情報があふれる現代では、「もっともらしい説明」や「数字付きの主張」に惑わされやすくなっています。本稿では、相関と因果の違い、論理の落とし穴、デマや誇張情報の見分け方を通して、情報を鵜呑みにせず自分の頭で考えるための批判的思考の基本を解説します。
騙されないために考える力―批判的思考と情報の見極め方
「アイスクリームの売上が増えると、水難事故が増える」というデータがあります。では、アイスクリームを食べると溺れやすくなるのでしょうか?
もちろん違いますよね。夏になると、アイスも売れるし、海やプールに行く人も増える。だから両方とも増えるのです。
このように、二つのことが同時に起きても、必ずしも一方が原因とは限りません。でも、世の中にはこういう勘違いだらけです。テレビ、ネット、広告、政治家の演説…至るところに、よく考えないと気づかない論理の罠があります。
今回は、情報を正しく評価し、騙されないために必要な「批判的思考」について学びましょう。「批判的」とは「文句をつける」ことではなく、「よく考える」ということです。
1. 相関と因果―一緒に起きることと、原因・結果は違う
相関関係って何?
「相関関係」とは、二つのことが連動して変化することです。
- 気温が上がると、アイスの売上も上がる
- 勉強時間が増えると、テストの点数も上がる
- 身長が高い人は、体重も重い傾向がある
これらは相関関係です。一方が変わると、もう一方も変わります。
因果関係って何?
「因果関係」とは、一方が原因で、もう一方が結果という関係です。
- タバコを吸う → 肺がんのリスクが上がる(因果関係)
- 勉強する → 知識が増える(因果関係)
- 水を飲まない → 脱水症状になる(因果関係)
因果関係には方向があります。原因があって、結果があるのです。
相関関係は因果関係ではない
ここが重要です。二つのことが一緒に起きても、原因と結果とは限りません。
冒頭のアイスと水難事故の例のように、別の要因(夏という季節)が両方を引き起こしているのかもしれません。あるいは、単なる偶然かもしれません。
身近な例:神社でのお祈り
「受験前に神社でお参りした人は、合格率が高い」というデータがあったとします。だから、神社にお参りすれば合格できるでしょうか?
もしかしたら、「神社にわざわざお参りに行く人」は、それだけ真剣に受験に取り組んでいる人かもしれません。真面目に勉強もしているから、合格率が高いのかもしれません。
この場合、「真剣さ」という第三の要因が、「お参り」と「合格」の両方を引き起こしている可能性があります。
逆の因果関係かも
時には、原因と結果が逆のこともあります。
例:消防車と火事の被害
「消防車がたくさん来た火事は、被害が大きい」というデータがあります。では、消防車が来ると火事の被害が大きくなるのでしょうか?
もちろん違います。逆です。火事の被害が大きいから(原因)、消防車がたくさん来る(結果)のです。
笑い話のようですが、データだけ見て、原因と結果を取り違えることは意外とよくあります。
第三の要因が隠れている
多くの場合、見えない第三の要因が両方を引き起こしています。
例1:コーヒーと心臓病
ある研究で「コーヒーをたくさん飲む人は心臓病が多い」というデータが出ました。コーヒーは体に悪いのでしょうか?
さらに調べると、コーヒーをたくさん飲む人は、喫煙者が多いことがわかりました。タバコが心臓病の原因で、コーヒーは関係なかったのです。
「喫煙」という第三の要因が隠れていました。
例2:学歴と収入
「大学を出た人は収入が高い」というデータがあります。だから、大学に行けば収入が上がるでしょうか?
これは部分的には正しいですが、他の要因もあります。大学に行ける人は、もともと家庭が裕福だったり、本人が能力が高かったり、人脈があったりするかもしれません。
「大学教育」だけが収入の原因ではなく、「家庭環境」「本人の能力」「社会的つながり」など、複数の要因が絡んでいます。
因果関係を確かめる方法
では、どうすれば因果関係を確かめられるでしょうか?
