっておく方式で動きます。手順は「命令」という小さな指示を順に並べたもの(プログラム)で、計算に使う数字や文字などのデータと同じように、0と1の並びとしてメモリに置かれます。この方式を「プログラム内蔵方式」といい、この方式で作られたコンピュータを、考え方を整理した数学者ジョン・フォン・ノイマンの名にちなんで「ノイマン型」と呼びます。現在のパソコンやスマートフォンは、基本的にこのノイマン型です。

命令もデータも同じ0と1の並びなので、同じメモリに置け、読み込みも入れ替えも同じ手順でできます。手順が配線ではなく記憶なので、メモリの中身を入れ替えるだけで、ハードウェアを作り変えることなく、ゲームや表計算、通信といった異なる動作をさせることができます。なお、CPUが直接理解できるのは「機械語」と呼ばれる0と1の命令だけです。人が書くプログラミング言語は、コンパイラなどによって機械語に変換されます。

五大装置

ノイマン型のコンピュータは、大きく5つの装置で構成されます。演算を行う「演算装置」、全体の動きを指揮する「制御装置」、プログラムとデータを記憶する「記憶装置(メモリ)」、外部からの入力を受け取る「入力装置」、結果を外へ出す「出力装置」です。このうち演算装置と制御装置をまとめたものがCPUです。入力装置にはキーボードやマウス、出力装置にはディスプレイなどがあたります。また、SSDやHDDのようなストレージは、電源を切っても内容が残る「補助記憶装置」で、作業中のプログラムとデータを置くメモリ(主記憶)とは役割が異なります。

命令の実行

CPUは、メモリから命令を一つ取り出し(フェッチ)、その内容を解読し(デコード)、実行する、という手順を、途方もない速さで繰り返します。次に取り出す命令の場所は「プログラムカウンタ」という部品が覚えており、通常は一つずつ進みますが、実行の結果によって別の場所へ飛ぶこともできます。これが「条件分岐」で、「この値が10より大きければこちらの手順、そうでなければあちらの手順」といった判断をプログラムとして自由に書けます。シーケンス制御も条件を扱えますが、その条件と手順を配線で固定するのではなく、記憶されたプログラムとして書き換えられる点が大きく異なります。

汎用性の代償

ただし、この汎用性には代償もあります。ソフトウェアの不具合(バグ)が起こりうることや、特定の仕事に特化した専用回路と比べると、処理が遅くなったり電力を多く使ったりしやすいことです。

さらに、ノイマン型には構造上の限界もあります。命令もデータも、CPUとメモリをつなぐ同じ通り道(バス)を通るため、CPUがどれだけ速くても、メモリとのやり取りが速度の足かせになるのです。これを「ノイマン・ボトルネック」といいます。この限界をやわらげるために、CPUの近くには、小さくて高速な「キャッシュメモリ」が置かれ、よく使う命令やデータを一時的に手元に保管しています。

このように、それぞれに長所と短所があるため、単純で確実さが求められる場面ではシーケンス制御、多様な仕事をこなす場面ではコンピュータと、目的に応じて使い分けられています。

ここまでで全体のしくみを見てきたので、次の章では、五大装置のそれぞれの中身を見ていきます。

各装置の中身

CPU

CPUの中では、膨大な数のトランジスタが組み合わされ、その切り替えによって、AND、OR、NOTといった基本的な論理演算を行う回路が作られています。この論理演算の回路を組み合わせることで、加減算などの算術演算も実現しています。すべての動作は、水晶発振子の信号をもとに作られるクロック信号に同期して行われ、1秒間に数十億回というペースで進みます。

CPUの性能を示す代表的な指標は、このクロックを1秒間に何回刻めるかを表す「クロック周波数」(単位はGHzで、1GHzは1秒間に10億回)と、演算を行う中核部分の数である「コア数」です。コアが多いほど、複数の処理を同時にこなせます。ただし、実際の性能は設計(アーキテクチャ)やキャッシュの容量にも左右されるため、この2つだけでは決まりません。

メモリ

メモリもCPUと同様に、シリコン基板上に形成された半導体集積回路ですが、記憶の仕組みはCPUとは異なります。主記憶に使われるDRAMの記憶セルは、コンデンサに電荷が蓄えられている状態を「1」、放電されている状態を「0」としてデータを保持します。しかし、コンデンサはごく微小なため、蓄えた電荷が時間とともに自然に漏れ出してしまいます。そのため、データが消える前に、数十ミリ秒ごとという短い周期で書き戻す「リフレッシュ動作」を、電源が入っている間ずっと繰り返す必要があります。電源を切ると内容が失われるのも、このためです。

