大地の仕組みを読み解くージオパークで体感する地球科学ー

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ジオパークは、単なる景勝地ではありません。私たちが暮らす土地の成り立ちを「システム」として理解し、その恩恵を主体的に活用するための生きた教材です。プレート運動や火山活動が形づくった地形が、地域の産業や文化をどう規定しているのか。日本各地の認定地を巡り、中学理科の知識を「社会を捉える力」へと繋ぎます。


ジオパークとは?

ジオパーク(Geopark) は、地球科学的に重要な地域を保全し、教育・地域振興に活かす国際的な取り組みです。その目的は以下の4つです。

  1. 地球・大地の歴史や地質遺産を保全する
  2. 教育や学習を通じ地球科学の理解を深める
  3. 地域振興・観光(ジオツーリズム)につなげる
  4. 自然・文化・人の暮らしを統合した地域づくりを進める

単に美しい景色を見るだけでなく、なぜその地形が生まれたのかという「大地の仕組み」を理解することで、防災意識や資源利用の知恵が身につきます。


日本のジオパーク

日本には 「日本ジオパーク」「ユネスコ世界ジオパーク(UNESCO Global Geoparks)」 の2種類があります。どちらも地域の地質と自然・文化を活かす取り組みを行いますが、認定主体が異なります。

  • 日本ジオパーク:日本ジオパーク委員会(JGC)が認定する国内版ジオパーク
  • ユネスコ世界ジオパーク:UNESCO(ユネスコ)が国際基準で認定するジオパークプログラム(IGGP)

※ 2025年10月現在、日本ジオパークは 48地域、そのうち 10地域 がユネスコ世界ジオパークにも認定されています。


ユネスコ世界ジオパーク(日本の10地域)

日本のユネスコ世界ジオパークは、プレートの収束境界という特異な立地がもたらした、地球科学の「実物教材」です。火山活動、断層運動、地層の隆起といった大地の営みは、温泉や鉱物資源を生み出し、地域の産業と文化を形づくってきました。以下の10地域は、その成り立ちを最も鮮明に体感できる場所として国際的に認められています。

地域名所在地選出理由主な見どころ
洞爺湖有珠山北海道活発な火山活動と繰り返される噴火の歴史。20世紀だけで4回の噴火を経験し、火山と人間の共生を学べる有珠山の火口群、昭和新山、洞爺湖の火山地形、火山遺構(2000年噴火跡)
糸魚川新潟県日本列島を東西に分断する大断層「フォッサマグナ」の西端。5億年分の地質を観察できるヒスイ海岸、フォッサマグナパーク、小滝川ヒスイ峡、断層露頭
山陰海岸京都・兵庫・鳥取日本海形成に伴う多様な地質・地形。リアス海岸、砂丘、火山岩など変化に富んだ景観鳥取砂丘、玄武洞、城崎温泉、竹野海岸の海食崖
室戸高知県フィリピン海プレートの沈み込みによる大地の隆起。過去120万年で1000m以上隆起した記録室戸岬のタービダイト層、乱泥流堆積物、海岸段丘、亜熱帯植物
島原半島長崎県雲仙火山の噴火史と1990-95年の平成噴火。火山災害と復興の記録が生々しく残る雲仙普賢岳、平成新山、土石流跡、島原温泉、眉山崩壊跡
隠岐島根県日本海形成時の地殻変動で隆起した島々。大陸地殻と海洋地殻の両方を観察できる稀有な場所ローソク島、国賀海岸の摩天崖、黒曜石産地、独自の生態系
阿蘇熊本県世界最大級のカルデラ(南北25km、東西18km)。9万年前の巨大噴火が作り出した地形阿蘇カルデラ、中岳火口、草千里、外輪山、カルデラ内の集落と農地
アポイ岳北海道地球深部のマントル物質(かんらん岩)が地表に露出。高山植物の宝庫でもあるアポイ岳のかんらん岩体、固有の高山植物群落、ダイヤモンドダスト
伊豆半島静岡県フィリピン海プレート上の火山島が本州に衝突し付加した痕跡。海底火山の地層が陸上で観察可能城ヶ崎海岸の柱状節理、ジオサイト多数、天城山、堂ヶ島の海食洞
白山手取川石川県・福井県白山火山の成り立ちと手取川が運ぶ土砂の物語。恐竜化石産地としても著名白山の火山地形、手取川扇状地、手取層群の化石産地、噴泉塔