ランダム化比較試験
最も確実な方法は、「ランダム化比較試験」です。
新しい薬の効果を確かめるとき:
- 患者さんをランダムに二つのグループに分けます
- 一方には新薬を、もう一方には偽薬(プラセボ)を与えます
- 他の条件は全部同じにします
- 結果を比べます
これで、新薬だけの効果が測定できます。
でも、この方法は薬の試験ではできても、多くのことには使えません。「大学教育の効果」を調べるために、ランダムに半分の人だけ大学に行かせるわけにはいきませんよね。
他の方法:丁寧な観察と分析
完璧な実験ができないときは、丁寧に他の要因を調整します。
「大学教育の効果」なら:
- 家庭の収入が同じ人で比較する
- 高校の成績が同じ人で比較する
- 地域が同じ人で比較する
こうやって、他の要因の影響をなるべく除いて、「大学教育だけの効果」を推定します。
日常で気をつけること
ニュースや広告で「Aをすると Bになる」という主張を見たら、こう考えましょう:
- 本当に因果関係? 単に一緒に起きているだけでは?
- 逆ではない? BがAの原因では?
- 第三の要因は? 両方を引き起こす別の要因があるのでは?
- どうやって確かめた? ちゃんとした実験やデータがある?
2. 論理的推論―正しい考え方、間違った考え方
類推(アナロジー)の力と限界
「類推」とは、似た例を使って説明することです。
良い類推の例
「原子は太陽系に似ている。原子核が太陽で、電子が惑星のように回っている」
これは理解を助ける良い類推です。原子の構造がイメージしやすくなります。
悪い類推の例
「社会は人間の体に似ている。だから、社会に悪い人がいたら、がん細胞のように切除すべきだ」
これは危険な類推です。人間と社会は違います。この論理で「悪い人を排除しよう」と主張するのは、恐ろしい結論に繋がります。
類推は、理解を助けるときは便利ですが、それだけで結論を導くのは危険です。
必要条件と十分条件の混同
この混同は、とてもよくある間違いです。
必要条件:それがないと成り立たない条件 十分条件:それがあれば必ず成り立つ条件
例で考えましょう。
例:雨とぬれた地面
- 「雨が降る」は「地面がぬれる」の十分条件です(雨が降れば必ず地面はぬれる)
- でも、必要条件ではありません(雨が降らなくても、水まきで地面はぬれる)
逆に:
- 「地面がぬれている」は「雨が降った」の必要条件ではありません
- 「地面がぬれている」から「雨が降った」とは断定できません
身近な間違い:合格の条件
「東大に合格した人はみんな勉強していた」というのは本当でしょう。
でも、「勉強すれば東大に合格できる」とは限りません。
「勉強」は「合格」の必要条件です(勉強しないと合格できない)。でも、十分条件ではありません(勉強しても合格するとは限らない)。
この混同で、「勉強さえすれば」と過信したり、「勉強しているのに合格しない」と失望したりします。
感情による論理の歪み
人間は感情的な生き物です。感情が論理を歪めることがあります。
確証バイアス
自分の信じたいことを裏付ける情報ばかり集めてしまう傾向です。
例えば、「血液型性格診断」を信じている人は、当たった例ばかり覚えていて、外れた例は忘れます。「ほら、やっぱり当たる!」と思い込みます。
科学的には血液型と性格に関係はないのですが、確証バイアスのせいで信じ続けてしまいます。
感情的な訴え
「可哀想な子どもたちのために、この法案に賛成してください」
感情に訴えることで、法案の内容をよく考えずに賛成してしまうかもしれません。子どもを助けたい気持ちは本物でも、その法案が本当に子どもを助けるか、別の問題を起こさないか、冷静に考える必要があります。
よくある論理の誤り
1. 藁人形論法
相手の主張を歪めて、それを攻撃する方法です。
Aさん:「宿題を少し減らしてほしい」 Bさん:「何も勉強したくないなんて、怠け者だ!」
Aさんは「少し減らして」と言っているのに、Bさんは「何も勉強したくない」と極端に歪めています。
2. 滑り坂論法
「一歩譲ったら、どんどん悪くなる」という極端な予測です。
「スマホの使用時間を少し緩めたら、そのうち一日中スマホばかりになって、勉強しなくなって、人生が終わる!」
適度な緩和が必ず極端な結果に繋がるわけではありません。
3. 人身攻撃
主張の内容ではなく、言った人を攻撃します。
「その意見は○○さんが言っているから、信用できない」
誰が言ったかではなく、何を言ったかで判断すべきです。
4. 多数派論証
「みんなやってるから正しい」という論理です。
「クラスのみんながこのゲームをやっているから、これは良いゲームだ」
人気があることと、良いものであることは別です。昔は「地球は平らだ」と多くの人が信じていましたが、それは間違いでした。
3. 情報リテラシー―デマを見破る力
デマはなぜ広がるのか
インターネットの時代、デマは瞬時に世界中に広がります。なぜデマを信じてしまうのでしょうか?
