戦後日本を支えた社会実装の系譜:『発明』を『日常』に変えた100選

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戦後日本の躍進を支えたのは、単一の発明品ではありません。医師の要求、大学の知見、そして企業の現場力が結びついた「技術と普及の成功モデル」です。内視鏡からハイブリッド車まで、社会構造を変革した事例を紐解き、高度な専門知がいかにして生活を豊かにするコモディティへと翻訳されたのか、その本質を探ります。


はじめに

戦後日本を支えた社会実装の系譜:『発明』を『日常』に変えた100選(完全版)

はじめに

発明協会が2014年に創立110周年記念事業として選定した「戦後日本のイノベーション100選」は、単なる技術的発明のリストではありません。医師の要求、大学の知見、企業の現場力が結びついた「技術と普及の成功モデル」を評価したものです。内視鏡からハイブリッド車まで、高度な専門知がいかにして生活を豊かにする日常へと翻訳されたのか、その本質を探ります。

イノベーションの定義

本選定におけるイノベーションは、以下のように広義に定義されています。

「経済的な活動であって、その新たな創造によって、歴史的社会的に大きな変革をもたらし、その展開が国際的、あるいはその可能性を有する事業。その対象は発明に限らず、ビジネスモデルやプロジェクトを含み、またその発明が外来のものであっても、日本で大きく発展したものも含む」

選定の特徴

多くは単一の発明品ではなく技術+量産+普及モデルの成功が評価されています。

例:

  • 内視鏡 = 医師の要求 × 光学技術 × 企業開発
  • トヨタ生産方式 = 現場改善の積み重ね

アンケート投票トップ10

Noイノベーション代表的な人物発明・実用化年代関連企業・組織概要
1内視鏡高木国敬、杉浦睦夫、中坪寿雄1950年代オリンパス(旧 高千穂製作所)、東京大学医学部胃カメラからファイバースコープ、カプセル内視鏡へと進化。世界シェア70%を占め、医療現場と予防医学に革命をもたらした
2インスタントラーメン安藤百福1958年日清食品チキンラーメンが新市場を創出。世界で年間1055億食が消費される即席食品の代表格に
3マンガ・アニメ手塚治虫ほか1960年代虫プロダクション、出版社各社日本独自の表現文化として発展し、世界的な文化輸出産業へと成長
4新幹線島秀雄1964年国鉄(現JR)、川崎重工、日立製作所世界初の高速鉄道システム。安全性と定時性で世界の鉄道技術をリード
5トヨタ生産方式大野耐一、豊田英二1950年代〜トヨタ自動車ジャストインタイム、カンバン方式など。世界の製造業に影響を与えた生産管理手法
6ウォークマン®盛田昭夫、大賀典雄1979年ソニー携帯音楽プレーヤーの概念を創出。音楽の楽しみ方を変革
7ウォシュレット®1980年TOTO温水洗浄便座として世界に普及。日本の衛生文化を象徴する製品
8家庭用ゲーム機・同ソフト山内溥、横井軍平1983年〜任天堂、ソニー、セガファミリーコンピュータをはじめとする家庭用ゲーム市場を創出
9発光ダイオード(青色LED)赤崎勇、天野浩、中村修二1990年代名城大学、豊田合成、日亜化学工業三原色の完成により白色LED実現。照明革命とノーベル賞受賞
10ハイブリッド車内山田竹志1997年トヨタ自動車プリウスで世界初の量産化。環境対応車として累計300万台超を販売

戦後復興期(1945年〜1954年)

Noイノベーション主な開発者・企業実用化年代概要
11魚群探知機古野電気1948年超音波技術を応用し、漁業の効率化に貢献
12溶接工法ブロック建造方式造船各社1940年代後半船舶建造の効率化と品質向上を実現
13ビニロンクラレ、桜田一郎1950年日本初の合成繊維。漁網などに活用
14フェライトTDK、武井武、加藤与五郎1930年代発明、戦後実用化磁性材料として電子機器に不可欠な素材
15ファスナーYKK、吉田忠雄1950年代世界シェアトップの技術力で衣料品産業を支える
16銑鋼一貫臨海製鉄所新日本製鐵(現日本製鉄)1950年代大量生産体制を確立し、高度成長を支えた