日本ジオパーク(国内認定 48地域)全リスト

日本ジオパーク は、ユネスコ認定を含む国内独自認定のジオパークです。全国各地の特徴的な地質・地形を通じて、その土地ならではの自然と人の営みを学ぶことができます。

北海道エリア(6地域)

地域名選出理由主な見どころ
アポイ岳マントル物質かんらん岩の地表露出と固有の高山植物かんらん岩体、固有植物群落
洞爺湖有珠山活火山と噴火の繰り返し、火山と共生する地域有珠山火口、昭和新山、洞爺湖
白滝日本最大級の黒曜石産地。旧石器時代の石器製作遺跡群黒曜石露頭、国宝指定の出土石器、八号沢露頭
三笠石炭層と海生爬虫類化石。炭鉱の歴史と古生物学的価値アンモナイト化石、炭鉱遺産、白亜紀の地層
とかち鹿追火山と氷河地形が作り出す独特の景観然別湖、東ヌプカウシヌプリ、溶岩台地
十勝岳活火山の噴火史と泥流災害の記録十勝岳、美瑛の丘陵景観、大正泥流跡

東北エリア(9地域)

地域名選出理由主な見どころ
下北本州最北端の火山と海食崖。恐山の火山活動恐山、仏ヶ浦、尻屋崎、硫黄噴気
三陸リアス海岸と津波堆積物。地震と津波の歴史的記録三陸海岸、津波石、ジュラ紀の地層
八峰白神白神山地の隆起と浸食。世界遺産との連携海岸段丘、椿山、白神山地西部
男鹿半島・大潟日本海形成期の地層と、八郎潟干拓の歴史鬼の洗濯岩、寒風山、干拓地、なまはげ文化
鳥海山・飛島活火山と日本海に浮かぶ火山島鳥海山、飛島の火山地形、溶岩流跡
ゆざわ火山と地熱資源。温泉・地熱発電の活用小安峡、川原毛地獄、地熱発電所
栗駒山麓火山と地震の記録。2008年岩手・宮城内陸地震の爪痕栗駒山、地震断層、温泉群、紅葉
蔵王火山活動と樹氷。火口湖御釜の形成史蔵王連峰、御釜、樹氷原、火山性温泉
磐梯山1888年の山体崩壊と五色沼・桧原湖の形成磐梯山、五色沼、桧原湖、裏磐梯高原

関東エリア(7地域)

地域名選出理由主な見どころ
浅間山北麓活火山浅間山の噴火史と火山防災浅間山、鬼押出し、溶岩樹型
下仁田関東山地の複雑な地質構造。日本列島形成史の縮図跡倉クリッペ、中央構造線、下仁田ネギと地質の関係
秩父古生代から新生代までの地層が連続。化石の宝庫長瀞の岩畳、ようばけ、古秩父湾の化石
筑波山地域深成岩の花崗岩と変成岩が作る山体筑波山、花崗岩、霞ヶ浦
銚子日本ジオパークで最古の地層。約1億年前の白亜紀地層屏風ヶ浦、犬岩、白亜紀地層
箱根複雑な火山活動史。カルデラと中央火口丘の形成過程大涌谷、芦ノ湖、箱根火山の地質、温泉
伊豆大島活火山の観察。三原山の噴火と溶岩流三原山火口、裏砂漠、地層大切断面

中部エリア(7地域)

地域名選出理由主な見どころ
伊豆半島海底火山の付加と本州衝突の歴史城ヶ崎海岸、堂ヶ島、天城山
糸魚川フォッサマグナ西端。5億年の地質の宝庫ヒスイ海岸、小滝川、断層露頭
佐渡日本海形成と金銀鉱床。鉱山と地質の関係佐渡金山、小木海岸、枕状溶岩
苗場山麓火山活動と河岸段丘。信濃川の源流域苗場山、柱状節理、河岸段丘
南アルプス(中央構造線エリア)3000m級の山々と中央構造線。隆起と侵食のダイナミズム北岳、中央構造線露頭、南アルプスの地質
立山黒部北アルプスの隆起と氷河地形立山、黒部峡谷、カール地形、温泉
白山手取川白山火山と手取川の恵み。恐竜化石産地白山、手取川扇状地、化石産地

近畿・中国エリア(6地域)