1. 感情に訴える
「これを知らないと、あなたの家族が危険!」 「政府が隠している真実!」
こういう情報は、不安や怒りを煽るので、つい信じてしまいます。
2. 確証バイアス
自分が元々思っていたことを「裏付ける」情報は、簡単に信じてしまいます。
3. 繰り返しの効果
何度も見ると、本当のように感じてしまいます。多くの人がシェアしていると、「みんな言ってるから本当だろう」と思います。
4. 複雑な真実より、単純な嘘
本当のことは複雑で理解しにくいことがあります。単純な嘘の方が分かりやすいので、信じやすくなります。
デマを見破るチェックリスト
怪しい情報を見たら、これらを確認しましょう。
1. 情報源は信頼できる?
- 誰が発信している?名前も組織も不明?
- 公式な機関?個人のブログ?
- その分野の専門家?素人?
「友達が送ってきた」「SNSで見た」は情報源ではありません。元の情報源を確認しましょう。
2. 他の情報源でも確認できる?
一つのサイトだけでなく、複数の信頼できる情報源で確認しましょう。
大手新聞社、政府機関、大学などが報じていますか?それとも、怪しいサイトだけですか?
3. 日付は新しい?
古い情報が、さも今の情報のように拡散されることがあります。日付を確認しましょう。
4. 写真や動画は本物?
写真や動画は説得力がありますが、別の場面のものが使われたり、加工されたりすることがあります。
画像検索で、同じ写真が別の文脈で使われていないか確認できます。
5. 感情的になってない?
怒りや不安で判断が曇っていませんか?落ち着いてから、もう一度考えましょう。
6. 「拡散希望」「削除される前に」という言葉
こういう言葉がついている情報は要注意です。急いで広めさせようとする意図があるかもしれません。
科学報道の読み方
ニュースで科学の話題が報じられるとき、注意が必要です。
プレスリリースの誇張
大学や企業が発表する「プレスリリース」は、自分たちの研究を良く見せたい動機があります。
「画期的な発見!」「がんが治る可能性!」
こういう大げさな表現が使われても、実際にはまだ初期段階の研究で、人間には試していないこともあります。
マウスの実験と人間は違う
「マウスの実験で効果が確認された」というニュースはよくあります。
でも、マウスで効果があっても、人間で効果があるとは限りません。多くの薬は、マウスで有望でも、人間の試験では効果がなかったり、副作用が出たりします。
「関連が見つかった」と「原因だ」は違う
「コーヒーを飲む人は長生き」というニュースを見ても、「コーヒーが長生きの原因」とは限りません。相関と因果の違いを思い出しましょう。
利益相反を疑う
「利益相反(りえきそうはん)」とは、金銭的な利害が判断を歪める可能性があることです。
例1:タバコ会社の研究
昔、タバコ会社が資金を出した研究では、「タバコは健康に害がない」という結論が多く出ました。今では、これが嘘だったことがわかっています。
お金を出している会社に都合の良い結果が出やすくなるのです。
例2:健康食品の広告
「医師が推奨!」という広告を見ても、その医師がその会社から報酬をもらっているかもしれません。
例3:研究への製薬会社の資金提供
新薬の研究に、その薬を作っている製薬会社が資金を出していることがあります。これ自体は悪いことではありませんが、結果が会社に有利に出る可能性があります。
だから、まともな研究では「利益相反」を公開します。「この研究は○○社から資金提供を受けています」と明記するのです。
これを見たら、結果を少し慎重に受け止めましょう。
ファクトチェック機関の活用
世界中に「ファクトチェック」をする組織があります。怪しい情報が本当かどうか調べてくれます。
日本にも、いくつかのファクトチェック団体があります。疑わしい情報を見たら、検索して確認しましょう。
「わからない」と言える勇気
情報リテラシーで最も大切なことの一つは、「わからない」と認めることです。
すべてを即座に判断できるわけではありません。情報が不十分なら、「今の段階ではわからない」と保留する勇気が必要です。
「白か黒か」ではなく、「グレー(不明)」を受け入れることが、成熟した態度です。
実践:ケーススタディ
実際の例で練習してみましょう。
ケース1:「水素水」の効果
「水素水を飲むと健康になる!活性酸素を除去!」という広告を見ました。
批判的に考える:
- 証拠は? ちゃんとした科学的研究がありますか?論文は?
