「学びなおし本」で勉強するメリットってどんなところだろうか

提言・オピニオン

「数時間で分かる」「大人のやりなおし」といった学びなおし本が書店に並んでいる。これらは本当に教科書の代わりになるのか。結論から言えば、両者は競合ではなく、目的と段階が違う道具である

学びなおし本――速さと動機

学びなおし本の最大の強みは、全体像の把握が圧倒的に速いことだ。何をやっている学問なのか、どこが山場で何が重要か、社会や実務とどうつながるか。教科書では最後まで行かないと見えない構造が、最初に見える。

もう一つの強みは、モチベーションを作る力だ。ストーリー性、身近な例や比喩、「これができるようになる」というゴール提示。特に理系科目が苦手になりかけた高校生や、文理選択前の生徒には効果が大きい。また、概念の核に集中し、不要な枝葉を切っている点も見逃せない。

ただし網羅性は意図的に低く、定義の厳密性、例外条件は省かれる。本質をつかむための単純化が含まれる。そして、演習量が決定的に不足している。読んだだけで解けるようにはならない。

高校生が手を取るのは「あり」か

高校生が先に学びなおし本を使うのもあり。文理選択前、理系が苦手になりかけている、途中で脱落しかけている、「何をやっているか分からない」状態――こうした場面では、学びなおし本は概要把握・地図作りとして非常に優秀だ。

教科書ー網羅性

一方、教科書の強みは網羅性と体系性だ。学習指導要領に基づき、抜け漏れがなく、定義や用語が正確である。入試・評価との親和性が高く、問題集・定期試験・共通テストに直結する「点になる知識」が揃っている。わからない箇所に正確に戻れる再参照性も高い。

しかし、なぜ学ぶのか、どこがゴールか、他分野との関係といった全体像が見えにくい。モチベーションを前提にしており、学ぶ意欲がないと読めない。また、既知の部分も丁寧に書かれているため、大人には冗長に感じやすい。

ここで重要なのは、社会人と高校生では位置づけが異なる点だ。社会人の目的は理解・教養であり、概念レベルの精度で足りる。学びなおし本が主教材になりうる。一方、高校生の目的は評価・進学であり、定義や細部まで必要だ。学びなおし本は導入教材、教科書が主教材である。

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