高度経済成長期(1955年〜1973年)

Noイノベーション主な開発者・企業実用化年代概要
17自動式電気炊飯器東芝、三並義忠1955年家事労働の軽減に大きく貢献
18トランジスタラジオソニー(東京通信工業)1955年小型化により携帯可能なラジオを実現
19コシヒカリ農林水産省、新潟県農業試験場1956年日本を代表する米品種。食文化の基盤
20回転寿司白石義明(元禄産業)1958年寿司の大衆化とチェーン展開を実現
21公文式教育法公文公1958年個人別・能力別学習システムとして世界に普及
22小型(軽)自動車スバル、スズキ、ダイハツほか1950年代後半庶民の足として自動車社会の基盤を築く
23スーパーカブ本田技研工業、本田宗一郎1958年世界累計生産1億台超。モビリティ革命の象徴
24NC工作機械ファナック、稲葉清右衛門1950年代後半数値制御による精密加工技術の確立
25ヤマハ音楽教室ヤマハ、川上源一1954年音楽教育の普及と楽器市場の拡大に貢献
26接ぎ木(野菜)全国農業試験場1950年代病害抵抗性と収量増加を実現
27座席予約システム国鉄(現JR)1960年世界初のオンライン座席予約システム「みどりの窓口」
28リンゴ「ふじ」農林省園芸試験場東北支場1962年世界で最も生産されるリンゴ品種
29人工皮革クラレ(クラリーノ)、東レ(エクセーヌ)1960年代天然皮革の代替素材として多様な用途に展開
30電子式卓上計算機シャープ、カシオ計算機1964年計算業務の効率化と小型化を実現
31電子レンジシャープ、東芝ほか1960年代調理時間の短縮と新しい調理法を提供
32自脱型コンバインと田植機ヤンマー、クボタ、井関農機1960年代稲作の機械化により農業労働を大幅軽減
33積層セラミックコンデンサ村田製作所、TDK、京セラ1960年代電子機器の小型化・高性能化に不可欠な部品
34カラオケ井上大佑1971年娯楽文化として世界に広がる
35自動改札システムオムロン(立石電機)1967年鉄道の利便性向上と効率化に貢献
36柔構造建築鹿島建設、竹中工務店ほか1960年代耐震技術の進化。高層ビル建設を可能に
37郵便物自動処理装置東芝、日本電気1968年郵便業務の効率化と処理能力向上
38ヤクルト代田稔、ヤクルト本社1935年発明、戦後普及乳酸菌飲料の先駆け。健康志向飲料市場を開拓
39レトルト食品大塚食品(ボンカレー)1968年常温保存可能な調理済み食品として普及
40LNGの導入東京ガス、大阪ガス、東京電力1969年クリーンエネルギーとしての天然ガス利用開始
41クオーツ腕時計セイコー(諏訪精工舎)1969年世界初の量産化。時計の精度革命
42ブラウン管テレビシャープ、ソニー、松下電器ほか1950年代〜テレビの普及により情報・娯楽革命を実現
43脱硫・脱硝・集じん装置三菱重工、日立造船ほか1970年代公害対策技術として環境改善に貢献
44省エネ化産業界全体1970年代〜オイルショック後の省エネ技術開発
45電界放出形電子顕微鏡日立製作所、江崎玲於奈1968年原子レベルの観察を可能にする
46産業用ロボット川崎重工、安川電機1969年自動化生産ラインの中核技術
47CVCCエンジン本田技研工業1973年世界初の排出ガス規制クリアエンジン
48コンビニエンスストアセブン-イレブン・ジャパン1974年流通革命と24時間営業による生活利便性向上

安定成長期(1974年〜1990年)

