1. 近代化産業遺産群とは何か
近代化産業遺産群とは、幕末から昭和初期にかけての日本の産業近代化の過程を示す建造物・機械・土木構造物・関連施設等を、個別物件ではなく「ストーリー(物語)」単位で編成した産業遺産体系である。
単なる「古い建物・設備」の保存ではなく、
- 技術導入
- 人材育成
- 地域経済との関係
- 社会への影響
といった無形の価値を含めて捉える点が特徴である。
近代化産業遺産群とは、日本の近代化を「科学技術が社会に実装されていくプロセス」として、地域と結びつけて再編集した
- 伝統技術の単なる継承ではなく「革新(イノベーション)」を評価軸に設定
- 日本の近代化を科学・工学・制度の社会実装史として提示
- 個別遺産だけでは価値が伝わりにくい技術・人・物流・地域のつながりをストーリー化
- 産業史・科学技術史を理解しやすく再構成
2. 構成と規模
- 第1期:近代化産業遺産群 33のストーリー
- 第2期:近代化産業遺産群 続33(平成20年度認定)
- 合計:66のストーリー
- 認定物件数:約1,115件
3. ストーリーの大分類(内容的整理)
① 技術導入と重工業の成立
- 製鉄・造船・機械・化学工業
- 蒸気機関・内燃機関・航空機・自動車
- 工作機械・精密機器
→ 近代科学・工学の社会実装そのもの
② 軽工業・生活産業・消費文化
- 繊維(製糸・織物)
- 食品・醸造・製塩
- 家電製造
- 観光・娯楽・消費文化
→ 科学技術が日常生活へ浸透した過程
③ 鉱業・エネルギー・資源開発
- 金属鉱山(銅・金・石炭)
- 石油産業
- 電源開発
→ 近代国家を支えた資源基盤
④ 社会インフラ・国土形成
- 鉄道・港湾・橋梁・トンネル
- 水道・治水・砂防
- 通信・放送
- 灯台
→ 科学技術による国土と社会の設計
⑤ 地域開発・都市形成
- 北海道開拓
- 東北開発
- 東京・大阪の都市形成
- 私鉄沿線開発
→ 産業と都市・地域の相互発展
⑥ 人材・制度
- 技術者教育
→ 技術を支えた「人」の育成
4. 「続33」の位置づけ
- 多くが特定地域に限定されない全国ストーリー
- 技術分野・社会インフラ・制度を横断的に整理
- 「モノ」よりも技術体系・社会システムを可視化
➡ 初期33が「地域×産業史」中心なのに対し、
➡ 続33は「技術・社会装置そのものの近代化史」を補完する役割を持つ。
6. ひとことで紹介
初期33は「地域別産業史」、続33は「技術・社会システム史」。両者を合わせて、日本の近代化を空間(地域)と機能(技術)の両面から描いた国家的産業史地図
「近代化産業遺産群33」+「近代化産業遺産群 続33」について、それぞれ 〈地域〉+〈ひとこと概要〉 を付けて、重複なく・整理して一覧化
① 近代化産業遺産群 33(初期33)
技術導入・重工業
- 全国沿岸部
幕末の海防を契機に始まった近代技術導入の出発点 - 全国(造船所)
欧米に追いつくため成長した近代造船業 - 岩手・福岡など
国産鉄鋼を実現し重工業化を支えた製鉄業 - 北海道ほか
赤煉瓦生産により近代建築を可能にした建材産業
観光・地域産業
- 箱根・日光ほか
外貨獲得を目的に発展した近代観光業 - 北海道(産炭地)
石炭供給で近代化を支えたエネルギー拠点 - 北海道
近代農業・食品加工の導入実験場 - 北海道
洋紙国産化を担った製紙業
繊維・軽工業
- 群馬(富岡)
世界市場と結びついた近代製糸業 - 群馬・栃木(両毛)
分業体制で発展した絹織物産地 - 関東(利根川流域)
競争を通じ近代化した醸造業 - 福井
羽二重から人絹へ進化した織物工業 - 中部・近畿・山陰
輸出を背景に近代化した窯業 - 灘・伏見
科学的管理で進化した酒造業 - 大阪・西日本
綿工業を核にした工業都市形成 - 九州南部
産業創出を支えた電源開発と物流 - 沖縄
製糖と石炭が支えた近代経済
鉱業・インフラ
- 東北
金属供給で国家近代化を支えた鉱業 - 常磐(福島・茨城)
京浜工業地帯を支えた鉱工業 - 新潟
日本近代石油産業の出発地 - 栃木(足尾)
銅鉱業と公害対策の先例 - 横浜
貿易立国の原点となった港湾 - 京浜地域
日本の重工業化を牽引した工業地帯 - 新潟(佐渡)・大分
近代採鉱技術を導入した金鉱山 - 京都
琵琶湖疏水に象徴される水利近代化 - 兵庫(生野)
鉱業近代化のモデル鉱山 - 神戸
国際港湾都市として発展 - 瀬戸内
地域と共生した銅山群 - 九州・山口
石炭産業による工業化
※初期33は地域産業史中心
② 近代化産業遺産群 続33
重工業・製造技術
- 全国
工作機械・精密機器:ものづくりの基盤 - 全国
蒸気・内燃機関:産業動力の革新 - 全国
自動車:大衆化と量産技術 - 全国
航空機:高度工業技術の象徴 - 全国
家電:生活への技術浸透 - 全国
化学工業:素材産業の多様化 - 全国
耐火煉瓦:重工業を支えた素材
交通・土木・通信
- 全国
鉄道トンネル:地形克服技術 - 全国
鉄道連絡船:海峡交通 - 全国
鉄道施設:全国物流網 - 全国
森林鉄道:山間資源開発 - 全国
私鉄沿線開発:都市生活圏形成 - 全国
鉄橋・鋼橋:大量輸送 - 全国
港湾土木:海運国家基盤 - 全国
治水・砂防:国土保全 - 全国
灯台:海上安全 - 全国
通信・放送:情報社会の始まり - 全国
水道:近代都市生活
観光・文化・教育
- 全国
旧居留地レジャー:近代娯楽 - 全国
国内大衆観光:旅行文化 - 全国
都市娯楽・消費文化 - 全国
技術者教育:人材育成
地域開発
- 北海道
赤煉瓦製造 - 道北・道東
開拓と交通整備 - 東北
地域開発基盤 - 東京
首都形成 - 東海
木材加工業 - 中部・近畿
食品製造業 - 大阪
近代経済都市化 - 近畿
都市間高速電車 - 瀬戸内
灌漑施設 - 瀬戸内
製塩・醸造 - 九州北部
窯業

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