地域名選出理由主な見どころ
南紀熊野付加体形成と熊野カルデラ。温泉と巨大火山熊野カルデラ、橋杭岩、温泉、枕状溶岩
山陰海岸日本海形成と多様な海岸地形鳥取砂丘、玄武洞、城崎温泉
隠岐日本海形成時の地殻変動と島の成り立ちローソク島、国賀海岸、黒曜石
島根半島・宍道湖中海日本海形成と汽水湖の成り立ち島根半島、宍道湖、地蔵崎
火山と断層が作る地形。近代化遺産との共存笠山、明神池、須佐ホルンフェルス、萩の町並み
Mine秋吉台日本最大のカルスト台地と鍾乳洞秋吉台、秋芳洞、カルスト地形、化石

四国エリア(4地域)

地域名選出理由主な見どころ
室戸プレート沈み込みによる隆起の記録室戸岬、タービダイト、海岸段丘
四国西予四国山地の形成と海岸地形カルスト、海食崖、段丘、鍾乳洞
土佐清水四国最南端の地質。黒潮と大地の出会い足摺岬、ジョン万次郎の生地、花崗岩海岸
三好四国山地の隆起と吉野川の侵食が作る渓谷美大歩危小歩危、祖谷渓、結晶片岩の地層

九州・沖縄エリア(9地域)

地域名選出理由主な見どころ
島原半島雲仙火山と平成噴火の記録雲仙普賢岳、平成新山、島原温泉
阿蘇世界最大級のカルデラと巨大噴火阿蘇カルデラ、中岳火口、草千里
おおいた姫島黒曜石とアスファルトの火山島黒曜石産地、アスファルト、火山地形
おおいた豊後大野阿蘇火砕流と深い谷が作る景観原尻の滝、沈堕の滝、阿蘇溶結凝灰岩
霧島霧島連山の火山活動と温泉霧島連山、韓国岳、えびの高原
桜島・錦江湾現在も活動を続ける火山。噴火と共生する暮らし桜島、錦江湾の海底火山地形、溶岩原
三島村・鬼界カルデラ鬼界カルデラの巨大噴火史と離島火山鬼界カルデラ、硫黄島、竹島
五島列島(下五島エリア)大陸縁辺の火山島と海食地形。キリシタン文化との融合鬼岳、溶岩海岸、教会群、海食崖
喜界島サンゴ礁の隆起でできた島。10万年で200m隆起隆起サンゴ礁段丘、百之台、サンゴ石灰岩

地質が産んだ産業―鉱山との関係

日本のジオパークの多くは、地質学的特徴が鉱山資源を生み出した地域と重なっています。例えば、糸魚川ジオパークはヒスイの産地として知られ、佐渡ジオパークは佐渡金山の歴史と密接に結びついています。

プレート境界や火山活動が生んだ鉱物資源は、日本の近代化を支える重要な基盤となりました。地質学的な背景を理解することで、産業の発展と環境問題の両面から地域を捉えることができます。

関連記事:明治日本の近代化を支えた主要な鉱山一覧とその歴史的意義

また、鉱山開発は産業発展の一方で、環境への負荷も生み出しました。足尾銅山の鉱毒事件など、公害問題の歴史を学ぶことも重要です。

関連記事:鉱山と工業発展の裏で広がった環境被害の歴史―日本の公害史―


関連する学びの場

ジオパークで得た地球科学の知識は、博物館や科学館でさらに深めることができます。国立科学博物館や各地の自然史博物館では、岩石・化石・地質標本を通じて地球の歴史を体系的に学べます。

関連記事:科学館―知的好奇心を実装する場:関東の総合科学館・博物館で体感する『科学の系譜』

また、ジオパークと同様に、日本の技術や知識を「国土に実装してきた歴史」を体感できるのが土木遺産です。玉川上水や黒部ダムなど、自然と人間の営みの接点を読み解くことで、地球科学がいかに社会を支えているかを理解できます。

関連記事:社会の生存基盤を読み解く:選奨土木遺産に見る、知と技術の実装


まとめ

ジオパークは、地球科学と社会をつなぐ窓口です。火山、断層、化石、鉱物といった地質遺産を通じて、私たちが暮らす大地の成り立ちを理解し、地域の産業や文化、さらには防災への意識を高めることができます。

各地のジオパークを訪れ、大地の仕組みを体感してみてはいかがでしょうか。

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