Noイノベーション主な開発者・企業実用化年代概要
49オンラインセキュリティシステムセコム1974年機械警備システムの確立
50電力用酸化亜鉛形ギャップレス避雷器東芝、日立製作所1975年電力設備の保護技術革新
51炭素繊維・炭素繊維複合材東レ、東邦テナックス1970年代航空機から自動車まで軽量高強度材料として展開
52移動電話(自動車電話、音声符号化等)NTT、各通信機器メーカー1979年モバイル通信の始まり
53高張力鋼新日本製鐵ほか1970年代自動車の軽量化と安全性向上に貢献
54家庭用ビデオ(カセット)ソニー(ベータマックス)、JVC(VHS)1975年映像記録・再生を家庭に普及
55宅急便ヤマト運輸、小倉昌男1976年個人宅配便市場を創出
56三元触媒システムトヨタ自動車、日産自動車ほか1977年排出ガス浄化技術の確立
57イメージセンサー(CCD・CMOS)ソニー、シャープ、パナソニック1970年代後半デジタルカメラの基盤技術
58日本語ワードプロセッサ東芝、シャープ1978年日本語文書作成の効率化
59全自動横編機島精機製作所1978年ニット製品の製造革新
60フォトレジスト東京応化工業、JSR1970年代半導体製造に不可欠な感光材料
61レーザープリンターキヤノン1979年高速・高品質印刷技術
62G3ファクシミリ松下電器、リコーほか1980年通信の高速化とビジネス効率化
63半導体露光装置(ステッパー)ニコン、キヤノン1980年代半導体の微細化を支える製造装置
64オーロラビジョン三菱電機1980年大型映像表示装置として公共空間を変革
65イベルメクチン大村智、メルク社1981年寄生虫症治療薬としてノーベル賞受賞
66インバーターエアコン東芝、三菱電機1981年省エネと快適性を両立
67カーナビゲーションシステムホンダ、パイオニア1981年運転支援システムの先駆け
68ATMオムロン、日立製作所、富士通1970年代〜銀行サービスの利便性向上
69CD・CD-Rソニー、フィリップス1982年デジタル音楽記録媒体の標準化
70X線フィルムのデジタル化富士フイルム、コニカ1983年医療画像診断の効率化
71ネオジム磁石住友特殊金属(現日立金属)1984年高性能永久磁石としてモーター等に活用
723.5インチフロッピーディスクソニー1981年データ記憶媒体の小型化
73直接衛星放送サービスNHK、WOWOW1984年衛星放送による多チャンネル化
74家庭用カムコーダソニー、松下電器1985年家庭用ビデオカメラの普及
75UMAMI味の素、池田菊苗1908年発見、戦後国際化第五の味覚として世界的に認知
76ラップトップ・ノートパソコン東芝、NEC、エプソン1985年コンピュータの携帯化
77プレハブ住宅積水ハウス、大和ハウス工業1960年代〜工業化住宅として品質安定と工期短縮
78酵素入りコンパクト洗剤(アタック)花王1987年洗剤の性能向上と小型化
79光通信用半導体レーザ(DSMレーザ)・光ファイバー製造法(VAD法)NTT、古河電工、住友電工1980年代光通信網の基盤技術
80ポリエステル合成繊維(シルク調等)東レ、帝人1980年代高機能繊維の開発
81フラッシュメモリ東芝、舛岡富士雄1987年データ記憶技術の革新
82薄型テレビシャープ、ソニー、パナソニック1980年代後半〜液晶・プラズマ技術による薄型化
83スタチン三共(現第一三共)、遠藤章1989年コレステロール低下薬として世界的に普及
84ハイビジョン放送NHK1989年高精細映像放送の開始
85IHクッキングヒーター松下電器、三菱電機1974年開発、1990年代普及安全で高効率な調理器具
86中空糸旭化成、東洋紡1960年代開発、1970年代〜普及人工透析、浄水器などに応用

現代まで(1991年〜2000年代前半)