- メカニズムは? なぜ効くと言っているのですか?その説明は科学的に妥当?
- 利益相反は? 水素水を売っている会社の情報では?
- 他の専門家の意見は? 独立した研究者や医学界の見解は?
実際、水素水の健康効果については、科学的根拠が不十分というのが専門家の見解です。
ケース2:「ワクチンは危険」という投稿
SNSで「ワクチンを打った人が病気になった!ワクチンは危険だ!」という投稿を見ました。
批判的に考える:
- 相関と因果は? ワクチンの後に病気になっても、ワクチンが原因とは限りません。たまたま偶然かもしれません。
- 統計は? 何万人もワクチンを打てば、その後に病気になる人もいます。でも、ワクチンを打たない人と比べてどうですか?
- 情報源は? 医学的な根拠がある情報ですか?個人の体験談だけ?
- 専門家の見解は? 医学界や保健機関は何と言っていますか?
個人の体験は大切ですが、それだけで全体を判断するのは危険です。大規模な研究データと専門家の評価を見る必要があります。
ケース3:「この地域は犯罪が増えている」
ニュースで「今年、この地域で窃盗が去年の2倍になった!」と報じられました。
批判的に考える:
- 絶対数は? 去年1件、今年2件なら「2倍」ですが、大した増加ではありません。
- 他の地域は? 全国的な傾向ですか?この地域だけ?
- 報告数の変化は? 犯罪が増えたのか、報告する人が増えただけか?
- 長期的な傾向は? 一年だけの変動か、長期的な増加傾向か?
数字だけでなく、文脈も大切です。
メディアリテラシー
情報を評価する力は、「メディアリテラシー」とも呼ばれます。
ニュースも完璧ではない
大手のニュースメディアでも、間違いや偏りがあります。
- 記者も人間で、ミスをします
- 締め切りに追われて、十分に確認できないこともあります
- メディアにも、政治的・経済的な立場があります
だから、一つのメディアだけでなく、複数のメディアを見比べることが大切です。
見出しだけで判断しない
ニュースの見出しは、人の注目を引くために、センセーショナルに書かれることがあります。
「○○が危険!」という見出しでも、記事を読むと「可能性がある」「一部の人では」という内容だったりします。
見出しだけでなく、本文をちゃんと読みましょう。
意見と事実を区別する
「○○が起きた」(事実) 「○○は良くない」(意見)
この区別を意識しましょう。
ソーシャルメディアの特性
SNSは便利ですが、情報の質が保証されていません。
- 誰でも発信できる(専門家とは限らない)
- アルゴリズムが「あなたが見たいもの」を見せる(偏った情報ばかり見ることになる)
- 感情的な情報が広がりやすい(冷静な情報は広がりにくい)
SNSを使うときは、これらの特性を理解しましょう。
おわりに
批判的思考と情報リテラシーは、現代を生きる上で必須のスキルです。
情報があふれる時代だからこそ、何を信じるかではなく、どう考えるかが大切です。
批判的思考とは、疑い深くなることではありません。それは:
- よく考えること
- 証拠を求めること
- 複数の視点を持つこと
- わからないことは認めること
これらを習慣にすれば、デマに騙されず、賢い判断ができるようになります。

コメント