ストレージ

ストレージには、動作原理の異なる2つの方式があります。SSDは、シリコン半導体を用いたフラッシュメモリと、それを制御するコントローラーで構成されています。記憶セルの内部では、絶縁膜で囲まれた小さな部屋に電子を注入したり引き抜いたりし、電子が閉じ込められているかどうかで「1」と「0」を記憶します。絶縁膜に囲まれているため、電源を切っても電子はその場にとどまり、長期の記憶を実現しています。

HDDは、ガラスなどで作られた円盤の表面に磁性体を薄く塗ったものを記録媒体とします。その上を浮上する磁気ヘッドが、電流によって磁界を発生させ、磁性体の磁化の向き(N極・S極)を反転させることで、「1」と「0」を記憶します。磁化の向きは物理的な状態として保たれるため、電源を切ってもデータは消えません。

不具合の影響

コンピュータは一つのシステムであり、いずれかの部品の性能が極端に低かったり、故障していたりすると、全体の動作に支障をきたします。CPUが故障した場合は、演算を行う頭脳が機能しないため、システムは起動しません。完全に壊れていなくても、性能が足りなければ、反応が返ってくるまでに深刻な遅延が発生します。メモリが不足した場合は、同時に処理できるプログラムが制限され、動作が極端に遅くなって、フリーズしたような状態に陥ります。ストレージの容量が不足したり速度が遅かったりすると、OSの起動やアプリケーションの読み込みに膨大な時間がかかるようになります。

見落とされがちなのが、マザーボードや配線の影響です。経年劣化や接触不良によって物理的な接続に問題が生じていると、たとえ最高性能のCPUやメモリを搭載していても、部品間でデータをやり取りする「道路」にあたる部分が狭くなり、本来の性能を発揮できなくなります。

このように、特定のパーツだけを高性能にする、いわゆる「一点豪華主義」は、全体の性能向上には必ずしもつながりません。コンピュータの性能を最大限に引き出すには、すべての要素が互いのボトルネックにならないよう、システム全体としてバランスよく設計されていることが不可欠です。

将来のコンピュータ

世界中で、次世代のコンピュータ技術の研究が進められています。光のコンピュータは、電子の代わりに「光子」を使って情報伝達や演算を行う技術です。電子が電線を流れる際には、電気抵抗による発熱や信号の遅延が生じますが、光ではそれを大きく抑えられるため、発熱が少なく、高速に大量のデータを扱えると期待されています。通信の分野ではすでに光ファイバーが主流ですが、これをチップ内部の配線や演算にまで持ち込むことで、省電力で高速なコンピュータの実現が目指されています。

量子コンピュータは、従来の「0か1か」の2つの状態(ビット)ではなく、「0と1の両方の状態を重ね合わせる」量子ビットを使います。これにより、特定の種類の問題では、従来のスーパーコンピュータでは途方もない時間がかかる計算を、はるかに短い時間で解ける可能性があります。一方で、現在の暗号を解読できてしまうのではないかという懸念も指摘されており、対策の研究も進んでいます。

人間の脳の仕組みにヒントを得た「脳型コンピュータ」というアプローチもあります。人間の脳は、電球一個分ほど(約20ワット)のわずかな電力で、複雑な認識や判断を驚異的な効率で行っています。これに対して、現代の大規模なデータセンターやGPUは、膨大な電力を消費し、強力な冷却設備をフル稼働させなければ維持できません。脳型コンピュータは、脳のように、記憶と演算を近い場所で行い、必要なときだけ動作する仕組みを取り入れることで、こうした電力の壁を越えることを目指しています。

編集後記

おわりに

最後までお読みいただき、ありがとうございました。本記事を通じて、暮らしの背後にある仕組みを読み解くヒントは得られましたでしょうか。もし「このテーマをもっと深く知りたい」と感じていただけましたら、ぜひ関連の解説記事もあわせてご覧ください。

本サイトではトピックをできるだけ「歴史・科学・フィールド」の3層構造で体系化しています(教育とキャリアを除く)。一つの事象を多角的に捉えることで、断片的な知識を「線や面」へとつなげることができます。多彩なテーマを用意していますので、ぜひサイト内の記事一覧から、あなたの知的好奇心を刺激するトピックを覗いてみてください。


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この記事を書いた人
イカノフ

博士・電気主任技術者・エネルギー管理士・環境計量士、技術士補(生物)ほか)
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