Noイノベーション主な開発者・企業実用化年代概要
87液晶ディスプレイシャープ、ソニー1990年代テレビ・モニターの主流技術に
88リチウムイオン電池ソニー、吉野彰(旭化成)1991年モバイル機器・電気自動車の電源として不可欠
89タクロリムス藤沢薬品工業(現アステラス製薬)1993年免疫抑制剤として臓器移植に貢献
90スーパーコンピュータ富士通、NEC、日立製作所1990年代〜科学技術計算の高速化
91道の駅国土交通省、地方自治体1993年地域振興と交通安全の拠点
92光触媒藤嶋昭、TOTO1967年発見、1990年代実用化環境浄化技術として多方面に応用
93QRコード®デンソー、原昌宏1994年二次元バーコードとして物流から決済まで普及
94デジタルカメラカシオ、ソニー、キヤノン1995年写真のデジタル化を実現
95DVDソニー、松下電器、東芝ほか1996年大容量光学記録媒体として映像市場を拡大
96(第2世代の)シールド工法鹿島建設、大成建設ほか1990年代都市インフラ整備の効率化と安全性向上
97非接触ICカード技術ソニー(FeliCa)1997年交通系カード、電子マネーの基盤
98無菌充填システム(PETボトル用)大日本印刷、凸版印刷1990年代飲料の品質保持と流通革新
99ドネペジル塩酸塩エーザイ、杉本八郎1999年アルツハイマー型認知症治療薬
100高効率石炭火力発電電力会社、重電メーカー1990年代〜環境負荷低減とエネルギー効率向上
101長大橋建設技術本州四国連絡橋公団ほか1988年(瀬戸大橋)〜明石海峡大橋など世界最長級の吊橋技術
102太陽電池セルシャープ、京セラ、三洋電機1990年代〜再生可能エネルギーの主力技術
103多機能携帯電話(i-mode、カメラ付きなど)NTTドコモ、シャープ、京セラ1999年〜モバイルインターネットの先駆け
104リサイクル・リユース産業界全体、自治体1990年代〜循環型社会形成への取り組み
105携帯電話等デジタル情報暗号化技術NTT、三菱電機ほか1990年代〜セキュアな通信の実現

時代別分類まとめ

戦後復興期(1945-1954年):6項目

基幹産業の再建と基礎技術の確立

高度経済成長期(1955-1973年):32項目

大量生産・大量消費社会の形成と生活水準向上

安定成長期(1974-1990年):38項目

省エネ・高付加価値化と電子化の進展

現代まで(1991-2000年代前半):19項目

デジタル化・環境対応・グローバル化の加速

総計:95項目(トップ10を含む実質100選)


結語

この100選は、戦後日本が「技術立国」として成長してきた軌跡を示すとともに、イノベーションの本質が単なる発明ではなく、社会への実装と普及にあることを教えてくれます。医療、食品、交通、エネルギー、情報通信など、あらゆる分野で日本の技術者・研究者・企業人が積み重ねてきた努力の結晶が、私たちの日常生活を支えているのです。

高度な専門知を社会の共通価値へと変換する「翻訳の営み」こそが、真のイノベーションといえるでしょう。

発明協会が一般+有識者のアンケートを基に選定したイノベーションであり、2014年(平成26年)に創立110周年記念として第1回が発表されました。発明協会

戦後日本イノベーション

「発明」ではなく「社会実装」が評価対象

イノベーション100選が、「歴史的・社会的変革をもたらす経済活動」を広義に捉えており、発明だけでなくビジネスモデルやプロジェクトも含めて選定しています。そのため多くは単一の発明品ではなく技術+量産+普及モデルの成功なども含まれています。

例:

  • 内視鏡=医師の要求 × 光学技術 × 企業開発
  • トヨタ生産方式=現場改善の積み重ね

トップ10

Noイノベーション代表的な人物発明・実用化年代関連企業・組織
1内視鏡高木国敬(医師)ほか1950年代オリンパス(旧 高千穂製作所)、東京大学医学部
2インスタントラーメン安藤百福1958年日清食品
3マンガ・アニメ手塚治虫1960年代虫プロダクション、出版社各社、放送局
4新幹線島秀雄(技術責任者)1964年国鉄(現JR)、川崎重工、日立製作所ほか
5トヨタ生産方式大野耐一、豊田英二1950年代トヨタ自動車
6ウォークマン盛田昭夫、大賀典雄1979年ソニー
7ウォシュレット―(企業開発)1980年TOTO
8家庭用ゲーム機・ソフト山内溥、横井軍平1983年〜任天堂、ソニー、セガ
9LED(青色LED)赤崎勇、天野浩、中村修二1990年代名城大学、豊田合成、日亜化学工業
10ハイブリッド車内山田竹志1997年トヨタ自動車

トップ10以外

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