親の学歴と居住地という二つの要因が、子どもの教育機会を大きく左右している。
親の学歴が再生産されるメカニズム
親が子どもに継承される現象は、遺伝的な能力の問題として語られることが多い。
だが実態は、環境・資源・期待という三つの要素が複合的に作用している。
まず、高学歴の親は文化資本を豊富に持っている。
文化資本とは教科書の読み方、勉強の仕方、試験制度への理解、大学や学部に関する具体的な知識といった、学校教育と親和性の高い知識や習慣のことを指す。
高学歴家庭では、これらが日常的に子どもに伝えられる。
学校は中立的な制度を装っているが、実際にはこうした文化資本の継承があり、それを持たない家庭の子どもは不利な立場に置かれる。
経済資本の格差が教育投資の差を生む。
親の学歴が高ければ賃金も高く、可処分所得が多い。
その結果、塾や私立中高への進学、習い事や留学といった教育投資が可能になる。こうして、学力差が本人の努力以前に形成されてしまう。
さらに、進学期待と心理的安全性の違いも大きい。高学歴家庭では大学進学が当然視され、浪人や失敗を許容する余裕がある。専門職や研究職といった進路も現実的な選択肢として見える。一方、低学歴家庭では早期就職への圧力があり、失敗が許されない心理的制約の中で、大学進学が一種の賭けとして捉えられることが多い。
都市部が学歴競争で有利な理由
学歴格差のもう一つの軸が、都市と地方の格差である。これは教育機関と情報の地理的偏在によって生じる。
都市部には大学が多数集中しており、自宅から通学できるという一点だけでも、進学コストは地方と比べて大幅に低い。地方の学生は学力に加えて、下宿費や生活費という経済的ハードルを同時にクリアしなければならない。
塾や予備校も都市部に集中している。難関校に特化した塾、最新の受験情報、競争的な学習環境が整っており、これは単なる教育熱心さの違いではなく、情報の非対称性という構造的問題である。
さらに、同調圧力の違いも無視できない。都市部では周囲が大学進学を前提に行動し、学校も進学指導に慣れている。一方、地方では進学者が少数派であり、学校の進学ノウハウも限定的だ。その結果、能力があっても進学を選ばない、あるいは選べないケースが生じる。
賃金格差が教育格差を強化する循環
都市と地方の格差は、労働市場の構造によっても強化される。都市部には大企業や専門職が集中し、労働市場が厚く、転職による賃金上昇も可能だ。同じ学歴でも、都市部の方が生涯賃金が高くなる傾向がある。
この構造は自己強化的な循環を生み出す。都市部の高学歴親は高賃金を得て、それを教育投資に回すことができる。子どもは高学歴を獲得し、再び都市部で高賃金の仕事に就く。
格差は能力の差ではなく初期条件の差
地方と都市の格差が学力差、意欲差、能力差ではないという点である。違いの本質は、教育機関への距離、情報へのアクセス、失敗を許容できる余裕、選択肢の数といった初期条件の差にある。
学歴競争は形式的には同一の試験によって行われるが、実態として、親の学歴、親の所得、居住地によってスタートラインが大きく異なる競争である。親の学歴が再生産されるのは偶然ではなく必然であり、都市部が有利なのも個人努力の問題ではない。地方と都市の格差は、教育制度と労働市場の配置が生み出す構造的問題である。


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